「完璧」と謳われたルネッサンスの画家
整った、しかし、確かに登場人物たちの感情の高ぶりが伝わってくる作品。本当にそこで使徒たちがイエスに話しかけているようです。
この作品の前に初めて立った時、暫く言葉が出てこなかったのを今でもよく覚えています。頭が真っ白になった様な。スタンダール症候群の元となったスタンダールもサンタ・クローチェ教会でジョットの作品を見た時、こんな風になったのだろうかと思いました。
構図、空気、空間表現、色の配置、解剖学。全てが完璧です。実際、作者のアンドレア・デル・サルトは「完璧な/間違いのないアンドレア」とも呼ばれていました。
ですが、それまでのルネッサンスに見られた、静謐さやしっかりとした輪郭、色で描かれた描写から少し異なります。
時は1520年代前半、ラファエッロが亡くなり盛期ルネッサンスから後期(マニエリスム)へと移る時です。ラファエッロで頂点を迎えた「理想主義」から、徐々に人体の均整を崩し、異様に明るい色やメランコリックな雰囲気をまとった画風になっていきます。
この作品にも朱色が所々に見られます。
この作品には、アンドレアの画家としての素晴らしさを伝えるエピソードがあります。
1529年、スペイン軍がフィレンツェに攻めてきた時、フィレンツェの人達は周囲にあった教会や修道院を破壊しました。スペイン軍の拠点とならないようにするためです。
ですがサン・デイ・サルヴィだけは、アンドレアの「最後の晩餐」があまりにも美しかったため壊すことができず、無傷で今日まで残されました。
展示室にはアンドレアが下絵として描いたポーズのデッサンもあります。少し中心部から離れていますが、見る価値は大です。
フィレンツェにいらした時の参考になさってみてください。
Cenacolo di San dei Salvi
住所 Via di San Salvi, 16, 50135 Firenze
時間 火曜−日曜 8:15–13:50
https://cultura.gov.it/luogo/cenacolo-di-andrea-del-sarto-a-san-salvi