
若年社員の組織適応を促進するプロアクティブ行動の役割とは?
若手社員の組織適応の課題は何でしょうか?
どのような行動が個人をうまく組織に適応させるのでしょうか?
この論文は、若手社員がプロアクティブ行動(能動的な行動)を取ることによって、組織適応が促されることを実証的に論じたものです。
少々、専門用語が多めのまとめになります。かつ、分析のプロセスを省略している部分があるので、詳しく読みたい方はぜひ本論文をお読みください!
かつ、尾形先生の若年就業者の組織適応: リアリティ・ショックからの成長の本もご紹介しておきます▼
論文名:若年就業者の組織適応を促進するプロアクティブ行動と先行要因に関する実証研究/尾形真実哉さん
プロアクティブ行動とは?
プロアクティブ行動とは「個人が自分自身や環境に影響を及ぼすような先見的な行動であり、未来志向で変革志向の行動」と定義されている(Grant & Ashford, 2008)。
具体的にどのような行動がプロアクティブ行動として捉えられているのか、先行研究を紹介します。
Grant & Ashford(2008) は、プロアクティブ行動の種類として、「キャリア戦略とイノベーション」「社会的ネットワーク構築」「組織社会化行動」「問題解決行動」「学習と自己開発活動」の 5 つをあげ、これらのプロアクティブ行動の原型を「フィードバック探索行動」と「社会的関係性構築」の 2 つの行動に求めている。
Seibert, Kraimer & Crant (2001)では、プロアクティブ行動として「発言(voice)行動」「革新行動」「政治的知識 (political knowledge)」「キャリア主導(career initiative)」の 4 つを提示している。
Ashford & Black(1996)は、プロアクティブ行動として「情報探索」「フィードバック探索」「一般的社会化」「ネットワーキング」「上司との関係構築」「職務変更の交渉」「ポジティブフレーミング」の 7 つを提示し、情報探索とフィードバック探索を「意味形成行動」、ネットワーキ ングと上司との関係性構築を「関係性構築」に 集約し、それに「職務変更の交渉」と「ポジテ ィブフレーミング」を加えた 4 つをプロアクティブ行動としている。
Wanberg & KammeyerMueller(2000)においても、Ashford & Black (1996)が提示した 4 つのプロアクティブ行動 のうち情報探索とフィードバック探索を含めた 「意味形成」と「関係性構築」「ポジティブフレー ミング」の 3 つのプロアクティブ行動に焦点を定めている 。
これだけの先行研究を見るだけでも、プロアクティブ行動がさまざまな行動が含まれていることがわかります。
プロアクティブ行動を喚起する要因
詳細は割愛しますが、プロアクティブ行動を喚起する要因を大きく以下の3つ取り上げています。
職場特性
・職場の「コミュニケーシ ョンの活発さ」
・職場の「学習への積極性」
・職場の「革新への積極性」
職務特性
・「職務自律性」
・「他者フィードバック」
・「仕事フィードバック」
・「タスク依存性」
・「組織外相互作用」
・「タスク重要性」
個人特性
・「達成動機」
・「時間展望(time perspective)」
・「自己効力感(self-efficacy)」
・「集団主義(groupism)」
組織適応
組織適応という概念について、知識、感情、態度・行動という三つの観点から捉え、七つの下位次元から構成されるとしています。
適応とは、生物が環境に合うように自らの身体や行動を変容させること、またはその状態をさす(中島他,1999)。
研究方法
対象:若年就業者(2011 年度の入社 1 年目から 7 年目まで)
調査手法:質問紙調査を中心に、定量的なデータ分析を実施。
分析手法:因子分析は、主因子法によるプロマックス回転で行われた。 具体的な質問項目と因子分析の結果が表 1 である。「プロアクティブ行動 → 組織適応」と「プロアクティブ行動に影響を及ぼす環境要因 → プロアクティブ行動」 の2回の重回帰分析を行うこととした。分析の流れとしては、プロアクティブ行動が成果変数である組織適応に与える影響について分析を行う(分析1)。 それにより、プロアクティブ行動の重要性を把 握する。続いて、そのようなプロアクティブ行 動を喚起するためには、どのような要因が求め られるのかを理解するために、プロアクティブ 行動の喚起要因(職場特性,職務特性,個人特性)に関する分析を行う(分析2)。

分析1のプロアクティブ行動が組織適応に与える影響についての重回帰分析である。その結果が表 7 である。

次に、分析2のプロアクティブ行動に影響を及ぼす要因(先行要因)に関する分析である。プロアクティブ行動を従属変数にし、職場特性と職務特性、個人特性を独立変数とした重回帰分析を行ったのが表 8 である。

考察
革新行動は役割社会化と職業的アイデンティティ、主観的業績に影響を及ぼしていた。積極的に新しいことにチャレンジできるなど、仕事に対して自律的に判断し、行動できていると考えられるため主観的業績や仕事のやりがいが得られ、アイデンティティの確立に良い影響を及ぼすと考えられる。
ネットワーク構築/活用行動は、仕事社会化と会社社会化に影響を及ぼしていた。
ポジティブフレーミング行動は、離職意思と情緒的コミットメントに有意な影響を及ぼして いた。
フィードバック探索行動は、役割社会化と離職意思に影響を及ぼしていた。
感想
上記の考察からもわかるように、若年就業者の組織適応を支援するためには、個人のプロアクティブ行動を促進する施策として、若年就業者がフィードバックを求めやすい環境を整えることが1つの鍵となることがわかります。具体的には、1on1を仕組みとして取り入れたり、日常的にフィードバックの重要性を伝えることなど、組織の管理者や上司は、若年就業者が自発的に行動しやすいような適切な支援とサポートを提供する必要があります。
とても面白かったので、尾形先生の他の論文や本も拝読させてもらおうと思います。