シェア
おな
2019年1月27日 19:00
「あー……」自分でも驚くくらいの低い声が口から零れ、私は背にしていた家のドアを眺めた。まだ、この向こう側に彼はいるだろうか。ドアを閉めてから数分は経ってるから、もういないかもしれない。もう下へ降りてしまったかもしれない。「うん、いない、いないんだ。きっと」そう考えながら、私はドアを外向きに開けた。彼はいない。通路を挟んで私の住んでいる街の点々と光る明かりが見えるだけだった。「ほらね」私は
2019年1月23日 19:00
バタンと音をたてて閉めたドアの向こう側に彼の温度をじんわりと感じていた。「あなたが」と言ったその後の彼の言葉はそのドアの音に掻き消されてしまったけど、その先の言葉は聞く必要もなく、容易に予想のできる事だった。 好き。彼はきっとそう言ったのだろう。しかし、彼は私の何を見て好きになったのだろうか。彼はいつどこで私を見つけたのだろうか。 結果、彼が私の事をなぜか好きになり、今こうして家まで押し
2019年1月19日 19:00
「あのな、結局誰もいなかったんだよ」でんぱちは、ここまでの経緯を美知に話し「……そうなんですか」と、美知は答えた。露骨に私の悲しみを少しでも背負おうとしているその様は嫌みではなく、私は純粋に彼女の優しさだと受け止めている。 どこにでもあるような店内の広いレストランで、誰一人としてお腹を空かせていなかった三人は、アイスコーヒーとウーロン茶とチャイだけを頼み、店員の少しきつめな視線を無視する事
2019年1月15日 19:00
「その人は誰ですか?」彼女自身の存在は、人ごみに埋もれてしまう程に弱いのに、その感情のない目だけは随分とはっきり見えた。「ああ……」と言ってごまかそうとしている自分に気付いた後に、私はこの人が本当にどこの誰かなんて知らなかった事にも気付いた。たまたま定食屋で会った、きっとこの辺りに住む中年の男性であるのであろうという、それこそ憶測に過ぎない訳で、この人の事なんて私は何も知らない。「でんぱち