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矢萩多聞「本の縁側」@dddギャラリー  に行ってきた

敬愛する装丁家・矢萩多聞さんの「本の縁側」展に行ってきた。

10代のほとんどを南インドで過ごしたことからインドの伝統や風習にも明るい多聞さん。私が彼と知り合ったのは、雑誌『TRANSIT』の南インド特集でエッセイを書いていただいたのがきっかけ。穏やかで繊細で、けれどもハラの底から出てくるような太い文章はとても好きなのだけれど、これまで装丁のお仕事をじっくり見ることはなかったので、今回はそういう意味でもたまげてしまった。

会場には装丁を手がけた500冊超の本がずらり。本は、装丁に携わるきっかけになった22歳の時の初めての著書『インド・まるごと多聞典』から始まり、時代を追って陳列されている。

時代ごとにおそらく彼のターニングポイントになった作品がピックアップされ制作の裏側が書かれているんだけど、これがどれも面白くて、なんなら全作分のキャプションを読みたい!と思ってしまう。さらに、ボツになった100以上ものラフ案やら、多数の束見本(装丁を決める時の判断材料にする、まっさらな本)も展示されており、一冊の本が出来るまでの手間ヒマや紆余曲折はもちろん、著者・編集者・装丁家の関係や思いが垣間見える。

多聞さん曰く、当初は本をガラスケースの中に陳列する案もあったそうな。「それじゃあ意味がない。本だから。手にとりページをめくってなんぼ」ということで、誰でも手にとれる形にしたとのこと。今回私が最も見たかったのは吉田亮人氏の写真集『Brick Yard』(2015年のパリフォトで賞も取っている私家版・200部限定の写真集で、今はプレミアがついて高額になってしまった!)で、もちろん、こちらも有り難くページをめくらせてもらった。

加えて、彼が長年日本に紹介している南インドの小さな出版社タラ・ブックスのことや、学校での本作りのワークショップ、また現在執筆中という世界の紙を巡る旅の話のこと、などなど、会場では本の”界隈”の展示もある。私が大好きな、子供たちと自然のなかで絵を描く「ちとらや」のことも。これは素晴らしい活動で、うちの子も対象年齢になったらぜひ参加したいと思っているほどだけど、この話はまた改めて。

会場では逗子在住のライターの林さんに久々に再会して、また絵本専門店メリーゴーランドの鈴木さんにもお会いでき、嬉しい偶然。皆、母ということで、保育園で定期購読される児童書の是非について盛り上がった。

紙の手触りや匂いに心安らいだり、本そのものがお守りのようになったり、表紙の色ヤケに思い出すことがあったり、作り手に思いを馳せたり……  本の”縁側”は、なんて豊か。即座に流れてゆくネットとは違い、どこかの国の誰かの書棚に在り続ける本。本とその”界隈”も含めて、未来のために子供のために、私たちが残すべきはどんな本だろう。

「本の縁側 矢萩多聞と本づくり」展
2019年3/30(土)~6/19(水)
京都dddギャラリー


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