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第7回 『問いからはじめる社会運動論』から発展的に学ぶ

原田:続けて、この本からさらに発展した学びについて考えたいと思います。これは「ないものねだり」みたいになっちゃうかもしれないんですが。当然ですけれども、この構成・このボリュームの本ですべての議論を網羅するのは難しくて、もしそれを実現するなら、それこそ分厚い何冊にも分かれているような事典をつくらないといけないので、「これが載ってない」ということはこの本にとってマイナスにはなりません。その代わりに本書に書かれていない部分は、ぜひほかの本や先生から学んでほしいと思います。

————:具体的には、どんなふうに学ぶとよいでしょう?

原田:先ほどの(1)事例に関する知識(2)理論に関する知識(3)調査方法に関する知識、に沿ってお話しますね。

まず(1)事例についてですが、さっき話に挙がった「尖った運動が多い」という話に応えるなら、ぜひほかの本を併せて紐解いてほしいと思います。その意味で『社会運動の現在』との互換性というか、お互いに役立つところがあるのかなと思いました。あとは、最近の香港のデモだったり、アメリカのブラックライヴズマターであったり、そういった新しい話題については、むしろ研究よりも早くいろんなルポとか記事が、ネットでも本でも出ていますよね。いろんなところに興味を持ってほしいし、あるいはもっと身近な市民団体やNPOとか、そういったものも含めていろいろ読んでほしいと思います。

加えて、この本が、というよりも自戒を込めて、日本の社会運動研究全体でずっと気になっていたことなんですけど、一つの事例に基づくケーススタディがすごく多い気がするんです。海外の社会運動研究では、比較研究をして、枠組みを立てるというスタイルが、ずっと歴史的にやられてきたのに対して、日本の社会運動研究は一つの事例を研究することが多いように思います。強いていうと、濱西さんの最後のところは3つの大きなデモの動きを比較していると言えば比較しているんですけれども。やはりどうしても、この本を含めて、一つの事例研究が多い。読者にはそれを補ってほしいというか、自分の調べている事例と本書を比較したり、自分のなかで何か比較してみるのは思考のトレーニングになるんじゃないかと思います。

次は(2)理論枠組みのところですね。これは私個人の思い入れもあるかもしれませんが、「政治的機会」についての議論の比重が軽いのは、気になったところでした。中根さんがコラムで少し紹介されているとは思うんですけれども。政治的機会動員構造フレーミングの3つが大事だというのは、長谷川先生も今回の本や『社会学〔新版〕』で、まさに書かれていますね。私自身はMcAdamたちのComparative Perspectives on Social Movements からすごく影響を受けているんですけど、因果関係の主要な要素は政治的機会、動員構造、フレーミングの3つだと議論されています。『問いからはじめる社会運動論』の後半部分では、そのうち動員構造、フレーミングはかっちり書かれているので、政治的機会についてももっと説明があったらよかったのかな、と思います。

————:そこを補足してくれる文献には、何がありますか?

原田:そこはぜひタロー『社会運動の力』の邦訳を読んでもらいたいですね。あとは、宣伝みたいになりますけど、私の『ロビイングの政治社会学』でも政治的機会を現代日本に応用するなら……ということで努力をしたつもりです。

————:理論についてうかがいましたけど、方法の紹介について何か気になったことはありますか?

原田(3)方法として、この本では質的調査に多くの紙幅がさかれていますが、その意味では量的調査について、もう少し触れられてもよかったかもしれません。中根さんのところで質問紙調査が取り上げられていますが、「質的調査から得られた仮説を検証するために実施する」、という趣旨で勧められているので、かなり限定されていますね。もちろん、学生さんが準備不足のまま質問紙調査をやろうとすると、失敗が起きる可能性もあると思うんです。なので「安易な調査はやめましょう」という意味では私も同意なんですけれども、他方で仮説で出てこなかった変数の関連性を見つけたり、自由記述で書かれたものをアフターコーディングしたりして新たな発見があることもありますし、量的調査の後に質的調査をするなどの工夫の仕方も考えられるので、量的調査のことをもうちょっと強調してもよかったのかな、と思いました。

というのも、海外だと、それこそ反緊縮財政の量的調査などがすごく活発にやられていたりします。国内でも、脱原発運動に関しては町村敬志先生たちの『脱原発をめざす市民活動』がありますし、自分のかかわった仕事になりますけど、樋口直人松谷満『3・11後の社会運動』は8万人規模のネット調査で脱原発・反安保運動のデータを集めた研究です。私もこのプロジェクトに参加して、たとえば非運動参加者のデータもとると、運動に対するまなざしにも、それこそ良心的支持者から敵対者までいて……などと、いろんな新しい発見があったりしました。その意味でも、量的調査の運動研究もおもしろいなと思っています。読者には興味関心に沿って、量的調査の教科書と併せて勉強してほしいですね。

————:ありがとうございます。本のなかにもブックガイドを設けていますし、ほかの本と併せて読んではじめてわかることも多いですよね。

原田:最後にもう1点。この本では、執筆者がどういうきっかけで問いを立てて、分析を進めていったかというプロセスはじっくり追体験できるんです。ただ、実はここであまり書かれていないのが、最後の最後にどうやってそれぞれの答え、博士論文だったり著書にたどり着いて、どういうかたちで最終的に論文を書いたかが、あまり書かれていないんじゃないかなと思います。もちろん、そこって「論文の書き方」的な話になるので、あえて割愛したんだと思うんですけど、社会調査にしろ何にしろ、研究のプロセスで問いを立てて、本人の答えにたどり着いて、それを主張して、はじめて完成するというところもある。ですから、読者にはこの本を読んで終わりじゃなく、執筆者それぞれの到達点、「答え」に触れてみることではじめて、「そういう意味だったんだ」というのがわかるかなと思いました。

また、この本ってものすごくわかりやすく書かれている。それはすごくいいところだと思う反面で、わかりやすく書かれているがゆえに、書いたひとの主張とか、いろいろな発見が、なんとなく読み進められてしまう。なんとなく「そうだよね」という感じで読めてしまうかもしれないんですけど、私の考えでは、その先にあるみなさんの著書まで最後は辿り着いてほしいんです。

それぞれの著書をじっくり読んだり、輪読したりしながら読むと「ここの主張、ここの分析については自分はすごくわかる」「逆に、このロジックは自分は納得しない」みたいなかたちで、一人ひとり異なる読み方ができるのは、単著のほうなんじゃないかと思うんです。そうすることで読者も成長するし、そこからいろんな新しい発見ができるという意味では、『問いからはじめる社会運動論』を読んで終わりではなくて、ぜひ最終的に著者たちの単著に触れて、そこでもっともっと理解を深めていただくと、この本で言いたかったことがなんなのかが、ちゃんと伝わるんじゃないかなと思いました。

編集部注『問いからはじめる社会運動論』の著者らの主要論文・著作をまとめたリストをウェブサポートページに公開しています。ウェブ上で読める論文もありますし、ぜひご活用ください。

(以下、第8回へつづく)


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