<小旅行記>上野―御徒町ー新橋、飲み歩き
最近、タッチラグビーをやっていた頃の友人と、御徒町周辺の店で、月例で飲んでいる。今回は、私が「林家正蔵の四時から飲み」で紹介された店を二軒、はしごすることにした。
時間は四時(16時)ではなく、17時30分に最初の店を予約して、そこで待ち合わせることにした。最初の店は、上野たる松。たる松は上野店と御徒町店と二つあり、TVでは御徒町店を紹介していたが、たぶん空いていると思って上野店を選んだ。
私は、待ち合わせより15分程早く店に着いた。席を予約していたこともあり、先に入ってさっそく飲むことにした。居酒屋に入って酒をお預けになるぐらい辛いことはないから、私は我慢せずに注文してしまう。ところで、店の入口には「予約以外満席」と書かれた紙があった。たぶん、外国人観光客が飛び入りして、店が酷く混雑するのを嫌っているのだろう。実際、「満席」とあるが、私が入った時間帯の1階席はほどよく混んでいたが、予約した2階席はまだ誰も来ていなかった。
私は、生ビールとお薦めの日本酒を同時に頼み(だって、ビールはすぐになくなってしまうから)、つまみに、冷やしトマト、あぶりしめ鯖、焼き厚揚げを頼んだ。空いていることもあり、すぐに注文したものがきた。友人が来る前の独り飲みタイムだ。
そのうち、私の周辺に予約したお客がぼちぼちとやってきた。皆老人ばかりだ。一組だけ、おばちゃんグループがあったが、おそらく近所の人だろう。客層と店員への慣れた注文の仕方を見ると、地元の人たちに愛されている店だとわかる。そして、そこに不慣れなよそ者が入ってきて混乱させられたくないのだろう。それが、「予約以外満席」とした意味なのだろうと思う。しかし、そうした程よい空虚感・寂寥感が、なぜか心地良い。落ち着くのだ。この店は、若者が大声出してはしゃぐのではなく、老人がちびちびと飲みながら、過去を振り返る場所なのだ。もっとも、私はぐびぐびと大酒を飲んでしまうし、振り返りたくない過去ばかりだが。
そのうちに友人が来た。日本酒の種類が多いので、友人が別の日本酒を注文した。私は、その後バイスという聞きなれないものがあったので、ホッピーに代えて注文してみた。それは、紫蘇とリンゴ風味の炭酸水で、焼酎で割るといわゆるサワーになった。たぶん女性向けの酒だろう。友人はつまみの追加で、イカ焼き、いぶりがっこ、赤ウインナーを注文した。一通り飲んで食べ、店の酒とつまみがだいたいわかったので、早々に店を出た。
上野から御徒町に向かってぶらぶらと歩く。道には外国人観光客が多い。皆、手頃な居酒屋に入って喜んでいる。「どうぞ、日本の庶民文化を楽しんでください。ここは、ミシュランとかグルメとかとは全く無縁の、酒を飲むためにある場所ですから。」と、私は心の中で彼らに話しかけている。
そのうち御徒町に着いた。友人が「天ぷらまたは串揚げが食べたい」と言うので、周辺をぶらぶら探すと、大阪風串揚げの店が目に入った。しかし、どうも店の雰囲気が暗い。それで、近くにあるネットで評判が良いらしい春子屋という居酒屋に入った。
春子屋は賑わっていた。ちょうど通りに面したカウンターが空いていたので、そこに座る。目の前で板さんが調理している特等席だ。また、ホールのお姉さんの仕事ぶりが快活で良い。ビールと日本酒は既に飲んだので、ここは王道のホッピー(白)にした。つまみは、刺身にするものを半生で揚げたアジフライ、かき揚げ、おでん(しらたきと大根)を頼んだ。アジフライは半生の食感が良かったのだが、私としては昔ながらのアジフライが好きだ。そう、「古い人間」なのです。
カウンターの目の前にはおでんの大鍋があり、板さんが次々と手際よく皿に盛っていく。注文が多いようだ。また、焼き鳥もあちこちの席に運ばれている。金曜日の夜でもあり、ここは若者で大繁盛なのだ。私の背中は、店の出入り口に面しているが、私たちがカウンターに座った後、お客が次々にやってくる気配を感じる。けっこうな人気店らしい。
若者の店は老人には居心地が良くはないので、ここも早々に退散する。また、場違いな私たちが長居することで、他のお客が入れないのは不憫でもあるからだ。そもそも私たちは、一か所で長く飲むタイプでもない。
御徒町から山手線で新橋に向かった。新橋に着いた後、ネオンサインが賑やかな通りを、おじさん二人が歩いていく。この辺りは玉石混交の界隈だが、やはり外国人観光客の姿が多く目に付く。また風俗営業の客引きもあちらこちらにいて、私たちおじさん二人組にそっと声をかけてくる。私は、「皆さん、ご苦労様です」と心の中の声を返しながら、痛む足を引きづって通り過ぎていく。まだアルコールが足りないらしい。私の足は、なぜかアルコールが十分に入ると痛みを感じなくなる。所詮、私の痛みとはこの程度のものなのだ。
しばらく行くと、ビアライゼの目立たない小さくて黄色い看板が目に入った。ドアを開けると、中はかなり繁盛している。皆、旨いビールを飲んで楽しそうだ。店員に「二人です」と伝えたら、ビアーマイスターがビールを注ぐ姿が見られるカウンターを最初に案内された。しかし、ちょうど奥のテーブルが空いたので、そちらにした。私はビアーマイスターの姿を間近で見るのが楽しいが、それは次回一人で来たときのお楽しみにしよう。
私は友人に、「ここはメンチカツが有名ですよ」と教えたが、それまでけっこう食べているので、友人は、ソーセージとにんにく揚げを頼んだ。私は他に注文して残してももったいないので、特に頼まなかった。しかし、ビールは丸エフの生を注文しなければ来た意味がないので、迷いなく頼む。日本一のビアーマイスターが注ぐビールは、きめ細かな泡となめらかな琥珀がきらめいて、たぶん日本でもっとも美味しいビールの一つだと思う。私はあっという間に、一杯目を飲み干してしまい、二杯目を注文した。二杯目も一杯目と変わらずに旨い。こうしてビールを飲めるのは、存外幸せなことだと思うのだ。
友人はもう出来上がってしまったので、今日の三軒目も、一軒目と二軒目同様に早々に切り上げた。本日のはしご酒は、これで打ち止めだ。新橋の駅で、神奈川方面に帰る友人と別れて、私は有楽町に向かった。
有楽町に着いたころ、時間は21時過ぎだった。人通りは賑やかで、まだまだ店はやっている。しかし、四軒目の酒を飲む気分ではなかった。「そうだ、何か締めに喰うかな、立ち食いそばがあれば良いのに」と思いつつ、東京方面のガード下をぶらぶらと探してみたが、若い人たちが沢山いる居酒屋ばかりで、そば屋はなかった。
仕方なく有楽町駅近くに戻ってきて、以前から気になっていたココ壱のカレーに入った。せっかくだからトッピングを付けようと思い、メンチカツを選ぶ。空いている時間帯でもあり、待つことなくすぐに出てきた。カウンターで福神漬けをたっぷりと皿に盛り、コップに水を入れて、奥の席へ向かった。
「締めのそば」ならぬ、「締めのカレー」となったが、意外といける。考えてみれば、カレーは肝臓に良いはずなので、締めに食べるのは健康に良いのかも知れない。そして案外旨い。「今度からは、有楽町のカレーで締めにするかな?」と思いつつ、家路に着いた。明日の朝に測る血圧は、たぶん高くなっていることだろう・・・。