いつもの幸せ、涙で前が見えなくなるほどに
この7年間、ヒロくんと何度もやってきた週末のルーティン。
近所の氏神様に参拝をし、渋谷で買い物をして、表参道でいつものお寿司を食べて、満腹な体を慣らす為に六本木ヒルズまで歩いて来た。いつものスタバで次の旅先の話をしながら、ベンティサイズのソイラテを飲み終えても話は尽きない。今日は10キロも歩いたらしい。だいぶ足も疲れている。
たわいもない話をしながら、街から街を気が向くままに歩き、疲れたらご飯を食べたり、カフェでくっちゃべる。
国が変わっても、帰る家が変わっても、私たちがやっていることはほぼ同じ。ニューヨークでもバルセロナでも香港でも南極目前のウシュアイアでも。むしろ、世界中でそれがやりたいのだから。
日曜の夜は、土曜の夜に比べてお客さんの引きが早い。終電の時間なのだろうか、少し前まで椅子取りゲーム状態だった席が続々と空き始める。私たちはケヤキ坂のイルミネーションを背に、ぶらぶら歩きながら麻布十番の自宅へ戻った。
「いつも時間があっという間で、いてもいても時間が足りないよ。ユイちゃんといると」
すでに7年間同棲して、24時間365日を一緒に旅しても、そう思って伝えてくれることが、素直に嬉しい。
どこかへ出かけるとなると、私より鏡の前に立つ時間が長く、おしゃれでボディメイクにも余念がなく美的センスのあるヒロくん。そこらの男にはない洗練された魅力に惹かれて付き合い始めたんだった。
大好きな気持ちはひょっとしたら真夏の打ち上げ花火かもしれないけれど、愛情は尽きないよね。飽きるとかないし。
スニーカーから解放され、足を投げ出し、2人で疲れた〜と裏返るような声をあげながらベットに横たわると、ヒロくんが後ろから私に抱きつきながら言う。
「俺が死ぬ時は、こうしてユイちゃんと添い寝したままスッと逝きたいからよろしくね。その日はいつか必ずくるから。」
そんな切ないこと言わないでよ、知ってるよ。ヒロくんは12歳年上だから、単純に考えても、私より12年先に死ぬんだよね。
行き場のない、心がえぐられるような感情に包まれて、涙で前が見えなくなった。終わりの日がふとリアルに頭を過ったことで、ヒロくんに対する愛しさがこれまでの何倍にも増した。
今日はこのまま寝てしまおう。
7年間いつもありがとう、そしてこれからも。
いつもの幸せは、どの1日をとっても、寝息1つとっても、かけがえのない宝物だね。
おやすみ。