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人事評価と目標管理とは何なのか?②

前回は、人事評価と目標管理とは何かについてまとめました。今回は、目標管理に関係する、評価結果のフィードバックとパフォーマンス・マネジメント、コーチング、内発的動機づけと外発的動機づけ、自己決定理論についてまとめていきます。

論文名:評価者面談が被評価者の動機づけにもたらす効果の研究 ―コーチングと自律性支援に着目して―/久保田康司さん
※この論文は、仮説を導くまでで完結している論文です。


フィードバックとは何か

 中原(2017)はフィードバックとは、以下のような部下に対する 2 つの働きかけであると述べている。①情報通知:たとえ耳の痛いことであっても、部下のパフォーマンス等に対して情報や結果を正しく通知すること(現状を把握し、向き合うことの支援)。②立て直し:部下が自己のパ フォーマンス等を認識し、自らの業務や行動を 振り返り、今後の行動計画をたてる支援を行うこと(振返りと、アクションプランづくりの支援)。
また、フィードバックには職場の複数のメンバーから主にマネジャークラスに対して行 う 360 度フィードバックがある。Chappelow (1998=2011: 32)は、360 度フィードバックとは、 広範囲な仕事仲間からマネジャーのパフォーマ ンスについての意見を組織的に収集する方法のことであると定義している。

フィードバックを受ける対象者が自分だけでは知ることができない情報を、第 3 者によって客観的な事実にもとづいて提供することがフィードバックだといえる。

パフォーマンス・マネジメントとは何か

人事評価は何のために行うかというと、従来は部下の業績や職務行動を評価して処遇に反映 させるという人事管理的目的をもっていたが、近年では業績向上を基軸にして人材の能力開発や行動の変革をもたらす人材育成の目的を持つものへと変わってきている(Fletcher 2001)。

この流れはパフォーマンス・マネジメントという言葉で説明がなされており、人事評価からパラダイムシフトと呼べるほどの大きな転換点といわれている(Latham and Mann 2006)。パフォーマンス・マネジメントは人材の評価や開発に連 動したマネジメントツールとして英語圏の諸国で普及しており(須田 2005)、日本でも外資系企業や大企業を中心に注目されている。

本論文のパフォーマンス・マネジメントの定義は、高橋(2010)が述べている、「個人成果の向上を目的として、 職務上のパフォーマンスについての評価データ をフィードバックするとともに、データ解釈と目標設定のプロセスで、積極的にコーチングの技法を活用すること」とする。

Luthans and Peterson(2003)はフィードバックとコーチングを効果的に組み合わせることによって、自己認識や個人業績を向上できるだけでなく、それ以外にも職務満足と組織コミットメントを高め、転職意思を低め、組織全 体の成果を向上させることができると述べている。

コーチングとは何か

コーチングを日本に普及させた株式会社コー チ・エイの伊藤(2010)はコーチングとは対話を重ねることを通して、クライアント(コーチ ングを受ける対象者)が目標達成に必要なスキル、知識、考え方を備え、行動することを支援し、 成果を出させるプロセスと定義している。

Grant (2008=2011: 29)は、コーチングは結果に焦点をあてて、目標設定やブレーンストーミング、活動計画を通して自己指向的な学習を育てることを目指す活動であると述べている。

※ここではコーチングの分類については割愛します。

コーチングの効果とアセスメント

松尾(2015)は管理者コーチングに関する実証研究をレビューし、その効果について 4 点でまとめている。
第 1 に管理者コーチングは、部下の職務満足、スキル、サービス品質へのコ ミットメント、業績を高める。
第 2 に管理者コー チングが部下の業績に好影響を及ぼすには特定の条件が必要であるとして、部下が受ける毎月 のコーチングの程度が、部下の業績改善にポジ ティブな影響を与える。
第 3 に管理者コーチングは部下個人だけでなくチーム活動にも影響する。
第 4 に「人間の能力が発展可能である」と いう考えを持っているマネジャーの方が、「人間の能力は変わらない」という考えを持っているマネジャーよりも、部下に対してコーチング 活動を実施する傾向が見られる。

コーチングの行動を評価するアセスメントツールについては、Kim(2014)が引用している Ellinger et al.(2011)のコーチング行動測定の 5 つの質問項目や、日本におけるコーチングの専門機関であり最大手の株式会社コー チ・ エイが 提供する Accelerate your Coaching Effectiveness(以下、Ayce) など様々なものがある。

内発的動機づけ・外発的動機づけとは何か

Deci(1980=1985: 40)は外発的動機づけと内発的動機づけを次のように定義している。外発的動機づけとは、人びとがある活動を遂行することに対して金銭、賞賛、罰の回避などの報酬を受け取ることに動機づけられている場合である。内発的動機づけとは明白な外的報酬が全く存在せず、当該活動そのものに動機づけられている場合である。

Kohn(1993=2001: 404)は、内発的動機づけをある活動をそれ自体のために ―つまり、それが与えてくれる満足のために― したいという欲求のことであり、外発的動機づけをある活動をすれば何か他の利益が得られるので、それを求めてその活動をすることであると定義している。

活動そのもの自体が目的であることが内発的動機づけであり、活動することによって何か他のものが得られることを目的としているのが外発的動機づけ であるといえる。

※ここでは外発的動機づけと内発的動機づけの分類については割愛します。

自己決定理論とは何か

Deci and Flaste(1995=1999: 212)は職場とそのメンバーにとって、最適な目標を設定するもっとも良い方法は、彼らを目標設定の過程にかかわらせる ことである。自律性を支援し、目標の設定に積極的な役割を果たさせることで、仕事や課題に 専念できる最適な目標が得られると述べている。 この考えは自己決定理論(self-determination theory) として説明がなされている。

Deci (1980=1985: 33-4)は「意志」を定義したうえで「自己決定」の定義づけを行った。意志については次のように定義をしている。「意志とは、自らの欲求をどのように充足すべきかを 選択することのできる、人間の力量である」。 次に自己決定について次のように定義している。「自己決定は自己の意志を活用する過程である」。

また Deci and Ryan(2002)は個人の自己決定、つまり自律性の程度によって個人のパフォーマンスが左右されるとする理論であるとも述べている。

まとめ

本論文では評価者面談と被評価者の動機づけとの関係について取り上げ、評価者である上司がどのような面談を行うことで部下の動機づけができるのか、特に上司によるコーチングと自律性支援に着目し、部下の動機づけに対する効果について先行研究のレビューを通して考察した。

本論文は先行研究のレビューを通して考察を行い、仮説を導出することを目的にしている。仮説は以下の通り。

「評価者面談において、部下に対しコーチングを行い、部下の自律性を支援する上司ほど、 コーチングを行わず、自律性を支援しない上司に比べてより部下の動機づけをすることができる」。
この仮説に対する実証研究を進めることで、人的資源管理論での理論的な貢献が可能であると思われる。

この論文は仮説を導くまでで終了でしたが、先行研究のレビューがとても丁寧で分かりやすく、大変参考になることが多かったです。

そして、評価者面談や人事評価は、フィードバックとコーチングを効果的に組み合わせることで自己認識や個人業績を向上できることにつながるという先行研究も興味深かったです。

また、職場とそのメンバーにとって、最適な目標を設定するもっとも良い方法は、彼らを目標設定の過程にかかわらせることである(Deci and Flaste 1995=1999: 212)のも、重要なポイントですね。

この次のステップの実証研究が気になります!


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