事業に人がぶら下がる組織形態ではなく、事業が人にぶら下がる組織を。/矢部寛明さん
4月より、「より良い組織づくりの実践者インタビュー」を個人の活動として始めることにしました。このインタビューを通じてより良い組織とは何なのかを探求し、言語化していきたいと思っています。
なぜインタビューを始めようと思ったのかの詳細は、こちらのnoteをご覧ください。
https://note.com/yuka5139/n/nda520323dc1f
インタビューは認定NPO法人底上げ代表理事の矢部寛明さんにご協力いただきました。
インタビューのなかで出てきた「become who you are」あなた自身になる、という言葉がとても印象的でした。あなた自身になる、とは一体どういうことなのか。ぜひご覧ください。
※原.....原田
矢.....矢部
自己紹介
矢部寛明
1983年生まれ。
早稲田大学文化構想学部卒。ビリヤードで国体2位の実績を持つ。
23歳で早稲田大学に進学。大学時代に行った”ママチャリ日本縦断の旅”で、宮城県気仙沼のとある旅館に一晩お世話になった。大学4年時に発生した東日本大震災で気仙沼が被害を受けたとを知り、迷わずボランティアとして旅館に駆けつける。内定を辞退してNPO法人底上げを立ち上げ、述べ8000人以上のボランティア窓口となる。「本質的な復興は人材育成にある」という考えの下、現在は高校生への人材育成事業を中心に様々な活動を行う。
2016年、底上げはマイクロソフト社「Upgrade Your Worldプログラム」でローカル非営利パートナーとして選ばれる。同年、認定NPO法人となる。2018年4月より東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科講師。
認定NPO法人底上げについて
(原)もうかれこれ8年ほどの付き合いのあるひろさんにインタビューさせていただくのは不思議な感じですが、どうぞよろしくお願いします(笑)まずは認定NPO法人底上げ(以下、底上げ)について教えてください。
(矢)ほんとだよね(笑)底上げは、現在6名の組織です。宮城県気仙沼市、福島県の楢葉町、オンラインでやっている教育事業がメインかな。具体的に、気仙沼では探究学習を軸にした教育事業、対話型の合宿企画運営、楢葉町ではアートを通じた子どもの居場所づくりをしています。そこから高校生が主体性や自ら学ぶ力、課題解決力を身に着け、同時に地域に根差した活動を通し郷土愛を育むことで、新しい社会やワクワクする地元をつくることができる人材を育成をしてます。東日本大震災直後に立ち上げて、現在は11年目になります。教育事業を通じて東北をより面白くしていきたいと思い、活動しています。
夜通し対話した価値観のすり合わせ
(原)1つ目の質問にいくのですが、底上げの皆さんが働きやすくなるためにしている工夫とかってあるんですか?
(矢)そうだなあ.....基本的には指示は一切しません。事業を立ち上げるときの意思決定はトップダウンで行うのではなく、実施する当事者本人の意思によって決定します。それを周囲のメンバーがサポートする。成⻑、拡大を求めず、模倣可能な仕組みに落とすことを意識しながら活動を行っています。事業に人がぶら下がる組織形態ではなく、事業が人にぶら下がる組織というか。その点から、マネッジメントの必要性がほとんどないんです。誰もやらされ感で仕事をしていないと思います。
(原)なるほど。なぜそんな雰囲気を作れるのでしょうか?
(矢)全員が同じ方向を見てるからじゃないかと思っています。同じ方向っていうのは、底上げに関わることで笑顔が増えること、不幸せだった人が幸せになること、東北全体が面白くなることを僕たちは目指しています。
(原)同じ方向は、どうやってすり合わせたんですか?
(矢)立ち上げ初期から価値観のすり合わせをめちゃくちゃしました。元々僕たちのコアな価値観があって、そのコアな価値観に賛同してくれた仲間が加わってくれた感じです。
価値観のすり合わせでいうと、稀に見るすり合わせ具合だと思います。どうやってすり合わせたかというと、本当に毎晩、「これまでどう生きてきたの?」「これからどうやって生きていきたいの?」という問いと対話を繰り返して。震災後、同じ屋根の下で一緒に生活してきたからこそできたことかなと。そう考えると、これはなかなか真似できないと思うからこそ、底上げの特異性だと思います。
(原)そんなに毎晩仕事仲間と話し合うこと、なかなかないですよね。
(矢)最近、とある人から「成宮さん(底上げのメンバーの一人)ってアクティブですね」と言われる機会がありました。それを聞いた僕は率直にめちゃくちゃ嬉しくて。もう、
親族のような感じなんですよね。メンバーの存在が近い。底上げの事業って素晴らしいですねって言われることよりも、メンバーを褒められることの方が嬉しいんです。
話を圧倒的に聴くこと
(原)事業よりもメンバーのことを褒められる方が嬉しいって関係性、素敵です。親族のような関係性っておっしゃってましたが、どうやってそんな関係性を築いてこられたんですか?
(矢)まず、そんなに簡単に築ける関係性ではないと思っています。その上で、相手の話をひたすら聴きます。圧倒的に聴きます。元々僕はベースとして、人に興味があります。
相手の話を聴くことができるかどうかって、相手への興味があるかどうかだと思うんですよね。そういう意味で僕は、底上げのメンバー全員に興味があるし、知りたいと思ってます。
(原)相手への興味ですか。
(矢)エモーショナルリテラシー(感情を正しく理解・認識し、表現できる力)という言葉があるのですが、それが人への興味を持てるかどうかにすごく重要だと思っていて。
相手が何を感じているのか読み取る力が底上げは圧倒的に高いんです。相手が今困っているな、とか苦しそうだな、とか察する力がある。そんな時に、その人に手を差し伸べることができる。それがチーム内で自然とできていると思います。
(原)チーム内で困っている人がいたら自然と手を差し伸べることができるかってとても大切ですよね。底上げはそれが自然にできているんだなと聞いていて思いました。でも、手を差し伸べることができない人やチームもいるのはなんでなんでしょう。
(矢)生きていく中で内発的動機(物事に対する強い興味や探求心など「人の内面的な要因によって生まれる」動機付け)に蓋している人も多いんじゃないかなって。
例えば、四六時中ずっとアリを追っている子どもに、「そんなことしないで勉強しなさい!」と言われてしまったら、自分のやりたいに蓋をして生きることになります。
教育の最終ゴールは何か?と問うた時に「become who you are」あなた自身になる、という言葉が僕は思い浮かびます。
目の前の人、一人ひとりがあなた自身になっても良い、あなた自身でも良い、とまずは肯定されることで、人にも貢献できるようになるのかなと。底上げは、そんな環境を常に社会にも組織内にも創るように意識しています。
良い組織とは社会関係資本が貯まって、自然界の調和が取れる組織。
(原)最後に、ひろさんにとって「良い組織」とはどういう組織だと思いますか。
(矢)その組織が増えれば増えるほど、社会関係資本が溜まって、自然界の調和が取れる組織でしょうか。僕は、人間の最大の不幸は、孤立だと思っています。最大の幸福は人と人との関係性の中で生きることができることじゃないかと。
そしてこれまで地球を犠牲にして、自然界に負荷をかけてビジネスをやってきた一面があるとも思っています。地球という限られた資源はそろそろ限界だろうなと。
だから、良い組織とはその組織が増えれば増えるほど、社会関係資本が貯まって、自然界の調和が取れる組織だと考えています。
(原)社会関係資本、ですか。
(矢)社会関係資本はソーシャルキャピタルとも言われていて、人々の関係性やつながりを資源としてとらえる概念のことです。
僕は働く上で一つ決めていることがあって。
事業でもプロジェクトでも、何かをやるときに、底上げスタッフの社会関係資本が貯まらないものはやらないということです。お金をいくらいただける仕事であっても、底上げスタッフの関係資本が貯まらないならやらない。
例えば、一昨年、底上げの一人のスタッフが結婚して子どもが生まれたんです。そのスタッフの社会関係資本はどうすれば広げていけるだろうとずっと考えています。
子育てって孤立に向かいやすいからこそ、いかに孤立させないかって大事だなと。
仕事も、組織づくりも、いつも本質は何かということを、忘れずにいたいです。
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矢部さんのお話を聴くなかで、今回出てきたキーワードは「圧倒的に相手の話を聴くこと」と「価値観の擦り合わせ」。
相手に常に興味を持ち、自分から耳を傾けること。そして、相手と自分の違いを認めながら、大切にしている価値観を共有して分かち合っていくこと。その姿勢が、社員との関係性をより良くしていくことに結びつくのだと気づかされました。
誰だって自分に興味を持ってくれるのは嬉しい。でも、興味を持つだけじゃあまり意味はなくて、そこから圧倒的に話を聴く、違いを認め合う、互いを知るという行動が重要だと思いました。
より良い組織づくりには、他者との関係性をどう築いていくかが大切な要素になる気がします。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今後もインタビューは継続していくので、最新情報をキャッチしたいと思ってくださった方はよろしければ下記のアカウントのフォローをお願いします◎
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次回のインタビューnoteは、つむぎ株式会社代表取締役の前田亮さんです!