フィレンツェのヴィーナス
先日の投稿で少し触れた、メディチ家別荘にある「フィオレンツァ」―フィレンツェのヴィーナス。時の為政者コジモ・デ・メディチ1世がフィレンツェの擬人像として、ジャンボローニャに作らせました。
完成後はカステッロの庭園の噴水の頂点に置かれていましたが、ペトライアの庭園に移され、今は作品保護のために別荘内に展示されています。
なぜ、ヴィーナスをフィレンツェの擬人像として作らせたのでしょうか?それはコジモが尊敬し、親近感を覚えていた古代ローマ帝国のアウグストゥス帝に倣ったためです。
コジモ1世は自身を初代古代ローマ帝国のアウグストゥス帝の後継者および再来と見なしており、彼の様な新しい時代の創始者と見立てて芸術品を作らせています。
また、占星術的に2人は関連があったことからも、コジモはアウグストゥスと自分を近い存在と思っていました。
そのため、アウグストゥスが養父カエサルの霊廟に水から上がるヴィーナスの絵を帝国の擬人像として捧げた様に、コジモもフィレンツェの擬人としてヴィーナス像を作らせましました。
時代はマニエリスム(後期ルネッサンス)。引き伸ばされた体に艶かしさをたたえた肢体。マニエリスムの特徴です。水浴びから上がったばかりのしっとりとした肌の質感や水を吸った髪を乾かすために髪の毛を絞っている様子がユニークです。彼女の髪の先から水が滴るように設計されています。
このヴィーナスはアウグストゥス帝に倣っただけでなく、聖書のエピソードや政治的意図も込められています。
旧約聖書のモーセがシナイ山から水を溢れさせ民の喉の渇きを潤した事、キリスト教では水が「教義」という救いのシンボルである事、そしてヴィーナスから流れる水はトスカーナ大公国の民を救うコジモの善政であることも意味します。
美しいだけでなく、ローマ皇帝、聖書、プロパガンダと様々な意味や背景が重なっているヴィーナスです。
フィレンツェにいらっしゃる時の参考になさってみて下さい。
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