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おな
2017年12月22日 08:00
「なんでですか?って小さな声で聞いたの。そしたら、あなたの彼はどうしてもこのソファを欲しがってるからって言うの。全然意味が分からなかったし、私たちはダイニングテーブルを買いに行ってたはずじゃない?だからそれは無理です、ソファを置ける程広い家じゃないんですって言ったら、私ももう長くないからって」「長くない?……っていうか、あの時お金を払ったじゃないか」「このソファがうちに届いた時ね、あなたは家に
2017年12月20日 08:00
それから一週間ばかりが経った頃、僕たちはまたあの古びた家具を扱う小さなお店の前を通った。だけどあのお店はシャッターを閉めていた。それから何度もあのお店の前を通ったけど、そのお店が開いていたことは一度もなかった。「ねえ、本当のことを言うね」カナがそんなことを言い出したのは、そのソファを買って一年も経った頃だ。もちろん僕はそのソファの話だなんて思っていなかったし、なんだかんだ言っても、そのソフ
2017年12月18日 08:00
結局僕はカナの意見に折れた。納得した訳ではなかったけれど、もうこれ以上この言い合いを続けていく気力が残っていなかったし、何よりカナが相当本気であることが分かってしまったのだ。 僕は最後に聞いた。「なんでそこまであのソファにこだわるんだ?」「……分からない」カナは最後までそう言った。 僕たちはとりあえず銀行に行って、お金をおろし、あのソファを買った。明後日に家に到着するだろうと年老いた女
2017年12月15日 08:00
「行きましょ」しばらくしてカナは僕にそう声を掛けた。そしてそのまま僕の手を引き、店を後にした。その店を出ると、外の明かりが酷く明るく感じられ目を細めてしまう。店を後にしてすぐにカナは立ち止まる。「私お金おろしてくる」「え?準備してなかったのか?」「ううん、違う。あのソファを買うの」「は?」「だから、あのソファを買うの。いいでしょ?」「いや、いいでしょって。今日はダイニングテーブルを買
2017年12月13日 08:00
「でもそのソファは割れないんです。なぜだかは私にも分かりません。……でももうずっと昔のものなのに、ずっと割れないで奇麗なままなんですよ」「へえー」カナはそう言いながら、そのソファをじっくりと見ながら、たまに手を触れたりする。僕はと言うと、カナとその女性が話す言葉を端に聞きながら他の家具をほとんど意識もなくただダラダラと眺めていただけだった。「これいくらなんですか?」「えっと、それはですね…
2017年12月12日 08:00
中は薄暗く、古びた家具がいくつか並んでいる。日中で、しかもショーウインドウがあるというのに、これだけ店内に明かりが入ってこないのが不思議だ。おそらく、入り口付近に置かれた大きく古びた化粧台が光の入り口を塞(ふさ)いでいるのだろう。「いらっしゃい」年老いた女性が僕たちに声をかけた。店内は僕たちだけだ、もちろん他に人なんて誰もいない。もちろんなんて言うのは、そう言わせるような雰囲気がそのお店には
2017年12月8日 08:00
そう、ここからが本題なのだ。 僕たちは家具屋を目指して歩いていた。安価な家具が売っている大型の家具屋だ。そこを目指していたはずなのに、カナは本当に小さな一つのインテリアショップを窓の外から眺めていた。……オシャレ、というのだろうか?そこは古さを感じさせる匂いを放つようなお店だ。「アンティークって言うのよ」僕の気持ちを察したかのようにカナが言う。「へえ」特に感想も述べずに僕は本来行くべき
2017年12月6日 08:00
お昼時だというのに、客は僕たち以外には中年の男性が一人カウンターに座っているだけだった。お店自体がそんなに広くないから、それでもある程度のバランスは保てているような気がする。 僕はハヤシライスを頼み、カナはオムライスを頼んだ。十五分程で僕たちのテーブルに並べられたそれらは見た目からしてとても美味しそうで、食べてみてからもそれは期待を裏切ることなく僕たちの胃袋の中へと流れ込んで行った。 ……違
2017年12月4日 08:00
だから僕は「いらない」って言ったんだ。それなのにカナはどうしてもそれを欲しがった。 焦げ茶色をした革張りのソファ。十万円と言う大金を二人で分け合ってようやく買うことができたソファだ。 これを最初に欲しいと言い出したのはカナで、今となってはあの日なんで僕はカナとあのお店に行ってしまったのか、と後悔するくらいなのだけれど、まあ、でもいい。あの店に行く前に偶然入った洋食屋のハヤシライスは実に美味し