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おかあさん

「いってきまーす」

お姉ちゃんとお兄ちゃんのその声で
わたしは目が覚めた。

今日は何曜日だっけ。

ベットの横にかけてあるカレンダーを見て
わたしはすこし考えた。

今日は月曜日。
学校へ行く日だ。

どうやらわたしは、寝坊をしたみたい。

ベットから起きてリビングに行くと
台所ではお母さんが
お姉ちゃんとお兄ちゃんが食べた
朝ご飯の食器を洗っていた。

「あら、やっと起きたのね。何度も起こしたのに
ぴくりともしないから、お姉ちゃんたち先に行っちゃったわよ」

お母さんは少し笑いながら、わたしにそう言った。

「朝ご飯できてるわよ、食べちゃいなさい」

テーブルの上にはわたしの分の朝ご飯が
きれいに用意されていた。

「いただきます」

お母さんが作ってくれた朝ご飯を食べて歯を磨いたあと、
昨日寝る前に用意していた洋服に着替えた。

ランドセルを背負って玄関に向かうと
後ろからお母さんが追いかけて来て
「ちょっと待って、ハンカチ忘れてるわよ」と
わたしのピンク色のハンカチを渡してくれた。

「いってらっしゃい、気を付けて行くのよ」
「うん、行ってきます」

玄関を開けて扉が閉まるまで
お母さんはわたしを見送ってくれた。

昨日は雨が降っていたから
お庭にはところどころ水たまりができていた。
水たまりにおひさまが写って、まぶしい。

少し歩くと、電柱の下にも水たまりができていた。
そこには、桜のはなびらが浮いていた。

はなびらの浮いた水たまりがとってもきれいで
わたしはしゃがんでしばらくそのはなびらをながめていた。

「お母さんにみせたいな」

わたしは学校とは反対方向に歩いていた。

家ではお母さんが庭仕事をしていた。
振り返ったお母さんは少し驚いた顔をして
「あら、どうしたの?」

「お母さん、ちょっと来て」
そう言ってわたしはお母さんの手をひいて
はなびらの浮いた水たまりまで歩いて行った。

「ほら、とってもきれいでしょ?」

「あらほんとね。これをお母さんに見せてくれようとしたのね。」

お母さんとわたしは一緒にしゃがみながら
しばらくそのはなびらをながめていた。

「ありがとう、とってもきれいだったわ。」
お母さんはそう言ってわたしのほっぺたを、つんっとした。

お母さんの優しい笑顔がとっても嬉しかった。

「さ、学校いってらっしゃい。
帰ってきたらお父さんたちにもはなびらの話を
聞かせてあげましょう」

そう言ってお母さんははなびらの浮いた水たまりがある電柱から
わたしの背中が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

おひさまのひかりが、とてもあたたかかった。

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