ショートショート「ぼくと妖精」
ぼくは幼い頃、妖精が見えた。
その妖精はぼくが公園で遊んでいると、どこからともなく現れて、そして気がつくと一緒に遊んでいるのだった。ぼくと同じぐらいの身長で、髪はきらきらと輝いていて、瞳は大きくまん丸で、そして不思議と心が躍るような香りがした。
ぼくはその妖精と一緒に遊ぶのが大好きだった。でも、お母さんはぼくがそのことを話すとあんまりいい顔はしなかった。
「迷惑がかかるといけない」
それがお母さんの口癖だった。ぼくはなにが迷惑なのかさっぱり分からなかった。それに妖精はいつも楽しそうに笑っていたのだ。
そしてぼくは小学生になった。すると同じクラスに例の妖精がいたのだ。ぼくは驚いた。妖精はてっきり学校なんかには来ないだろうと思っていたからだ。でも、ぼくはとても嬉しかった。これで毎日妖精に会える。そう思っていたのだ。
ところがある日、妖精は学校を休んだ。次の日も、その次の日も妖精は学校に来なかった。ぼくは心配だった。なにかあったのだろうか。しかし確かめる手段はなく、ぼくは妖精のいない学校に毎日通っていた。
それから数ヵ月経った頃だろうか。ある日いつも通り学校へ行ってみると、そこにはなんと妖精がいたのだった。ぼくは嬉しかった。そしてすぐに妖精の元へ駆け寄った。
「ねえ、なんで学校を休んでいたの?」
しかし、妖精はなにも言わなかった。ただ寂しそうに笑うと、お昼前に学校から姿を消してしまったのだ。
その日の学級ルームで先生が言った。
「みなさんに悲しいお知らせがあります」
ぼくはその瞬間に妖精のことだと思った。妖精になにかあったんだ。胸がモヤモヤとしたのを今でも覚えている。
先生は言った。妖精は病気になってしまい、もう学校には来られないかもしれない、と。それを聞いてぼくは苦しくなった。もう妖精には会えない。その思いが涙へと変わっていった。ぼくは深く後悔した。
もっと遊びたかった。もっと話したかった。もっと声を聞きたかった。
妖精はそれから学校に来なくなった。ぼくは寂しかった。妖精に会いたかった。しかし妖精の家も分からないし、病院の名前も先生は教えてくれなかった。胸に穴が開いた気分だった。いつもの景色がいやに色褪せて見えるのだった。
そして妖精がいなくなってから一年ぐらい経った。みんなはもう妖精のことは忘れているみたいだった。だけど、ぼくはずっと覚えていた。もしもう一度会えたなら、ぼくは妖精に言いたいことがあった。思いを伝えたかったのだ。
すると願いが通じたのか、ある日妖精が学校に来たのだった。ぼくは嬉しくて妖精の元へ駆け出した。そしてぼくは勇気を振り絞って言ったのだ。
「ぼくと結婚してくれませんか?」
教室が静かになった。そして次の瞬間に笑い声が響き渡った。ぼくは無性に恥ずかしくなった。でも、もう後悔したくなかった。妖精は目を丸くして驚いていた。そしてみんなが笑う中、妖精はぼくを見つめて、静かに微笑んだのだった。
これがぼくの初恋の思い出だ。思い出しても胸が切なくなる。あの後、みんなから冷やかされ、そしてぼくはしばらくの間クラスの笑い者になってしまった。こともあろうか、妖精までもがぼくをからかう始末だった。
そしてぼくは大人になっていった。気がつけば小学校を卒業し、中学、高校、大学を出て今では社会人になっていた。妖精もぼくと一緒に大人になった。しかし妖精はときどき体調が悪くなるみたいで、ぼくはその度にひどく心配をした。そんなとき妖精はぼくの顔を見ていつものように微笑むと、ぼくが小学生の頃にしたプロポーズをいまだにからかってくるのだった。
それはいつまでも続いた。
今日、ふとそんなことを思い出したのは、きっと久しぶりに妖精と会うからだと思う。ぼくはぼくの子供と一緒に妖精に会いに来ていたのだ。
桜の木の下に一つのお墓がある。妖精はそこに眠っていた。
「ねえ、お父さん、お父さんはお母さんのどこが好きだったの?」
ぼくはまるで妖精のように微笑んで、さあ、と首をかしげた。
「お母さんはね、いつまでもぼくのことをからかっては笑っていたんだよ」
ぼくもいつかは旅立つときがくる。そのとき、また妖精に会えるのだろうか。またぼくをからかってくれるだろうか。
桜の花びらが舞った。ぼくは祈るようにゆっくりと手を合わせた。
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※2018年の作品です。
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