見出し画像

「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第253話:秋雨に濡れていこう。

「小説はひとつの鏡である」サルトル

★今日は #純文学


 昨日よりも気温が五度下がるそうよ、と彼女が言った。
 朝の風が確かにそれを物語っていた。
 ぼくは出したばかりの長袖に腕を通して、慣れない電車に乗り込んでいった。

 秋雨がつい先日まで猛威を振るっていた夏にさよならを告げる。

「さようなら」

 なんとなく呟いたその言葉に、近い未来の別れを予感しているのかもしれない。ぼくは濡れた靴下に違和感を覚えながら職場に向かった。

 雨は副交感神経が優位に働くから体が重たくなる、とネットに載っていたせいか今日は確かに体も頭も重たかった。
 それだけではなく、慣れない同居生活の疲れと夏の疲れが同じタイミングで吹きだしている気もする。だからかは分からないけど秋雨の風がとても心地よく感じる。

「顔が死んでるわよ」

 職場の人にそういわれときに、なぜかぼくは安堵感を覚えた。雨の音が強まった気がした。

「顔が死んでいる」

 実際にその通りかもしれない。子供がいることなんて重々分かっていたはずだ。お互いに価値観が合わずに我慢することもあると大方予想はしてきた。一人暮らしの時より時間は確実になくなることも、だ。

 ぼくはプールに飛び込んだ。
 そこは水の音しかしない世界。

 冷たい感覚が目を覚まさせる。手足を思いきり動かして水を掻く。肺の中の空気が一気になくなっていく。顔がびりびりと熱くなっていく。ぼくはもうこれ以上我慢ができないタイミングで顔を出して大きく息を吸う。

 黄金色の空気が体に入ってくる。
 肺はもう金色で一杯だ。
 その吸った酸素は体中の一粒ずつの細胞に染み込んでいく。

 そしてぼくの体は黄金になった。

 もう頭の中にはなにもない。
 ぼくは必死で手足を動かしてプールを行ったり来たりする。彼女の顔を思い浮かべる。子供の顔を思い浮かべる。未来に待ち受けている幸せな家族像を鮮明にイメージする。

 大丈夫。
 きっと大丈夫。

 最後のターンをしてぼくは上がった。
 息が切れているが、それがまた心地よく、熱いシャワーを浴びてぼくはタオルで体を拭いた。

 みんな生きるのに必死なんだ。

 そんなことを思いながら、仕事のために玄関に向かった。ドアを開けた瞬間に秋の風がぼくの体をすり抜けていった。

 ぼくだってここで立ち止まるわけにはいかないんだ。

言葉が下手で申し訳ないです。

そういう意味ではないけど言葉尻を捕らえられたらそうなるから仕方ないです。

心が二十代前半レベルで狭くて申し訳ないです。

稼ぎもなくてごめんなさい。

寝坊だってするし遊びだって必要だと分かっているけど。

言葉は難しいね。

頑張ります。

初めての人生、面白いことしか起きない。

今でも、いつでも、

きっと未来の自分が今のぼくを見ていたら必ず笑っていると思うんだ。

苦しいときの思い出ほど笑えるものはないのだから。

今日もありがとう。

今年も、残り98日。

またね。

――――――――――――――――――

最後まで読んでくれてありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。

⇩詳しい自己紹介⇩
https://html.co.jp/yuji_arihara

他にもアメブロ、Twitter、Instagramで、
日記風小説、小説、エッセイ、詩、現代詩、
ほぼ100字小説、俳句、短歌、川柳、エッセイ、
絵などを毎日投稿しています。

書く内容は全部変えています。
よかったらぜひ一度見ていただけると幸いです。

⇩アメブロ⇩
(ブログ、詩と小説とたまに絵を毎週末に投稿)毎朝更新
https://ameblo.jp/arihara2/entrylist.html

⇩Twitter⇩
(詩、現代詩、ほぼ100字小説)毎日更新
https://twitter.com/yuji_arihara

⇩Instagram⇩
(俳句、短歌、川柳、詩、現代詩、ほぼ100字小説、エッセイなど)毎朝更新
https://www.instagram.com/yuji_arihara/

⇩Facebookページ⇩
(お知らせやSNSの更新通知など)不定期更新
https://www.facebook.com/yuji.arihara.n/

どなたでもフォロー大歓迎です。

あなたの人生の
貴重な時間をどうもありがとう。

いいなと思ったら応援しよう!

有原野分
支援していただけたら嬉しいです。