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おな
2019年1月29日 08:00
いつだってそうなのだけど、 今履いている、このパンツの右ポケットは、 底なしだ。 何かを入れると、その度にそれらのものはなくなってしまう。 そして僕には(もしかしたらこのパンツにも)、なくなってしまったものの居場所が分からない。 それをまだ覚えている時はいいのだけど、 ふとした習慣で何かを入れてしまうと、 たちまち入れた物は消えてしまって、僕は非常に困ることになる。
2019年1月25日 08:00
「……だって、暇だからタバコ吸うんでしょ?」 彼女が僕にそう言ったのは、散々泣き散らした後。 騒がしい居酒屋の中で、彼女はテーブルを思いっきり叩いてから、発した言葉だった。 ……え?最後に言うことが、それ? 僕は呆気にとられ、ただ呆然と立ち上がった彼女を見ていた。 「え?……暇?なにが?」 情けない声が、居酒屋の中に立ち込めた。彼女が大声でそんなことを言うもんだから、騒が
2019年1月21日 08:00
目の前には一枚のドアがあって、「開けてはいけません」と書いてあった。 「開けてはいけません」と書かれているからには、開けたくなってしまうのが人情というものだと思うのだけれど、それを開けるには勇気が必要だったし、なぜだか僕にはその「勇気」が伴っていなかった。 僕はこのドアを開けることが出来るのだろうか? 未来の僕はそれを知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。 いず
2019年1月17日 08:00
傑(すぐる)は、なんの躊躇いもなく、少し高いその場所から水の中に飛び込んでいった。 「おーい!お前も早く来いよー!」 少し離れた場所から届く傑の声に、僕は足を震わせて口を閉ざしたままだ。 「大丈夫だって!怖いのはその飛び込む一瞬だけなんだから!そこから一歩だけ踏み出しちゃえば、あとは流れの赴くままなんだからさー!」 傑は、僕を急かすように言葉を投げるけど、 僕はこの場所から一
2019年1月13日 09:00
目覚めると、そこには紛れもない現実しかなくて、僕はこの世をどう受け止めたらいいのか分からなくなってしまった。 昨日、母親が死んだのだ。それが僕に突きつけられた〝紛れもない現実〟だった。 もう長い事生きたさ。 と、兄貴は言っていたけど、僕が生まれてから1秒だって母さんが生きていなかった時なんてないのだ。それを急に受け止めろと言われても、それは随分と難儀な事に思えた。 電気を消した暗い