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サントリーリザーブ

この夏、猛暑をしのぐため長野県の蓼科へ旅行したのだが、義弟が軽井沢にマンションを借りていて、一度メシでも食おうということになり、彼の車で軽井沢の御代田町付近をウロウロした。
御代田(みよた)は、日本を代表する作曲家・武満徹の仕事場があった場所で、彼の作品名(MI・YO・TA)でもある。たまたま今夏、知人の紹介で彼が出演したテレビ番組や作品に触れる機会があり、興味が湧いた。

武満徹といえば、1967年に作曲した、琵琶と尺八とオーケストラのための作品「ノヴェンバー・ステップス」が有名で、僕も高校の音楽の授業で聴いたような気がするけど、琵琶の叩きつけるような演奏と、オーケストラの徹底した不協和音の響きが耳障りで、当時はスルーしていた。大学に入って男声合唱のクラブに入り、クラシック畑の邦人の作品にも広く接することになったが、武満の作品に触れることはなかった。唯一の例外は、谷川俊太郎の詩に曲をつけた「死んだ男の残したものは」というシンプルながら力強い、一種の反戦歌で、これを聴いた時は「ウム」とうなづいたが、その後は忘れていた。

武満のインタビュー番組でも映されていたが、御代田の雑木林は豊かな風味があり、それは今夏、義弟のSUVの窓から見える景色も同様だった。

御代田周辺、車窓から

武満は50をすぎてからは前衛的な手法は影をひそめ、どちらかというと穏やかで奥行きのある調性型の音楽を作るようになり、映画音楽や合唱曲、ギター曲、企業のCMソングまで幅広く手がけるようになった。その中には篠田正浩監督の「はなれ瞽女おりん」や黒澤明監督の「どですかでん」「乱」も含まれる。

こうした姿勢の変化は、現代音楽界からは必ずしも好意的な評価ばかりではなく、保守的な世界に戻ってしまった、といった批評も受けるようになったようだ。しかし彼は全く意に介さず、小室等や井上陽水といった当時のフォークシンガーたちとも交流をし、彼らと共にコンサートを開いたりした。

僕は彼の音楽の中に、しばしば長野の雄大な自然の息吹を感じることがある。
蓼科を舞台にした山田太一の晩年の傑作ドラマ「今朝の秋」の主題歌もそうだが、以下にリンクを貼った、サントリーの委嘱で作ったCM「サントリーリザーブ」もその1つだ。
親しみやすく奥深い。巨匠の編み出す繊細なオーケストラの響きにしばし心を奪われる。

武満徹


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