【日本一周 北関東編17】 活気をとりもどす前の伊香保温泉
・メンバー
明石、尾道、釧路、宮島
・食料調達と石段踏破 筆者:明石
夕飯は「豪勢なコンビニ飯で贅沢気分を味わおう」という本末転倒気味な欲望を胸に、近くのファミマへと向かった。
その道すがら、そもそも伊香保温泉への訪問を決めたのは、日本三名段に数えられるという石段街を拝むためであったことを思い出す。石段には興味がないという釧路と宮島はファミマに残して、尾道とともに立石寺や金刀比羅宮と肩を並べる石段足りうるのかを見極めに向かった。
「伊香保温泉」と銘打たれた礎石からはじまる石段は、上へ登るほどに狭くなっていく。18時すぎということもあってか、道沿いの土産物屋は店じまいしているところが多かった。
そのため、鄙びた温泉街は裏寂しさをまとっており、さきほどまでの極楽から一転して郷愁へと誘われた。この精神の落とし穴には365段踏破が危ぶまれたが、四辻を抜けるとかろうじて賑わいを見せる区画があり、寒色から暖色へのグラデーションにほっと一息ついた。
石段を売りにしているために店名もそれにあやかったものが多く、「石段温泉」や「石坂旅館」、果てには「スナック 石段」まであり、ギャグ漫画の世界に迷い込んだようであった。
しかし、愉しげな店たちもコロナの打撃はもろに受けてしまったようで、至るところに休業や短縮営業を知らせるビラが貼ってあった。また、伊香保神社の目前には昨年の秋に火災があったという巨大な廃旅館が聳え立っており、物悲しい雰囲気に追い打ちをかけていた。
廃墟の無骨さに惹かれる身としてはプラスだけれど、週末を彩る温泉街にはそぐわないなぁ。温泉街はひっそりとしていてなんぼといった風潮もあるけど、名の知れた温泉には華やいでいて欲しい。
伊香保温泉再生プロジェクトなるものが始動したらしいから、何年後かに訪れたときには活気に溢れて目を回すくらいのを期待します。
なんやかんやでかなりの時間を石段街に費やしたもんだから、釧路と宮島はもうホテルに戻っているだろうと踏んで、石段街近くのローソンにてカップラーメンのチリトマトとチーズカレー、梅酒にスモークタンを買い込んだ。
そして、ほくほく顔でホテルへと向かう途上、眼前の光景に愕然とした。
釧路と宮島が、道沿いの手すりを使って筋トレをしながら待っているではないか!
となると、二人はかれこれ1時間近くファミマで待っていた計算になる。いやはや申し訳なさすぎる。と萎縮するこちらに対して、釧路と宮島はあっけらかんとしていた。
まず、僕らのローソンのビニール袋の膨らみが控えめなのを目にすると、「その量で今夜を乗り切れるの?」と強気な姿勢を見せた。
さらには「そこのファミマ、品揃え悪くないよ」と待ち時間が増えるにもかかわらず追加の買い物を勧め、僕らがファミマへ入店していく後ろ姿を暖かく見守っていた。
なんか、優し過ぎて怖い。けど、ありがとう。
ファミマの店内は部活上がりらしい地元の女子高生で溢れかえっていて、その生命力の強さと姦しさに人酔いした。いちごオレやプリンといった甘味を手にすると、最高の夜を過ごすためのグラフが綺麗な五角形を描くさまが頭に浮かんだ。
よし、遊び倒したるぞ。
追記
現在では、伊香保神社への参道沿いにあった廃墟のホテルも取り壊され、にわかに活気が戻ってきた。石段の麓に現代的すぎるIKAHOのオブジェができていたのには困惑したが、写真を撮るための列が終始とぎれないのを見るに、その采配は間違っていないのかもしれない。
・伊香保散策 筆者:尾道
ホテルで一通り遊び倒し、外の空気が恋しくなった頃合いに、4人で街へ繰り出した。
温泉街として名高い伊香保であるが、実際に散策してみると、随所に寂れた雰囲気が漂う。廃墟と化した宿や、ズタボロの看板があちこち点在し、場末の温泉街といったところだ。
そういったものを目にするたびに、期待に満ちていた心は、一日使い倒した浮き輪のように、萎れていくのであった。
釧路と宮島は晩酌グッズを買いにファミマに入り、私と明石は伊香保温泉の石段を見に散策を続けた。
正直、石段になんぞ興味はないのだけれど、これまでに訪れた、香川・金刀比羅、山形・山寺と合わせて「日本三大名段」が完成するので、スタンプラリーのハンコを貰うくらいの心持ちで石段街に向かう。
さすがに石段街は伊香保の中心地ということで、温泉街にふさわしい活気を呈している。狭い石段の両サイドには、射的屋、まんじゅう屋、食事処などが並んでいる。
窮屈そうに肩を寄せる店々であるが、清水寺の二寧坂や産寧坂しかり、土産屋はおしくらまんじゅう状態でいるくらいが、街の活気付けになって良いと思う。
頂上にある伊香保神社を目指して淡々と石段を上る。途中に生える路地には、だいぶ年期の入ったパブやスナックがひっそりとたたずんでおり、最盛期の伊香保の様子を想像させられた。
また道中には、廃業して何年経つのやら、外壁は剥げ落ち、窓ガラスは割れに割れ、ところどころ鉄骨がむき出しになった、富士Qの戦慄迷宮のような廃ホテル(?)が立っていた。
見たところ8階建てで、その周囲はフェンスで囲まれている。ともすると、アホなヤンキーが肝試しをしに寄って来そうなくらいにはオドロオドロシイ外観だ。
ニュースで知った話だが、全国の観光地には、このような取り残された建物が少なくないらしい。土地の権利者が複数名に跨っていたり、解体費を捻出できなかったりなどの事情で長年放置されてしまい、結果的に街のブランディングと治安を損ねることに繋がるとのこと。
個人的には、こうした雰囲気は嫌いじゃないが、ただでさえ朽ちかけているように見える伊香保の看板をさらに汚してしまうくらいなら、頑張ってさっさと壊したほうが良いのだろう。
頂上の伊香保神社には特に興味をそそるものはなく、上ってきた道のりを見下ろして一瞬の悦に浸ると、テキパキと下山にかかった。
石段を下りきり、例の寂れた道を進んで宿へ向かう最中、遠くに釧路と宮島の影が見えた。彼らの腕にはこんもりと膨らんだレジ袋が垂れている。
合流して、私たちが伊香保を散策している間なにをしていたのか、と聞くと、ずっとここで待っていた、と返ってきた。1時間弱もの間、部屋に戻らず私たちの帰りを待ってくれた彼らの優しさと若干の狂気を垣間見た。
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