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「初めての人生の歩き方――毎晩彼女にラブレターを」(有原ときみとぼくの日記) 第238話:悪意は悪意たらしめる。
「あなたの夢は何か、あなたが目的とするものは何か、それさえしっかり持っているならば、必ずや道は開かれるだろう」ガンジー
プールサイドで次のセクションに移動しようとしているとき、昼から出勤の後輩がつつと近寄ってきた。
「聞きました? Iくん辞めるそうですよ」
頭から氷水をぶっかけられたような衝撃だった。
「え、マジで?」
と、情けない返答をするので精一杯だった。
Iくんはまだ学生でぼくよりもずいぶん若いが、不思議とここ最近一緒にキャンプに行ったり海に行ったりと仲良くなったのだ。
そんな彼がまさか辞めるなんて……。
「今日夕方からバイト来るそうですよ。話来てみてくださいよ」
ぼくはそのまま頷いて次のセクションへと移動した。プールサイドに飛び散る水の音がどこか遠く聞こえた。
彼はまじめだった。仕事もきちんとこなすし、態度も棘がないし、自分が学生の頃とは比較にならないほど大人で、それでいて一緒にいて楽しかった。
だから辞める理由を本人から聞いたとき、ぼくはとても情けなくなったんだ。
「きちんと仕事していたのに、決めつけで上から叱られて、それがもう何回も続いて、つい感情的になって……」
外の街灯の光の中に雨が見えた。
「ぼく、あの人たちを大人だとは思えないんです。確かにぼくも感情的になったところはありますが、もう彼らの下では働けません」
すらりとした顔から滲み出る臭しさと悲しさが、雨を一層激しく降らせる。
「そっか」
絞り出すようなぼくの声は、もうなんの力もなかった。
以前から学生さんに対しての当たりが厳しいと問題になっていたが、まさかこんなくだらないことをするなんて、それもぼくと同年代ぐらいの人たちが十以上も年下の人を、などと考えているうちに退勤時刻になった。
なぜか自分が情けなく感じた。
なにかできることがあったのではないのかと無意味な自己陶酔に浸り、そしてそれすらも悲しみを増加させるだけだった。
「また遊ぼう」
彼は笑った。
「もちろんすよ!」
その言葉に救われたのか、ぼくはそのままプールに飛び込もうかと思った。遠くでその例の人たちが笑っていた。
怒りが込み上げてきた。
人間の怒りは単純で、または幻想で、または安っぽいヒロイズムだ。
ただ自分を満足させたいがためにぼくは怒りを携えて、それでいて周囲の目を気にする小心者だから、ぼくはただ彼らを憐れむことしかできなかった。
なぜだか帰るときに、プールに飛び込みたいと強く思った。
もしかしたら、あのプールにはなにかが潜んでいるのかもしれない。
毎日何百人の人が水に浸かりながら様々な思惑を発散している。怒りに始まり悲しみ憎しみ恨み嫉み罵詈雑言に欲望のままに。
水は感情を記憶しているのではないか、発表した学者もいるようで、もしかしたら彼らはあてられたのかもしれない。
人間の狂気が存在する理由は、人間の狂気が存在しないと困る存在がいるからだ。
それは矛盾するが、きっとそれも人だろう。
だから人は人を殺し、人を呪い、そして人を愛する。
「バイバイ」
その言葉はまだ言わない。
いうつもりなんて毛頭ない。
いつか彼が今日の日を心からよかったと思える日がきたそのときに、きっと彼らの呪いは解けるのだ。
それまでも、そしてそれからも、また遊ぼう。
笑って手を振るその笑顔の裏に、確かな人間があるのを、ぼくは見逃さなかった。
☆
今日はご飯やお掃除ありがとう。
そしてお腹がグルグルのぼくのためにメニューまで考えてくれて、それが本当に嬉しくて、そして申し訳なくて……。
きみと一緒に住んでからまだ二週間も経っていないけど、夜はぼくがいつも一人パソコンをカタカタしているし、なかなか一緒にくつろげなくてごめんね。
ただぼくは幸せだよ。
同じ空間にきみたちがいるなんて。
夢は夢。
愛してるよ。
おやすみなさい。
☆
初めての人生、別れはいつも突然だ。
悲しい。
悲しいけど、それが人生だ。
でも、悲しい。
だから今日は悲しみます。
悲しいときは悲しむ。
人間だもん。
今日もありがとう。
今年も、残り113日。
またね。
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