落としたのはある風景の中で

『短編連載』そのソファ 第8回/全10回

 それから一週間ばかりが経った頃、僕たちはまたあの古びた家具を扱う小さなお店の前を通った。だけどあのお店はシャッターを閉めていた。それから何度もあのお店の前を通ったけど、そのお店が開いていたことは一度もなかった。

「ねえ、本当のことを言うね」
カナがそんなことを言い出したのは、そのソファを買って一年も経った頃だ。もちろん僕はそのソファの話だなんて思っていなかったし、なんだかんだ言っても、そのソファはほとんどカナではなく僕の居心地の良い場所になっていたのだ。もちろん、既にソファに対する不満なんて一切持っていなかった。
「このソファね、本当は貰ったの」
「え?」
「あの日あのお店でね、おばあさんに言われたの。これを貰って欲しいって、小さな声でね」
僕はカナの言葉の意味をほとんど理解できずに「え、え?」と繰り返すばかりだ。

※短編集『落としたのはある風景の中で』より
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