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リーダーとフォロワーの相互作用と関係性に着目したリーダーシップの理論と歴史。
大学院の修士論文で、私は LMX (Leader Member Exchange)理論を取り扱いました。LMXは端的にいうと、「一人のリーダー」と「一人のメンバー」という関係に焦点を当てたリーダーシップ論です。
今回は、LMXについて、リーダーシップのこれまでの歴史から、LMXの特徴と定義についてまとめていきます。
リーダーシップの歴史
上司と部下 の関係性は、垂直的関係であり垂直的関係にかかわる統制―服従軸については、社会心理学や組織心理学の領域において、リーダーシップの研究が蓄積されてきた(松井 2010)。
初期の研究では、リーダーシップは、リーダーが持つ機能であり、リーダーからメンバー(部下)への働きかけ、すなわちリーダーの社会的影響力としてリーダーシップが 把握され、検討が試みられてきた。たとえば、垂直的リーダーシップは、1)公式リーダ ーからメンバーへの垂直方向の影響力であり、2)特定の個人がリーダーとして公式に任命されることにより生じる現象であり、3)公式リーダーのみのリーダーシップに着目する概念である(堀尾・中原 2022)。
しかし、リーダーシップ研究が多様な広がりを見せる中、リーダーに焦点を当てるばか りでなく、リーダーからの働きかけを受けるメンバーの視点からリーダーシップの解明を試みる研究や、リーダーとメンバーとの関係性からリーダーシップを捉えようとする研究が現出している。
リーダーとメンバーの関係性に着目するリーダーシップ研究は、リーダ ーとメンバーの二者間の関係性に焦点を当て、望ましい結果を生み出す二者間の関係性とはどのようなものかを明らかにすることを基本的課題としている(竹内・竹内 2009)。従来のリーダーシップ研究はリーダー個人の特性等について言及しているのに対し、LMX理論ではリーダー(上司)とフォロワー(メンバー・部下)の二者の関係性からリーダーシ ップを捉えているという点が特徴的と言える(澤田・金井 2023)。
LMXの定義
LMX は、様々な研究者により多様な定義がなされてきた。小野によれば、LMXの定義に関しては統一的な見解がとれていないが、多くの研究で共通する見解として、リーダーとフォロワーとの間の社会的交換の質を意味するとされる(小野 2011)。
Graen and Uhl-Bien によれば、LMX はリーダーとメンバーが資源を交換することで関係を発展させる理論である。この交換される資源には、情報の共有、意思決定への関与、仕事の割り振り、自由裁量、業績、能力など、 いわゆる社会的資源が含まれる。これらの資源を互いに提供し合う関係ほど、質の高い LMX 関係とみなされる(Graen and Uhl-Bien 1995)。
LMX が、具体的にどのようなものから構成されるのかというと、相互的支持、信頼、連帯感、裁量範囲、注意、忠誠という 6つの要因が多くの研究で共通して指摘されている(小野 2011)。他にも、GraenandUhl-bienはLMXの構成要素を以下の 3 つに整理している。1 つ目は「尊敬(respect)」であり、これはお互いの能力を尊重し合うことを指す。2 つ目は「信頼(trust)」であり、他者に対して信頼を深めていけるという期待を持つことを意味する。3 つ目は「連帯責任 (obligation)」であり、これは社会的交換を行う者同士が義務を果たしつつ、共通の目的に向けたパートナーシップを築く可能性を示している(Graen and Uhl-bien 1995)。
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LMXの発展と、効果
効果的なリーダーシップは、リーダーとフォロワーが相互の信頼、尊敬、義務を特徴とする質の高い関係を維持するときに生まれ、LMXの発展は、個人的関係や友人関係とは対照的な職場関係の特徴に基づくものであり、この信頼、尊敬、および相互義務に基づくものである(Graen and Uhl-Bien 1995)。フォロワーの視点に立つと、交換関係の質は、リーダーの感情的支援と価値ある資源の交換の度合いに基づき、組織内でのメンバーの運命を決定する上で極めて重要であると考えられる(Sparrowe and Liden 1997)。
高質なLMX 関係が形成されると、見知らぬ他人(stranger)の関係から知人(acquaintance) の関係へ、さらに成熟(maturity)関係へと漸進的に相互信頼関係が育まれ、その過程で効果的なリーダーシップが生まれるとされている。
この関係発展過程は、リーダーシップ形成のライフサイクル(life cycle of leadership making)モデルと呼ばれ、信頼が関係発展の基盤に深く関わると考えられている(Graen and Uhl-Bien 1995)。
リーダーシップ形成のライフサイクルについては以下のnoteで少し触れています。
上司と部下の関係性は、上記の先行研究でも述べられているように、信頼関係が築かれていた方が良いのはその通りだとは思うのですが、実はLMXにもデメリットがあると言われています。そのデメリットについてまとめたのが、以下のnoteになります。興味がある人はよければ読んでみてください!
リーダーシップを、リーダーとフォロワーの相互作用に見出す研究で最も研究蓄積があるのが、LMXとも言われています。
修士論文は一旦提出しましたが、引き続きLMXについては先行研究含めて、探究していこうと思います。