コインランドリーの匂い
帰り道にあるコインランドリー
風向きでたまーにコインランドリーの匂いが鼻をかすめる。
「乾いたよー」って話しかけてくるような、やさしい匂い。
▽▽
その週は連日の雨、雨、雨で全く洗濯ができなかった。
溜まっている洗濯物。しかし、今日とて雨。
「…コインランドリー行くか。」
行ってみると、私みたいに家の洗濯機だけじゃ追いつかない人が多かったのか結構混んでいた。
空いている洗濯機を見つけ、スイッチを押す。
ぐるぐる回っている洗濯物を眺めつつ、本棚のマンガを読みつつ時間をつぶす。
「ふぅ。」
『NARUTO』やら『銀魂』やらを、ひとしきり読んで一息つく。
ふと、よく一緒にライブにいく友達のことを思い出した。
その友達はライブやフェス後、暴れて汗まみれの服をコインランドリーで洗っているらしい。
家に洗濯機があるのに。
「なんでわざわざ?」と聞くと、
「汗まみれ、泥まみれの服を家族の服と一緒に洗ってもらうのはなんかなぁ…」とのこと。
変なとこで律儀。
たしかにめっちゃ汗だくびしょびしょにはなるけど…
▽▽
友達は今日も誰かのライブに行って、楽しんで、汗かいて、コインランドリーへと向かっているのだろうか。
針は22時32分を指している。
もし、友達がライブに行ってたとしたら、そろそろコインランドリーで洗濯する時間か?なんて思うけれど、ちょっとストーカーみたいなのでやめた。
なんとか思考を止めようとするけれど、やっぱり「一緒のタイミングだったらいいな」なんて言葉も頭に出てくる。
「いっそ聞いたら?そうしようよ。」
なんて、悪魔(恋のキューピッド?)の囁きまで。
「今日、ライブ行った?」とか?
いやいや……唐突すぎる。
LINEのトーク画面を開いて、打ったり消したりを繰り返す。
送信ボタンが押せない。
ピーピーピー
洗濯が終わった音が響く。友達にLINE送るタイムリミットがきれた音にも聞こえた。
「はぁ……」
ひとつ、ため息をついてスマホをかばんにしまう。
「送ったらどんな返事がきて、どんな会話をしたんだろう」と、答え合わせしようもないことを問いかける。
乾いた洗濯物からは、あのあったかくてほっとする匂いがする。
でも、今はそんな気分じゃない。いらない。
どうにかこうにか「まあ、また聞けばいいや、今度のライブで会えるし。」と言い聞かせる。
いつか理由がなくても答え合わせができるふたりになりたいなぁと、ぐるぐる妄想しながらコインランドリーを出た。
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