障害者雇用訴訟への高い当事者の関心 職場の発達障害者差別・偏見アンケート結果④
筆者は世界自閉症啓発デーおよび発達障害啓発週間(4月2日~8日)に合わせて、「職場の発達障害者への差別・偏見に関する緊急アンケート調査」を実施しました。職場で発達障害者が受けた差別や偏見の状況を明らかにし、障害者雇用促進法の効果を検証すると同時に、障害者雇用訴訟に対する発達障害者の意識についても調査しました。
回答内容は回答者の個人的体験などを基にした印象を答えた主観的なものであり、最新で正確な情報であること、普遍的であることを保証するものではありません。しかし意識調査とは、客観的でなくても断片的であっても、矮小化せず、当事者の声を拾い、可視化することが大事だと考えています。
その集計結果を発表します。今回は4回目で、障害者雇用促進法の効果についての意識調査です。
Q.あなたは障害者雇用訴訟をどのようにみますか。以下の資料や、調査報道の記事や論評を参考にしてお答えください。
有効回答22件
とても関心をもってみていく 13件
まあまあ関心をもってみていく 5件
あまり関心をもってみていかない 3件
まったく関心をもってみていかない 0件
Q.障害者雇用訴訟について、自由にお書きください。ここでは「こう考えるべき」ととらわれることなく、例えば以下の資料や原告による記者会見や専門家の解説を見た感想(フラッシュバックやパニックに十分注意して閲覧ください)、訴え以外の点に目をつけた回答も可能です。
〇残念です。発達障害についてあまり分かっていなかったり、偏っていたり、誤った情報を信じたりしています。
〇自分も有名なグループ企業においてパワハラ、障害者差別を受けており、合理的配慮についてもほとんど提供されてこなかった。社内の相談窓口はまともに機能しておらず、相談の結果、ハラッサー(部門長)にバラされ、仕事を干され孤立することになった。そのためグループ全体の相談窓口への通報や、コンプライアンスアンケートに詳細に被害を回答することで対抗している最中である。当該訴訟を担当する伊藤弁護士や労基にも相談している。
合理的配慮の不提供が認められた判例は少ないと聞くため、自分のためにも非常に注目し応援している。
法改正により、努力義務ではなく義務となることが決まっている合理的配慮について、どのような司法判断となるのか興味がある。しかしどのように障害者が配慮を求めても、元々の人権意識が低く、従業員を人として尊重する意識のない企業には、合理的配慮の不提供に対して重い罰則や社会的制裁を課さなければ守らないと思う。また、雇用される障害者の方も雇用促進法の内容をよく理解しておかないと、自分が損をすることになる。自分の権利について、学ぶ機会を作り学ばなければならない。
公的機関には、人事担当者ではなく障害者雇用労働者にもそのような機会を提供し、ぜひ周知してほしい。
〇"非常に意義のある訴訟だと思う。
これに関して、従来とは違う事業主に寄り添いすぎる判決とは違う結果がもたらされることを期待する。(過去の判例は裁判に関わる業種の人すべてにおいて影響が大きい結果であるため)
訴訟の原告の訴えの内容を目にして、自分もこれまで受けてきた差別行為を思い出して原告が訴えを起こすまでの思いに非常に共感した。
この問題が大きく取り上げられ、企業から差別や偏見をなくす一助になればと切に願う。"
〇「平等と多様性」とかスローガンを目立たせてることが危険な臭いが出てる。
〇社会として障害者と共生するつもりはないことがこの訴訟でよくわかった。であれば障害者に対する就労以外の福祉支援を充実させ働かなくても生きていける形に変更した方が社会全体の軋轢は減るのではないか。
〇障害者側が泣き寝入りしてしまう、という原告の方の訴えに共感します。企業の中に入れば、圧倒的なマジョリティの立場である障害者は弱いです。私の実体験では、上司となる人たちは、人事や産業医の評価をとても気にしています。私が会社側に本音で困ったことを相談すると、上司から急に敵意を向けられます。黙っていれば、彼らはとても好意的に接してくれます。そのため、カウンセラーや産業医、障害に理解のある人事が社内にいても、あまり意味がありません。社内の相談窓口にも公平な対応をしてもらえず、退職に至ったことがあります。弁護士に相談したくても、時間やお金等のコストを考えると、あきらめざるを得ませんでした。この原告の方は、とても勇気があり、行動力のある方だなと思いました。
〇私も産業医面談から休職になり主治医が復職可能と診断書を書いてもなお復帰させて貰えず辞めたくないと訴え続けたものの結果的に自己都合退職においやられた経験があります。それ以降、産業医とは何か?何のためにいるのか等を考えるようになりました。信じたらいけない人だと思っています。また転職面接でも、人事面接は割と理解があっても現場の上司になり得る方との面接だと障がい者についての理解がないと感じることが多く、ギャップがあるのも事実です。
〇なかなか細かいところまでは理解できていないところがあるが、表向きの外部への発信はきれいごとを並べていて、内部事情は非常に劣悪な状況にあるように感じ取れる。コミュニケーションが足りないというよりも仮に意図的に障害者にとって不利なようにもっていっているとすれば、ずさんなように思う。
企業側の視点と本人の視点、さらに裁判所の判断とそれぞれの認識があるので一概にどうのこうのとは言えないのが正直なところのように思う。
また、職場だけでなく地域(特に地方における)の差別や偏見というものが他の精神障害当事者会におけるアンケートでも明るみになっている。地方ほど閉塞感があり、地方の職場ほど障害への認識や理解が乏しい現状があるように認識している。
〇セールスフォースの事例ではありますが、多くの企業がおもていでていないだけで同じ考えだと感じます。理由は、フリーランスで働いていても、多くの人の働き方に合わせた依頼ややりとりが多いと感じるからです。
〇事実を共有しないと議論は出来ないので
訴訟内容は可能な限り、報じて頂きたいとは考えていると同時に日本の裁判所にもICT活用を前提とした公開のあり方も必要だと考えている。
〇自分が今後同じ立場に置かれたらと想像すると、原告には頑張って闘ってほしいとは思いますが、企業側の論理で見ると厳しい闘いだと感じます。企業はあくまで利益を出すための場であって福祉ではないから、合理的配慮のコストに見合う成果が出せなければ切られるのもやむを得ないからです。
講評~今後は資料をアップデートし、再度調査も
アンケート調査のなかで最もセンシティブな項目です。
同じ障害のある当事者からの、障害者雇用訴訟への関心の高さを示す結果となりました。
障害者雇用訴訟をきっかけに、担当する伊藤弁護士が発達障害者の労働問題に取り組んでいることを知り、相談したという人もいました。
訴えは事実なら非常に深刻な内容であり、特に被告会社について同じ障害当事者がどう見るかが気になってました。集まった回答を見ると、「表向きの外部への発信はきれいごとを並べていて、内部事情は非常に劣悪な状況にあるように感じ取れる」「『平等と多様性』とかスローガンを目立たせてることが危険な臭いが出てる」「多くの企業が表に出ていないだけで同じ考えだと感じます」という意見でした。もっとも、これらは限られた情報での判断になるのですが。
筆者は一貫して、対外的に「平等と多様性」「ビジネスと社会貢献の両立」を中心部分に含む発信をしながら、障害者雇用では国で定められた基準にすら達しておらず行政の制裁的公表による信用低下リスクを抱える、そうした実態にありながら「当社は障害者の雇用をないがしろにしていません、合理的配慮もやってます」という主張をしている、それは信用されるのか、という観点からみてきました。
「社会として障害者と共生するつもりはないことがこの訴訟でよくわかった。障害者が働かなくても生きていける形に変更した方が社会全体の軋轢は減るのではないか」という意見もありましたが、さすがにこれは悲観的過ぎるのではないでしょうか…。
「原告には頑張って闘ってほしいとは思いますが、企業側の論理で見ると厳しい闘いだと感じます。企業はあくまで利益を出すための場であって福祉ではないから、合理的配慮のコストに見合う成果が出せなければ切られるのもやむを得ないからです」という意見。確かに、残念ですが今の日本では、企業の社会的責任に対する理解がまだまだ十分ではありません。被告会社はまさにその現状を変えていくうえで日本の企業に範を示す役割を担うことを、自他ともに認める会社だったのですが…。働く障害者も、企業に求められている社会的責任を理解していかないと、一ビジネスパーソンとしても時代の変化に追いつけなくなる、と考えます。
また、「事実を共有しないと議論は出来ないので、訴訟内容は可能な限り報じて頂きたい」「裁判所にもICT活用を前提とした公開のあり方も必要」という意見があったことも、注目されるべきだと思います。筆者にとっても、傍聴・閲覧のために神戸・東京間を何往復もするのはコスト負担が大きく、司法のIT化や、在京の記者による公正な報道を望みます。
障害者雇用訴訟で主張が出揃うのはこれからですが、今後、資料を争点整理されたものにアップデートするなどして、再度意識調査を行うことも考えています。
次回は、差別や偏見のない社会を作るための意識調査です。
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