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朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第24週・第25週(桂場のモデル、脅かされた司法の独立ほか)

第24週・第25週は、裁判所人事への政治介入、ブルーパージ問題、少年法改正問題など、司法のあり方にかかわる大きなテーマが史実に沿って描かれていました。今回のnoteでは、最高裁長官、桂場にスポットライトを当てながら、「司法のあり方」について考えたいと思います。

また、尊属殺重罰規定も大きなテーマとなっていましたが、こちらは、次週の考察で取り上げたいと思います。


桂場のモデル

裁判官メンバーの中でも、信念が際立った桂場。そのモデルとは、どのような人物だったのでしょうか。

桂場のモデルは、石田和外です。石田は、かつて帝人事件(ドラマでは共亜事件)を担当し、最高裁事務局などを経て、第5代最高裁長官に就任します。和菓子好きであった逸話もあり、ドラマでは、石田の人物像が、史実に沿って描かれています。

脅かされた司法の独立

都教組事件判決後、自民党が裁判所の左傾化を批判し、調査特別委員会を設置しようとする事件が発生しました。これに対して、最高裁事務総長は、次のような見解を示しています。

特別委員会が設置され、その活動が係属中の事件に対する裁判批判となり、あるいは裁判所に対する人事介入によって裁判の独立をおびやかすようなことがあれば誠に重大な問題である。裁判所は憲法に従い、自らの伝統とする不偏不党、かつ中立な立場において裁判の独立を厳守する決意に変わりはない。

最高裁は、自民党の介入を毅然と拒否し、司法の独立を固持しました。

しかしその後、最高裁は、「裁判官が政治的色彩を帯びる団体に加入することは慎むべきである」との談話を発表します。そして、青年法律家協会のように、最高裁が偏向的と考える団体に加入する裁判官を人事上不利益に扱い、事実上の思想統制を断行しています(いわゆる「ブルーパージ」)。

ドラマで描かれた一連の出来事は、おおむね史実に沿ったものでした。

裁判所が政治介入を真っ向から無視することのできない背景として、内閣の最高裁に対する人事権があります。内閣は、最高裁長官に対する指名権と、その他の最高裁判事に対する任命権を有します。内閣と最高裁は牽制しあう関係にあるため、やみくもに政治介入を排除しきれない事情があります。

桂場は、(史実のとおり)裁判所に対する政治介入を阻止した英雄から、一転して、裁判官の思想信条の自由を脅かす悪役となります。

若き日の桂場が理想とする「司法の独立」とは、「裁判官が、だれからの圧力にも屈さず、自らの信念に照らして判決を下すこと」であったはずです。それにもかかわらず、最高裁長官となった桂場が目指した方向は、「最高裁を頂点とするヒエラルキー」の下でのみ、「司法の独立」が守られるものでした。

「司法の独立の意味も分からぬ、クソどもが!」と管を巻いていた桂場が、その1人となってしまう現実。

穂高先生が、寅子に対して、「君もいつかは古くなる。常に自分を疑い続け、時代の先を歩み立派な出がらしになってくれたまえ。」と語ったシーンが、思い起こされます。

理想と現実

もう1つの大きなテーマが、少年法改正問題でした。非行少年の更生に必要なものは、「愛」か、それとも、「刑罰」か。

裁判所人事と、少年法改正。この2つの問題から共通して連想した言葉が、「理想と現実」です。

少年は愛のある教育をもって更生させるべき。ことような考えを真っ向から否定する人は、ほとんどいないでしょう。しかし、すべての非行少年を手厚い教育の力で更生させるには、あまりに人的リソースが足りない現実。まさに、理想と現実が対峙する課題です。

いよいよ最終週へ

いよいよ、最終週に突入します。あらゆる法律問題を取り上げていたこのドラマが、どのような結末を迎えるのか。最後まで見逃せません。

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