デブリーフィング・チェックリストを用いたコルブの経験学習の改定モデル
私は現在、立教大学大学院リーダーシップ開発コース(以下、LDC)に通っている2年生です。
LDCの特徴の一つでもありますが、ひたすら振り返りをします。授業後の振り返り、ワークショップ後の振り返り、レポートでも振り返り…..
振り返りを日常でやっていると必ず出てくるのが、コルブの経験学習サイクル。
今回まとめる論文は、コルブの経験学習サイクルに限界を論じ、改訂モデルを提案している論文です。
論文名:Makoto Matsuo and Masaki Nagata. (2020). “A revised model of experiential learning with a debriefing checklist” International Journal of Training and Development, ISSN 1360-3736.
研究目的
・既存のコルブの経験学習モデルを改訂しその限界に対処すること
・改訂モデルに合わせた経験ベースの研修プログラムをデブリーフィングするためのチェックリストを作成すること
コルブの経験学習モデルと批判
コルブの経験学習モデルは、以下のように、具体的経験→省察→概念化→実践という4段階の学習サイクルから成る「経験学習モデル」理論として提唱しています。
一方、この経験学習モデルは批判もあります。
以下、論文で批判されている先行研究です。
1)学習に強い影響を与える感情に対処するプロセスが含まれていない(Vince, 1998)
2)仮説検証や根本原因分析といった反省的分析のプロセスが含まれていない(Miettinen, 2000; Miller & Maellaro, 2016)
3)変革的学習のような深い学びに繋がる批判的反省が取り入れられていない(Kayes, 2002; Reynolds, 1999)
4)習慣的な思考や行動を破壊するために必要な、アンラーニングのプロセスがない(Chang, 2017)
5)予期された経験と予期せぬ経験を明確に区別していない(Ellis et al.)→ 予期せぬ経験はしばしば不快感を引き起こすが、変化の触媒となる
コルブの経験学習の改定モデル
上記のことから、コルブの経験学習モデル(1984)は様々な分野で普及していますが、高次の学習を説明できていないため、既存の4段階のモデルから、6段階のモデル(+デブリーフィングチェックリストの開発)とすることで、深い学習の実現が可能となる、ということを論文では提案しています。
上記の図を説明します。
①予期される経験と、予期されない経験
・能動的な実験から生じる予期される経験だけでなく、「予期されない経験」にも注意を払う必要がある。予期せぬ経験は職業選択の機会だけでなく、変化の引き金にもなり得る(Ellies et al., 2006; Krumboltz, 2009; Mitchell et al.)
・深いレベルで学習するためには、行動計画に付随する予想される経験だけでなく、予測できない予想外の経験についても振り返る必要がある(Dixon, 2016)
②感情の管理
・感情は学習を刺激することも、抑制することもあり(Gilmore & Anderson, 2011)、恐怖、疑念、不確実性などの不安はうまく管理できると学習を促進するが、そのような感情は時に防衛、回避、自己正当化を促進する(Vince, 1998)
・深い学習や批判的内省には、不安や恐れ、混乱が伴うことが多いため、バランスの取れた内省を達成するために、感情を適切にコントロールする(Atkinson, 1999; Collin, 2004)
③反省的分析
・事実を適切に記述し(Ellis et al.)、失敗と成功の両方を特定・原因を分析(Miller & Maellaro, 2016)、弱みだけではなく、強みも見直す必要がある。
④抽象的概念化
・自分の長所と短所を理解し、問題の原因と解決策を特定し、思い込みや信念を検証し、代替的な行動方法や改善行動計画を提案することで教訓を抽出し、結論を導き出す。経験を分析することによって、個人的な理論や暫定的な理論が展開され、修正される。
⑤アンラーニング
・習慣的な思考や行動を破壊するためには、経験学習プロセスにアンラーニング(陳腐化した知識、価値観、行動を諦め、放棄することを個人が意識的に選択すること)のステップを含める必要がある(Chang, 2017)。
⑥積極的実験
・抽象的概念化から抽出された解決策、代替的行動方法、改善行動計画を実行に移すステップ。
Technical Level & Critical Level※イラスト中央部分
・各学習ステップが技術レベルとクリティカルレベルの両方で実行できることが前提。技術的なレベルでは、個人はスキルやテクニックに焦点を当て、その有効性を検証し、古くなったものや時代遅れのものを捨て、技術的なアクションプランを実行する。クリティカルレベルでは、予期せぬ体験の際に生じた信念、思い込み、価値観が持つ防御的な反応をマネジメントすることを学び、それらの有効性を検証する。
まとめ
コルブの経験学習モデルを見直し、より深い学びを実現するために、感情の側面、批判的内省、アンラーニングの重要性を示唆しました。
また、クランボルツの偶然学習理論を参考に、経験学習モデルに「予期していない経験」の要素を取り入れました。→予期せぬ経験は、更なる批判的反省と変容的学習のきっかけとなりうる(Ellis et al.)
今後は改訂モデルを定量的・定性的に検討し、更なる発展を目指す必要があるとのことですが、既存のコルブの経験学習モデルを改訂したことはとても重要な提案だと感じました。
こうやって研究は、発展していくのだろうなあ……