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【映画】「女たち」/女としての生きづらさと田舎の閉鎖性を厳しい視点で描く

新型コロナと緊急事態宣言という言葉がもはや日常会話レベルになってしまった昨今。これまで通りにマスクなしで生活できる日はやってくるのか、不安になってしまいますが、映画界もコロナの影響を多大に受けております。

ここで深く言及はしませんが、映画館が20時までの営業とか、休業要請があるとか、そこに対して業界内からも多数の反発の声が聞かれました。結果的に休業要請から21時までの時短要請ということで緩和されはしましたが、依然として厳しい状況が続いています。まぁ映画業界に限らずですが。

さて、今回はコロナの影響を受けて2021年5月21日公開予定から延期され、同年6月1日に無事公開された『女たち』という映画について。

ちょっと先に申し上げると個人的にかなり期待値高かった作品ということもあり、期待を超えることがなかったのです。ただ正直少しの残念さはありつつも、作品の持つテーマ性や監督の伝えたいメッセージは響く人には響くと思います。特に、個人的には倉科カナのキャリアベストな演技だと思うので、チャンスや興味があれば是非とも観ていただきたいと思います。

①『女たち』/作品紹介(あらすじ)

主人公の美咲は、母の介護をしながら地域の学童保育所で働いている。東京の大学を卒業したものの、就職氷河期世代で希望する仕事に就くことができず、恋愛も結婚も、なにもかもがうまくいかず、40歳を目前にした独身女性である。娘を否定しつづける毒母、そんな母に反発しながらも自分を認めてもらいたいと心の奥底で願う娘。そこに「介護」という現実がのしかかってくる。お互いに逃げ出したくても逃げ出せない。あるとき、美咲が唯一心のよりどころとしている親友・香織が突然命を絶ち、いなくなってしまう。美咲にとって、養蜂家として自立する香織は憧れだった。美咲の心もポキリと折れ、崩壊へと向かっていく。(映画『女たち』公式サイトストーリーより)

あらすじにもある通り、主人公の美咲(篠原ゆき子)は就職氷河期に就職に失敗しながら、40歳手前にしてパートタイマー、独身なうえ、実家では半身不随の母を介護しているという過酷な日々を送っています。

この美咲のもつパーソナルな問題が、現実の社会問題とも強くリンクしており、本作を観て何を思うかというのが主題になります。

さらにW主役である香織(倉科カナ)も同時に重い問題を抱えており、彼女はあらすじの通り、突如命を絶ってしまうのです。

彼女らの抱える問題がどのようなものか、劇中で出てくるコロナ禍という現実とのリンクの部分も踏まえて、後ほど核心部分には触れないようにややネタバレ要素ありで解説していこうと思います。

▼映画『女たち』公式サイトはこちら。

②『女たち』/監督紹介とメインキャストの紹介

次に、監督のほか、本作で重要になるメインキャストの紹介をしていきます。

◆監督:内田伸輝

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2012年『おだやかな日常』が釜山国際映画祭にてワールドプレミア上映後、東京フィルメックス、ロッテルダム国際映画祭、テッサロニキ国際映画祭他、国内外多数の映画祭で上映されるなどして注目を集めます。

本作『女たち』主演の篠原ゆき子とはこの『おだやかな日常』でもタッグを組んでいます。

遡って2010年『ふゆの獣』では、第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞するなど、演出力にも定評のある映画監督でございます。

監督ご自身もかなり穏やかで優しそうな印象の人柄で、『女たち』のドキュメンタリー『女優たち』でも彼の人となりが感じられると思うので、U-NEXT加入されている方であれば、是非ともご覧いただければと思います。

◆篠原ゆき子(美咲役)

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1981年生まれの神奈川県横浜市出身の女優、篠原ゆき子。デビュー時は篠原友希子の漢字名義で活動を開始しました。

近年でいえば、隣人同士の些細な対立が大事件へと発展していく『ミセス・ノイズィ』で特に注目された女優さんです。脇役としても『楽園』や『浅田家!』、『罪の声』、『あのこは貴族』などの話題作にも立て続けに出演している、演技力には映画ファンからも好評を集めるなくてはならない存在。

個人的には2010年ドラマ『モテキ』で、29歳にして同級生を誘惑する大人びた高校生役をしていたのがかなり印象深いです。

2014年の『共喰い』では、第28回高崎映画祭最優秀新人女優賞も受賞しています。

今回は、倉科カナとのW主演ですが、基本的には篠原ゆき子が中心で、しかもかなりエモーショナルなシーンがクライマックスに満載なこともあり、彼女自身本作にかける意気込みや想いはかなりのものだと思われます。

◆倉科カナ(香織役)

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1987年生まれ、熊本県熊本市出身の倉科カナ。私も同い年で、同じ九州出身ということもあり、デビューしたての若手の頃からかなり応援しているファンです。

ゼクシィやチョーヤ梅酒などのCMで注目を集め、今はあまり見る機会はないですが、抜群のプロポーションもあり、グラビアでも大活躍しておりました。ご自身は大きな胸が逆にコンプレックスだったという話もあり、今映画やドラマでも演技面での飛躍がめざましいのはファンとして嬉しい限りでございます。

浅利陽介との朗読劇『木洩れ日に泳ぐ魚』の感想を以前noteにUPしているので、よければお読みください。

本作では、あらすじにもある通り、自ら命を絶つという衝撃的な展開を迎えますが、そこに至るまでの心の機微、彼女の抱える闇の部分に注目いただければと思います。

今回の作品にかける想いは、役作りのためにショートカットにしたことから窺えます。今やショートカットは彼女のトレードマークになっていますね。

◆高畑淳子(美津子役)

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1954年生まれ、香川県善通寺市出身の高畑淳子。テレビドラマ、映画と長年活躍を見せる名女優です。

『3年B組金八先生』の保健の本田先生役としてが特に馴染みが深いのではないでしょうか。『白い巨塔』の東教授(石坂浩二)の妻役も印象強く、それ以降バラエティ番組にも多数出演する人気っぷり。声優としても活躍するなど、彼女の多才さは青天井です。

本作では間違いなくこの人が作品を一段上のレベルに引き上げています。MVPですね。先ほど少し触れたドキュメンタリーでも、この役との向き合い方や半身不随という難しいパーソナリティをどう表現するかというところをかなり真剣に考えているのがわかります。周りの俳優たちも彼女に大きく影響されていることでしょう。

◆サヘル・ローズ(田中マリアム)

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1985年生まれ、イラン出身のペルシャ系サヘル・ローズ。

彼女は美しい声が特徴的で、ナレーターやコメンテーターとしても活躍しています。バラエティ番組や報道番組の出演が印象強いですが、テレビドラマや映画にもちょくちょく出演しています。

ただ個人的には女優の印象が薄かったので、本作では意外な掘り出しものを掘り出してしまったという感覚です。ペルシャ人の介護士ながら、日本で育ってきたパーソナリティを誇るキャラクターでしたが、とても上手く演じていました。人としての魅力度でいえば、主人公の美咲よりも優っていました。

③コロナの世界観ー田舎だからこその生きづらさ

新型コロナウィルスの感染拡大は、緊急事態宣言や感染者数から見ても、都会の方が大きな影響を受けているように思われます。

本作は製作期間が思いもよらぬコロナ禍と被ってしまったこともあり、作中もコロナの影響を受けている社会を打ち出しています。日常生活や移動の最中など、登場人物たちはみなマスクをつけています。

印象的だったのは、美咲がアベノマスクと揶揄される国民に配布されたあのマスクをつけているところ。劇中で美咲は「便利だよ。洗って繰り返し使えるし」と発言します。ただ、会話の相手・直樹(窪塚俊介)は「なんでそんなのつけてんだよ」と少し引いた目で見ています。

これは現実世界でも、アベノマスクは世間的にはマイナスな見られ方をしていて、マスクの供給不足な中、国民に配布されるに至ったわけですが、行き渡る頃にはマスクはドラッグストアなどで簡単に手に入るようになっていました。

作中でも美咲が鼻を出しながらもこのマスクをつけていることから、アベノマスクの小ささを揶揄しているように感じられ、製作陣からの悲痛なメッセージなのかなとも受け取れました。

小出恵介が識者である医師として、夏場の緊急事態宣言下でのマスク着用について言及しているシーンも印象的でした。このコメントに限らず、自宅でしか過ごしておらず、情報の受取口がテレビしかない美咲の母・美津子の情報弱者っぷりも、現状の世間への訴えかけのように感じ取られました。常にテレビの情報に踊らされているんですよね。小出恵介はこの映画の出演で日本映画復帰となったようです。

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田舎だからこそ、少数派はみんなから叩かれてしまうという危うさ。スーパーで声を荒げる美咲をみんなが冷たい目で見るシーンも印象的でした。

④母親の介護に翻弄される中年独身女性

本作で一番肝といえるテーマが家族、親の介護ではないでしょうか。

監督が一番伝えたいテーマかどうかはわかりませんが、やはり高畑淳子演じる美津子が物語の推進力であったこと、美咲の人生を考えたときに多大なる影響を与えてしまっていることからかなり重要な部分でしょう。

美津子は半身不随で、自分で歩くことができません。美咲は学童保育所で働きながら、家に帰ると母親の介護に勤しみます。とはいえ、介護の世話に慣れたホームヘルパーがいて、母・美津子は美咲を罵倒するばかり。

就職でもうまくいかず、結婚もしていない美咲。母親からは否定されてばかりで、自己肯定感も下がるばかり。実際に本編では何もかもが上手くいかない厳しい現実ばかりが押し寄せてきます。

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彼女は彼女なりに努力はしているんです。田舎で働き口が少ない中、なんとか紹介で勤めることになったのが学童保育所。ただ、そこでも次から次に試練が訪れるんですね。

彼女自身、世間を知らなすぎるという見方もできますが、社会から取り残され、親の介護で自分の時間を奪われるのはある意味、社会的な被害者とも見てとることができます。

根本的な問題として、なぜ彼女が親に固執するようになっているのか、その辺りが本作のポイントなのではないかと思います。まぁ人間っていうのは上手くいかない時、言い訳を常に探しているんですよね…。

⑤養蜂場で働くということ

倉科カナ演じる香織は養蜂場を営んでいます。常に防護服に身を包み、蜂蜜を瓶詰めして、それを販売することで生活をしています。

美咲とは少し年が離れていますが、小学生の頃からの知り合いで、今は互いが心の拠り所のような親友同士。何でも話し合える仲良し同士ではありますが、実はいつも笑顔で明るく振る舞う香織にも、美咲が知り得ぬ暗い過去があったのです。

実際、本編で香織が何に悩んで、何が原因で自殺するのか、それが直接的に語られることはありません。ただ、ここをあえて明かさず、鑑賞者の想像力に委ねたのは、たとえば自分の身の回りに同じようなことが起こった時、その友人が亡くなる理由を誰しもが知ることができるわけではないからだと思います。

人生にはすべてにおいて答え合わせがあるわけではありません。じゃあ、その謎を背負ったままで、生きていく以上、どのように自分自身がその問題と向き合っていくのかを考えることが大事なんじゃないかと。そのようなメッセージとして受け取りました。

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くわえて、香織が養蜂場で働く意味について。彼女は自分自身が目を背けたいほどの辛い過去があると想像させられます。防護服に身を固め蜂から身を守るというのは、彼女自身痛みを伴う現実から身を守るための手段だったと考えられます。

その答えが明かされることはないにしても、劇中に香織は美咲の恋人と対峙したときに異様に怯える様子を見せます。香織は過去に男性から暴力を受けるなどしてトラウマを抱えているのではないかと考察できるのです。

防護服を脱いで、心を許す美咲と開けた大草原の中でワインを飲むという行為は、彼女にとって唯一身を守る重いプロテクターを外せる貴重で大切な機会だったと考えられるのです。だから、理由はどうであれ、一緒にお酒を飲むことを美咲から断られた時、自分が安心を持って過ごせる場がなくなってしまったという暗澹とした思いに追い詰められてしまったのではないかと思うのです。

⑥まとめ

人間、どんなに希望や夢があっても、そこには障害があり、思い通りには行動できないことがあります。自分自身と向き合い、乗り越えることができる場合もあれば、思うようにうまくいかないことだって出てきます。

人生においては後者が大半ではないでしょうか。だけど、人生に絶望するのではなく、周りの人と支え合って強く生きていく心構えが重要なのではないかと思うのです。

本作はどのようにクライマックスを迎えるのか、美咲は大きな苦難に押し潰されそうになりながらも、一つの答えを導き出します。

個人的には演出的に少し説明不足な部分が多く、スッキリとはいかなかったのですが、本記事を書きながら思考の整理を行なうことで自分なりの本作の伝えたいメッセージや答えを導き出せた気がします。

高畑淳子の驚異的な表現力、倉科カナのキャリアベストとも感じられる素晴らしい演技など見所は十分にあるので、少しでも気になった方は劇場で鑑賞し、自分なりの考え方を導き出していただければと思います。そんな中で答えに窮したとき、このnoteを考える一つに参考にしてもらえたら嬉しいです。

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最後に私のFilmarksのレビューを以下に貼り付けておきます。あまりいいことは書いていませんが、この記事を書きながら自分なりに考えを整理できたことで本作を観てよかったなとは感じることができました。FilmarksにUPしたばかりよりも少しだけ点数も上げております。


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