
朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第20週/第21週(遺言書の意味、原爆裁判)
第20週〜第21週は、寅子と航一の関係が大きく進展しました。また、法律的には、夫婦別姓や、事実婚、LGBTQ(パートナーシップ)など、「虎に翼」最大のテーマともいえる「家庭のあり方」が大きくクローズアップされました。今回のnoteでは、個人的に気になった「寅子と航一の遺言書」と、「原爆裁判」について取り上げます。
寅子と航一の遺言書の意味
寅子と航一が、事実婚の証として、遺言書の写しを交換したことには、どのような意味があるのでしょうか。
事実婚であっても、近年は、法律婚に近い考え方が採られるようになっています。
例えば、事実婚を解消する際には財産分与に準じた法的請求が認められる傾向にありますし、不貞(浮気)に対しての慰謝料請求も認められます。
社会保険制度でも、事実婚と法律婚はおおむね同様に扱われています。
ただ、いまだに事実婚と法律婚とで明確に差異が生じるのが、遺産相続の場面です。事実婚のパートナーは、現行の相続制度のもとでは「配偶者」と扱われませんので、相続人にはなれません。
事実婚のパートナー同士で遺言書を作成し、相手を受遺者(亡くなったときに遺産を承継する人)に指定することで、事実上、法律婚に近い形で遺産の承継を実現することができます。
つまり、遺言書の写しを交換することは、お互いに配偶者同様の遺産の承継を約束する意味があったのです。
遺産相続において、「配偶者」と同様の地位を相互に約束する。法律家の2人らしい、愛の誓い方です。
同時に、遺産相続において事実婚と法律婚とを区別する現行法の問題を、暗にクローズアップするシーンでもありました。
原爆裁判
寅子が担当することになった原爆裁判。この事件は、後に「下田事件」と呼ばれるようになった、大変有名な事件です。
原爆を投下した米国への損害賠償請求権をサンフランシスコ講和条約で放棄した、日本政府の責任を追及した事件です。
このドラマは、日本における様々な差別問題にスポットライトを当てていますが、原爆問題も、忘れてはならない差別問題の1つです。
被爆者に対しては、長い間、いわれなき差別が続いてきました。
原爆差別問題については、こうの史代「夕凪の街 桜の国」でも描かれています。この作品の感想については、こちらの記事をお読みください。
史実に従いつつ、あえて原爆裁判を終戦記念日ころに取り上げた点は、脚本家やスタッフのこだわりを感じます。
事務所サイトで執筆したコラムの紹介
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