ひとり丸鶏のススメ
かたまり肉を調理するのが好きだ。
パリの真ん中でも、大都会トーキョーの真ん中でも、信州の田舎でも、いつの時代も私は塊肉とともにあった。そして現在、北フランスの港町でも塊肉とともにある。
豚肩ロースは500g以上、豚ヒレ肉はまるっと一本で。
今でもよく覚えている。パリのアパルトマンでひとり暮らしをしていた10年くらい前に、骨つき仔羊のかたまりを調理した日のこと。女ふたりでまるっと食べ切った。狂人が強靭な胃袋を持っていた頃の懐かしい思い出。
こういう豪快な料理というものは、普通、人が集まるときに作るものだと思う。でも私の場合、それをあえてひとりごはんのときに喜び勇んでやってしまう特異性がある。
ひとりポトフも塊肉で。
変わりものだと牛タンにも手を出したことがあったな。
そして丸鶏はまるっとサムゲタンに仕上げたこともあった。
よくひとりのときにそんなに作るよね?と、昔から本当によく言われたものだが、ハイまったくもってその通りでぐうの音もでませんね。ひとりもんじゃで6セットできるほどひとり遊びが好きなもので。
回想はこれくらいにしよう。あれは先週末、革命記念日に重なった週末のこと。Otto氏と巨大スーパーで1週間分の買い出しをしにお出かけした際、氏がお肉売り場から何かをもってきた。スーパーの肉はなるべく避けたいんだけどなとか思いつつ、カートを覗くとそこにはどーんと丸鶏が一羽。
おやおや?私、向こう2週間ひとりの予定なんですがね。これはひとり丸鶏をせよということでよろしい?
Otto氏からの置き手紙ならぬ置き丸鶏である。
手紙よりうれしい!色気より食い気!
チキンといえばローストチキン。フランスでいうところのプレ・ロティ(poulet rôti)は、国民食に近い位置付けで非常にポピュラー。家族が集まる週末のランチはコレ、みたいなご家庭も多いのでは?と思う。
ホームメイドのプレロティを仏人家庭でいただくと、美味しいんだけれども、肉のパサパサ感が否めないのである。化粧水つけ忘れたときの肌?みたいな。マルシェの肉屋で買ってくるやつは、え?これKFC?ってくらい味が濃いし。
フランスに住んでいる身としては、丸鶏焼き、なんとしてもマスターしておきたい。練習も兼ねて、ひとり丸鶏は「焼き」でいくことにしよう。
「絶対に失敗しない」ローストチキンの作り方
さて、今回は焼きに挑戦してみることにした私。
日仏色々なレシピを眺めてみたけれども、安心と信頼の伊勢丹ホームページで「ローストチキン、成功への道」という記事を発見した。
(※)リンクを貼り付けてもサムネイルが出てこない仕様になっているので、ここをクリックしてクレメンス。
この記事によれば、『絶対に失敗しない』ローストチキンの作り方を伝授してくれるとな。説明が多くてわかりやすくて、いいぞ。
「いくつか当たり前の常識から外れるポイントが出てくるのでそこだけ守ってください」とのこと。その3つのポイントがこちら。
必ず腹の中に色々と詰め物をして、高温で1時間半くらい焼いていた義母の作り方を横目で見ていたので、これはたしかに常識から外れるポイントなのであろう。常識外れ上等、このレシピを使ってみることにしよう。
まずは下準備から。鶏の下処理をしたら、表面に全体の0.7%ほどの塩をすりすりと塗り込む。おまじない程度にお腹の内側にもすりこんでおきましょうとのことなので、「美味しくなあれ」と唱えながらお腹の中にも失礼。
ここで1時間置いて、塩をなじませるとのこと。しかも冷蔵庫で一晩、ラップをかけない状態で入れておくとさらに効果的なんですって!
1日寝かせていいというのは、気まぐれモチベーション的にはいいな。
冷蔵庫でじっくりおやすみトゥナイト。
さて翌日。夜ごはんに生活の質がかかっている人間なもので、鶏は夜に焼くこととして、付け合わせにパンも焼いておこうかしら。久しぶりにストウブでパン焼こう!
さて、パンが焼き上がってオーブンを冷ましているところで、次、主役の丸鶏、いくよ!
まずは、冷蔵庫で一晩休んだ鶏の表面にバターを塗り込む。バターを塗るのは加熱効率を上げ、風味をつけるためとのこと。
最初のポイントが、鶏は縛らない&詰め物はしない。
あらかじめついていた鶏の紐は、すでに外してリラックスした状態で眠ってもらっていたので問題なし。
詰め物については、中にパンなどをいれて焼くと焼きすぎてしまうので、なにも入れずに焼くのがいいそうだ。香り付けのためにタイムなどのハーブとレモンを入れて焼くといいとのことなので、ここはレモン大好きっ子、レモンまるっと1個をスライスしてお腹のなかに詰め込んだ。ハーブについては、和洋折衷にアレンジするであろう後々のことも考えてあえて入れずにおく。
いよいよ焼きの工程。110℃に熱したオーブンで90分間焼く。ローストチキンの作り方は通常「190℃〜200℃のオーブンで45分〜1時間程度焼く」ものだけれども、この焼き方はやや乱暴で、それよりも低い温度で加熱したほうが上手に焼けるのだと。ああおっしゃるとおり、突然灼熱地獄に入れられて焼かれるよりは、サウナ温度でじっくり整ってもらってから焼かれたほうが鶏も嬉しいだろうよ。
オーブンに入れておけばあとは90分後まで暇人。
パンは作ったし、サラダともう一品、あまり野菜などでラタトゥイユでも作ろうかね。
ラタトゥイユが出来上がった頃、オーブンが鳴った。
とりだして休ませている間、オーブンを250℃で予熱しつつ、ハケでオーブン皿に残っている油を表面に塗りぬり。このツヤ出し作業、わけもなく興奮するんですがなぜでしょうか私が変人だからでしょうか。
ずっとぬりぬりしていたい衝動に駆られつつ、250度のオーブンで最後の仕上げ。いってらっしゃい。
そして10分後。
語彙力をミニマルにして表現すると、
「やばい。超うまそう。」
オーブン皿に残ったこの黄金のソース、一滴たりとも無駄にするものかとこそげ取り、さらに鶏から垂れてきた汁という汁は全部すくい取りまして候。
大きめのウッドプレートに移動させたらば、ひとり丸鶏、整いましたよ。
この時点で向こう数日はこの鶏をいただくことになるのだな・・・とすでに感慨深い。
第1の皿:ザ・シンプルなモモ肉
まず初日。できたてほやほやの丸鶏は、シンプルにそのままでいただいてみることとしよう。片足の鶏モモを切り出して、流れ出たソースを合わせる。
夕方焼き上げたパンと、鶏を焼いている間に作ったラタトゥイユ、サラダとともに。お供はやっぱりロゼでしょ?
ひとくち食べて、このレシピにしてよかった・・・!と思わずうなった。以下、よかったポイント箇条書き。
足元には鶏に目がない俺、オールウェイズ伏せ体勢。そんな目で見つめないでおくれよベイベ。
もう・・・仕方ないなあ。
第2の皿:ネギ塩まみれの鶏手羽
ひとり塊肉をやるときの醍醐味は、2皿目からはじまるといっても過言ではない。ここからのアレンジないしリメイクを考え、つくるのがこの上なく楽しいからだ。
主食がパン・パン・パスタと来ているから、米が食べたくなった翌日の夜。ここに登場させる丸鶏2皿目は、ご飯に合わせてもOKなつまみ系でいこう。使うのは両サイドの鶏手羽。
ここからほぼ毎食登場する、あの黄金ソース。一晩経って、ぷるんぷるんの煮こごり状態になっていた。
手羽を焼いたフライパンにごま油を入れてネギみじんとにんにくすりおろしを炒め、黄金エキスをちょい入れ。塩で味を整える。
お皿にこんがり鶏手羽を並べ、ネギ塩をのせてネギ塩まみれの鶏手羽ができた。
鶏手羽の脇を、タコとわかめときゅうりの酢の物、イカキムチ卵炒めと海鮮たちでかためて、いい感じのおつまみごはんができた。味噌汁代わりの野菜スープだけちょっと異質だけどノーカロリーの人畜無害なのでお気になさらず。
第3の皿:鶏塩レモンラーメン
3日目のランチは、生きのびるための日本からの100kg荷物のなかにあったKALDIのこちらの袋麺。君に決めたよ?
袋の裏面どおりにちゃんと水も測ってラーメンを作る。
その上に、切り出した鶏の胸肉部分、ゆでたまご、追いレモン、パセリをのせて、ブラックペッパーをゴリゴリしたらば鶏塩レモンラーメンの完成。
レモンに鶏って本当合うな。ナイス相棒🍋
このラーメンはきっと冷やしてもいい。
第4の皿:×フリットのゴールデンコンビ
ラーメンの日の夜、米・パスタ・麺の主食ローテーションに飽きたらば、ここで登場しますはピンチヒッター、芋🥔。北フランスが誇る主食、揚げ芋ことフリットである。ひとりのときは滅多にしないけど、花金だし、いっとこ🎵
オーブンでフリット共に焼き上げるのは、ラタトゥイユのココット。手のひらストウブにラタトゥイユをよそって、シュレッドチーズをのせ、卵を割り入れて胡椒をかけたもの。
メインの鶏は、初日のモモ肉の片割れ。フライパンで温めつつ、黄金エキスという名のソースを加えて、さらにレモン味を出したいのでレモン追加。
フリットの焼き上がりとともに、鶏×芋のゴールデンコンビな一皿が完成。
このレモンソース、フリットにも合わないわけがなく、パン泥棒からの芋泥棒。ろく助の塩もあるもんだから、フリットまだまだいけるぜ状態に陥る。たまにはいいもんだ、主食芋も。
第5の皿:鶏塩レモン焼きそば
「土曜の昼は麺類」と子供のころから決まっている。
このひとり丸鶏プロジェクトでラーメンはすでに済ませているので、ここはパスタか?でも気分はどうしたって焼きそば。
中華麺の代わりに、「極細パスタカッペリーニを重曹入り熱湯で茹でて中華麺っぽくする」という在外邦人お決まりの技で焼きそばを作ろう。具は、鶏むねおよび骨周りからこそぎとった肉、ネギ、すりおろしにんにく、レモン、黄金エキス、ごま油。
ここに、彩り要員で絹さやとにんじんとパプリカも加えて、最後にレモンを添えれば、鶏塩レモン焼きそばの完成。
4日連続で鶏を食べているけれども、手を変え品を変えているからか、全然飽きないな。ソース焼きそばもいいけど塩焼きそばも大好きでーす!
第6の皿:ハニーマスタードチキンサラダ
そろそろ丸鶏の可食部分も少なくなってきた。ついにアレを仕込むころかしらね?
大きめの鍋にこれら全部と、ネギの青い部分と生姜をスライスして入れて、強火で沸騰させてから弱火で2時間くらい煮込む。
冷蔵庫から鶏を出すたびにキッチンに駆けつけてくる俺。悲しいかな、そろそろこの鶏ジャーニーも終わりが近づいてきたよ?
さて、コンロを鶏ガラスープ取りで占領してしまったので、ここは火を使わないで行けるもの。ヘルシーに大盛りサラダといこうかね。
チキンのサラダといえばハニーマスタードドレッシングと相場が決まっている。はちみつ、マスタード、オリーブオイルを同じ分量くらいで合わせて、お好みの量でホワイトバルサミコを加える。塩胡椒で味をととのれば、美味しいハニーマスタードドレッシングの完成。
チキン、サラダ、トマト、きゅうり、赤玉ねぎ、オリーブ、フェタ、ゆで卵。かなこさんのホムパメニューで、サラダにポテチがありなのか!と気づいたので、アペロで食べかけのポテチも砕いて上からかけてみる。
たまにはこういう大皿サラダドーンな日もいい。健康になった気分になれるな。あくまで気分。病は気から。健康も気から。
第7の皿:親子雑炊
さてそろそろ私も羽が生えてくるころかな?🐓
実は、鶏を焼いているときからこのヒトサラをとても楽しみにしていた私。日曜の気だるい朝、さらに体調もあえてちょい二日酔いくらいに整えて(?)の万全なコンディション。
研いだ白米0.5合に、昨晩とった鶏ガラスープを3カップくらいを加え、30分くらいひたすら弱火でコトコトさせたらば、おそらく絶品であろう鶏雑炊の完成。
ここに、溶き卵を加えて親子雑炊にしたてよう。
シンプルの極み、親子雑炊の完成。
第8の皿:鶏ときゅうりとわかめの酢の物
そうそう、雑炊をコトコトしている間に、なんかさっぱりしたおかずがあってもいいなと思い立って、三陸生わかめを水で戻し、きゅうりをスライスし、鶏肉を割いていた。
その後も考えて、ここは箸休め的な感じで酢の物風に仕上げよう。色々混ぜるのが面倒なので、ツルヤの万能だし酢を加えて和える。
スピード系箸休め、鶏ときゅうりとわかめの酢の物の完成。
気だるさを吹き飛ばす、日曜のごちそうランチができた。こういう身体にしみいる系のものが一番うれしいお年頃。雑炊なんて昔は風邪で寝込んだときくらいしか食べなかったのにね。
翌朝つまり今朝、高級梅と合わせて親子雑炊ブレックファースト。どのホテルにも負けない朝ごはん。願わくば、この朝ごはんを毎日食べたい。
第9の皿:鶏ガラカレー
我がリメイク哲学にのっとり、あえて残しておいた鶏ガラスープを使ってひとり丸鶏ラストの一皿、カレーにリメイクしよう。
具は、本当の本当に最低限。カレーにじゃがいもは入れない派なので、玉ねぎとにんじん、最後の鶏可食部のみ。
具材に火が通ったところで、鶏ガラスープを加えて、さらにあの大事にしてきた黄金エキスも全投入。
こうして、見た目何の変哲もないただのカレーが完成。
これ、ただのカレーだと思って食べてみ?飛ぶぞ。
もうなんというか、鶏エキスがぎゅぎゅーーっとつまったカレー。
ここに玉ねぎとにんじんとはちみつの優しい甘みが加わって、えも言われぬ美味しさ。
「これ、一晩寝かせたらさらに美味しくなっちゃうんじゃないの?」とワクワクして臨んだ翌日のランチ。
嗚呼、これが「飲める」ってことなのね・・・。もっと飲みたい!ギブミー鶏!!
そして夜もカレー。最後のカレー。
朝食のぞき、夜、昼、夜と3食連続カレーでもまったく構わない。朝食も親子雑炊で鶏エキス注入してますけどね。
もう、このカレーのために丸鶏焼こうかな?という気にすらなってきた。
この丸鶏ウィークはこのカレーに出会うためにあったのだきっと。
最後にこんな美味しいカレーが作れてしまう、ひとり丸鶏。
丸鶏1羽でかくも語るかと突っ込みたくなるような記事を最後まで読んでくださるような物好きの皆さんに、猛烈にオススメしたいこの夏のエンターテイメントである。