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『汝、星のごとく』|離れる距離
「人間の幸不幸には定量があって、誰でも死ぬときは帳尻が合うってほんまやろか」
『汝、星のごとく』を読み終わりました。
2022年に講談社より出版された「凪良ゆう」さんによる小説です。
2023年に本屋大賞を受賞しています。
■「凪良ゆう」さんについて
作者の「凪良ゆう」さんは2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞しています。小説家としては元々はBL作家出身の方です。
凪良ゆうさんの作風には、地の文に無駄が無く、男性と女性の心情描写の使い分けが驚くほど巧い、という印象を個人的に持っています。
※凪良ゆうさんのその他の詳しい解説はWikipediaにて。
私自身、凪良ゆうさんの小説は前述の『流浪の月』や『滅びの前のシャングリラ』を読んだ事があります。
■作品全体の印象について
前述した「地の文に無駄が無い」という作風は本作を読んで感じたことです。余計な風景の描写や心理描写が無い。それは決して地の文が短いというわけではなく、全ての地の文に意味や役割がある、という事です。
文章を間延びさせることなく台詞よりも多い地の文が書かれています。
もちろん多くの小説がそうでしょうが、本作に関してはそのことを意識的に感じるほどに顕著でした。
私的な話になりますが、私は本を電子版で読む際、良いと思う文章を色付けしてハイライトすることがあります。
『汝、星のごとく』に関してはそうしてハイライトした箇所がとても多く、全体的に「どうしてこんな表現が出来るのか」といった表現の宝庫でした。
ただ単に表現が巧いというだけでなく、「この状況や心情はこの表現で過不足も無く余計な飾り気も無い」という意義も兼ね備えているように思いました。
私の口癖ですが、「プロって凄い」と本作に関しても感じています。
■ストーリーについて
■離れる距離と凋落、物語の終わり
離れる距離
本作は男性主人公である「櫂」(青楚櫂)と女性主人公である「暁海」(井上暁海)の二人の半生である高校時代~大人の30代までを時系列で描写していく内容になっています。
10代にして重い家庭環境を抱える二人はお互いに惹かれあい、付き合い始めるのが高校時代の話です。
しかし、社会人になってから住む場所が離れ、お互いの職業の格差も生まれた二人は、多くのすれ違いの後に別れてしまうのでした。
漫画家として成功した櫂と地元に残って母の世話をしながら一般企業で働く暁海。二人の距離は多くのすれ違いの後に離れて行ってしまう。
読んでいて辛いな、と思うと同時に、二人の状況からしてこうなってしまうのは避けられなかったとも感じます。
決して、漫画家として成功した櫂が幼馴染である暁海と結婚して幸せになるという話にはなりません。
凋落
そして、櫂の漫画家としてのキャリアも長くは続かず、不慮の事件によって急に閉ざされてしまいます。
そこから再起することなく最終的には…という展開に本作の重みを感じました。ここでいう重みとは「人の人生は綺麗な筋書き通りに進むことは無い」という事です。
物語の終わり
では本作は救いが無い話なのか、というとそうではありません。
前述した「漫画家として成功した櫂が幼馴染である暁海と結婚して幸せになる」というある種の王道の展開が待っている事はないのですが、それでも二人は最後の最後に別の形で関係を修復します。
それはとても切ない形なのですが、物語としてはとても美しく、ここまで描かれてきた「人の人生は綺麗な筋書き通りに進むことは無い」という事を最後に裏返すような終わり方になります。
■櫂と暁海、二人のすれ違い
本作は櫂と暁海の視点を節ごとに分けて交互に描写する構成になっています。その中で、同じシーンを櫂の視点と暁海の視点の両方で描写する事があります。
そうする事によって、櫂の視点と暁海の視点で解釈がかなり違っている事が読者に分かる構成になっています。
特に相手がどう思っているかについての感じ方がお互いに違っており、自身(特に櫂)が思っているよりも相手はひどい受け取り方をしているわけではない、あるいはひどい考えをしていたわけではないという事が読者には分かります。
その上で二人のすれ違いが起こってしまうのが余計に読んでいて辛いのです。
■「人の人生は綺麗な筋書き通りに進むことは無い」という事
前述した「人の人生は綺麗な筋書き通りに進むことは無い」という事。
この作品は登場人物たちの多くが綺麗な生き方をしません。あるいは思い描いた通りに人生が進まなかったり。
櫂の母親や暁海の両親は複雑な家庭環境を櫂たちに背負わせてしまうし、櫂は暁海がいるのに浮気するし、櫂の相方である尚人は意図せず事件を起こしてしまい最終的には悲しい結果に辿り着いてしまうし。
物語を描くうえで「綺麗な筋書き通りには進まない」というのはある意味当たり前の事なのかもしれません。
実際の人生も避けられない不幸が急に訪れる事は往々にしてあります。
良い事もあれば悪い事の連続もある。
本作はそれをリアルに、かつ説得力のある展開で描写するので、読んでいて引き込まれます。
だからこそ最後に訪れる「物語の綺麗な筋書き」が本作の感動を引き上げているのだと思います。
■後記
『汝、星のごとく』は私の文章力ではその魅力は伝えられないと思っています。そう思いながらも感想は残しておくべきだと思い今回の記事を作成しました。
記事に書いた事以外にも、櫂と尚人の担当編集である植木さんや、櫂が途中で出会う絵里さんもかなり魅力的な登場人物でした。
本作は本屋大賞受賞作で、文章の巧みさや展開の意外性など、読んでいて「これはたしかに受賞するだろうな」と思わせる説得力がありました。
本作の内容を補完する内容や続編が収録された『星を編む』もいずれ読もうと思います。
以上。