『短編連載』そのソファ 第2回/全10回
お昼時だというのに、客は僕たち以外には中年の男性が一人カウンターに座っているだけだった。お店自体がそんなに広くないから、それでもある程度のバランスは保てているような気がする。
僕はハヤシライスを頼み、カナはオムライスを頼んだ。十五分程で僕たちのテーブルに並べられたそれらは見た目からしてとても美味しそうで、食べてみてからもそれは期待を裏切ることなく僕たちの胃袋の中へと流れ込んで行った。
……違うんだ。僕は今ソファの話をしようとしている。ハヤシライスやオムライスが美味しかったという話ではないのだ。
僕たちは十分に満足してその店を後にした。僕たち店から出てしまうと、そこには誰一人客が残っていない。レジで二千円を払い二百円のおつりが返ってくる。カナが「いいよ」というので、僕はその二百円を自分の財布の中に入れた。
※短編集『落としたのはある風景の中で』より
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