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小説「その後」

 ――であった。        〈完〉

「ふう、やっと終わったな。あー疲れた。全く何だって最後に俺が死ななくちゃいけないんだよ、ったく」
「しょうがないじゃないか、愚痴ったって。まだましな方だって。俺なんて前の時は途中でバラバラにされた揚句に結局最後まで出番なしだったんだぜ?あーでも今回は長編だったなあ。ゆっくり風呂でもつかってみたいもんだよ」
 風呂が現れ、湯気がもくもく立ち昇る。
「ほら、お前が余計な事いうからさ、風呂が出てきたじゃないか。どうするんだよ?文字がふやけたらもう死んだも同然じゃないか」
「大丈夫だって、どうせ実際につかったりは出来ないんだから。それにしても急に現れるなんてびっくりしたなあ。もしかしてまださっきの続きなんじゃないのか?」
「いや、それは無いだろう。だって見ただろ?〈完〉って出ればそこで終わりなんだよ。これは万国共通、昔から変わらない事だったじゃないか。まあ、神の気まぐれでもあったんじゃないか?」
「なんだお前、無神論者のくせにここぞとばかりに神を出しやがって。そんな事いうから良くない事が起こるんだよ。例えば、雨とか降ってきたらどうするんだよ」
 雨が降る。
「うわ、本当に降り出した!おい、どうするんだよ、傘も何も持ってないのに」
 傘が現れる。
「今度は傘が出てきたよ。やっぱりまだ続きなんじゃねえのか?それにしてもこの傘、何にもその、感じるところが無いな。傘だって色や形、重さとか少しでも表現してくれないとさ、何だか味も素っ気もないんだなあ」
 傘はボロボロでとても臭い。そして雨は止んだ。
「止むんかい!しかも臭いし!一体何でこんな目に遇わなくちゃいけないんだよ。お前が変な事言うからじゃないのか?」
「ええ、俺のせいか?そりゃ罰当たりな事は言ったかも知れないけど、お前が余計な事言ったから雨も傘も出てきたんじゃないか!」
 ゴーっと音がする。
「…おい、この音は一体なんの音なんだ?」
 ふいに、何かがついた。
「おい、一体何がついたんだよ。何に何がついたんだよ!着いたのか点いたのか憑いたのかぐらい漢字に直してくれよ。こっちはそれが無いと分かんないんだから」
「まあ、そう言うなよ。最近は特によくある事じゃないか。大目に見なきゃやってられないよ。そういえばこんな話、聞いた事あるか?」
「…何をだよ」
「いやね、神って訳じゃ無いんだけど、この世界って二次元じゃん?ある学者の見解では更に三次元ってのもあって、その世界にも俺たちと同じような奴がいるんだってさ」
「あーその話ね。昔よく聞いたわ。はいはい、確かに可能性はあるかも知れないけどさ、第一に証拠がないよ、証拠がさ。まあ別に信じない訳でもないけどさ」
「……俺さ、ふと思うんだよね。実はこの世界って誰かに支配されていて、俺達の行動も全て決まっていてさ、なんだか頭がおかしくなりそうな話だけどね」
「つまり、俺たちは誰かに操られていてそいつらの思う様になっているって事か?ふん、馬鹿らしい。俺は自分の意志でここにいるんだしさ。まあ、もし仮にこの意志そのものまでもコントロールされてたら、ああ考えるのも嫌になる」
 その時、眩しい程の光りが辺りを包んだ。
「おい!なんだよ急に、眩しいな!てか暗かったのか?」
 そして消えた。静寂という夜の化け物がそっと近寄ってくる。
「消えたし。何か分からんが化け物だってよ。ただ静かなだけなのによ」
 静寂に呑みこまれ、息絶えた。
「おいおい、死んじゃったよ。そんな事で死ぬとは思えないけどなあ。てか一体何がしたいんだよ!もしもこれを聞いてる奴がいたら、答えてくれ!」
 二万円欲しい。
「えっ、二万円?まさかこれって…。そんなものの為に人一人殺したのか?」
 二万円の為だ。
「そうか、ショートショートの入選者は二万円貰えるんだよな。成程ね。分かったから何とかしてくれ!」
 静寂も去り、全てはうまくいった。ハッピーエンドである。
「……ハッピーかどうかは分からんが、とりあえずこの傘を消してくれ。…臭くてかなわん…。」            〈完〉


――――――――――――――――――


※2011年頃の作品です。


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