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茂木健一郎 『東京藝大物語』の感想

私はアートが好きだ。そしてそれを生み出した人間が何よりも好きだ。
自然、アート、人間、それらに畏怖の念を感じ、感動する。
その刹那、自分のちっぽけな存在を感じ、繋がりを感じ、この地球に生まれてきたことに心から感謝する。

「ありがとう! 生まれてきてくれて! みんな!」
「ありがとう! 生まれてきてくれて! 自分!」

この本は、そんな素直な気持ちを思い出させてくれた。

あらすじ

東京藝術大学、倍率40倍は当たり前、浪人は当たり前の、アーティストを目指す人にとっての超難関大学。そこで講師を務めることになった茂木さんから見た、「不器用にしか生きれない、でもなんだか愛おしい学生たち」の藝大生活の記録。青春を感じる物語。

感想

読み終わった後、「あぁ、著作の茂木健一郎さんは、きっと人間を愛しているんだ」と感じた。

特にこの本は特徴が3つあると思うので、そこをまとめていきたい。

①登場人物の多さ
まず、登場人物が異常に多い。有名な芸術家さんの名前はもちろん、学生さんたちもバンバン出てくる。しかもみんな個性が豊かすぎる。
例えば、ジャガーくん(学生)は、感動すると鼻水が出る体質で3年前に藝大に入ったときの鼻水をビーカーに入れて持ち歩いている。しかもそれを人に嬉々として見せてしまう。
他に、杉ちゃん(学生)は、縄文時代をテーマにして活動をしている。ほぼ裸同然の格好で、身体と顔に色々と塗りたくって、街中を走り回ったりする。好きな人を発見して2階から飛び降りて骨折してしまったりもする。
その他、ベネッセハウスの福武總一郎さんや、養老天命反転地の荒川秀作さん、母型の内藤礼さんなど有名な芸術家さんの講義の一部が記載されている。それも相当個性豊かだ。ここに書ききれないので、全てのアート好き、人間好きな人には、ぜひ読んで体感して欲しい。ああ、だから、人間はとても面白い。

上記で、学生の名前をあだ名で書いているように、茂木さんは学生さんのことをあだ名で呼ぶようだ。最初、「講師が学生にあだ名をつける?」と戸惑った。同時に少し不愉快な気持ちになった。「なぜこのような気持ちになるのだろう?」と考えてみたときに、私の中で、「あだ名=身体的な特徴などをバカにしたようもの」という認識だったからだ。(目が出ているから出目金ね、みたいな)
本を読み進めて、茂木さんは、決してバカになどしておらず、愛をもってあだ名を付けていることが分かった。むしろあだ名によって関係が近くなっている認識さえあった。

周りの人間と接するとき、私が大切にするのは「愛をもって接すること」
もちろん、愛は万能じゃない。でも、あるとないのは違う。愛を心がけるだけで、自分も他人も大切に扱えると思う。(茂木さん、最初に勘違いしてごめんなさい)

②用語の多さ
約200ページの短い本にも関わらず、調べたりメモを取りながら読み進めていたらいつの間に5時間ぐらい経過していた。
ただそれが楽しかった。まず最初に驚いたのは美術解剖師という言葉。「ぐわっ! そんなのあるんだ!」というところから、一気に好奇心がぐわんぐわんと警鐘を鳴らしていた。この本は時間を食うぞう!

結果、たしかに時間は食ったが、非常に充実していた。
この下に用語のAppendixでも付けておこうと思う。

③名言の多さ
これでもかとポンポン名言が飛び出してくる。その名言に自分も興奮して、感化された。または考えさせられた。

私が考えさせられた名言をいくつか紹介したい。

名言①:世間の注目という「太陽」は、その資源が限られている。

そうだよね。有名になるのは本当に一握り。才能も運も必要。
この本の節々に、嫉妬という感情が紛れ込んでいたと思う。例えば、有名になった○○というアーティストが気に食わない。あの生徒はこんな悪いところがあるから指摘してやろう、云々。
その嫉妬の源って、世間の注目を浴びれるのは一部だけと重々承知しているからなんだろうね。辛いよね。うーん、本当だったら、「自分は存在しているだけで価値がある、他人にどう評価されようと」って思えたら、ちょっとは生きやすくなるのかな?

名言②:まとめれば、幸福には、二種類ある、ということです。自分の才能を、最大限に発揮している、フロー、ないしはゾーンの幸福。一方で、自分の足りないところを直視せず、これで大丈夫だと勘違いしてしまう、偽りの幸福。

これは茂木さんがもうすぐ卒業する学生さんたちに言ったセリフだ。
幸福論、ぜひ、まとめる前の文章も読んで欲しい。

「私は100%幸福だ」かなりの頻度で、私はそう思っている。
というのも、朝は外に出かけランニングをし、神社で「みんなが幸福な一日を過ごせますように。そして私も幸福で過ごせますように」と願っている。ほぼ毎日だ。
つまり、洗脳だ。朝の一番頭がスッキリしている時間を使って、私は私をコントロールする。私は幸福を求めていて、自分を自分が幸福だと認識している。それは自分が賢くないことの証明かもしれないが、幸福である。(イェイッ)

あと、フロー状態は好きだ。最近日本でも有名になった『2030年すべてが加速する世界に備えよ』を著したスティーブンコトラー博士はフロー状態についてこう言っている「フロー状態に入ると脳が作り出す中でおそらく最強の報酬に関わる化学物質が放出される。だからこそフローがこの世で最も依存性の高い状態だと考えている」
ふむふむ、とても興味がある。だからこそ、どうやったらフロー状態に入れるか考え、実践してみる。(ドバドバァ)

いやー、楽しかった! ありがとうございます、茂木さん!


人生の旅の半ばにして、正しい道を失い、暗い森の中をさまよった。
されど、太陽の光は降り注いでいる、今日も生きている。

表紙の仕掛けは何?

お外でこの本を読んでいたときに気がついた。

「表示の黒文字の質感が違う!!」

びっくりして慌てて、質感が違うところをノートに書き出したが、未だにこれがなんだか分からない。うーん、うーん。これは何?(アハ! 体験ができない・・・)

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Appendix

用語

美術解剖師、クオリア、狩野派、カイカイキキ、モンドリアン図形、ランド・アート、サイト・スペシフィック、インターレーション、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、公募展、オスカーワイルド、動態保存、イデア、ビッグイシュー、リビドー、写実、宝塔

人物

三木茂夫さん、養老孟司さん、村上隆さん、エドウィン・ハーバート・ランドさん、モジリアーニさん、セザンヌさん、ダミアンハーストさん、平山郁夫さん、オスカーワイルドさん、フィリップガストンさん、ウォルター・デ・マリアさん、プラトンさん、フランシス・ベーコンさん、保坂和志さん、重松清さん、池上高志さん、杉本博司さん、小柳敦子さん、宮島達男さん、三遊亭圓朝さん、大竹伸朗さん、ヤノベケンジさん、イサム・ノグチさん、塩谷賢さん、鈴木芳雄さん、福武總一郎さん、内藤礼さん、A.R.ペンクさん、奈良美智さん、村上三郎さん、松井冬子さん

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