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何者でもない (瑜伽バージョン : 短編)


「何者でもない」

その言葉は凄く自分を安心させる。


それでも、他人からしたらどうだろう?

例えば…。
シャ乱Qのつんくさんが、モー娘。を売り出す際、「平成のおニャン子クラブ」ってキャッチコピーを付けると、人々に受け入れやすくなる…と言っていた。
人は知らないものに対し、先ず拒否反応を起こすそうだ。
そこで、「平成のおニャン子クラブ」と言えば、何となく「あんな感じね。」と、拒否反応が起こりにくいのだとか。
それは、知らないものに対する人間の反応を言い得ていると思う。

「何者でもありません」
そう答えたら、一切、視界にさえ入れてもらえないどころか、アレルギーの様に
「この人、怪しい人だ。」
と言うイメージが刻印され、アレルギー反応を起こすだろう。


先日のことだった。

「お仕事は?」
「してません。」
「ご家族は?」
「いません。」
「………。」
「……。」
「今、何されてるの?」
「う〜ん。…別に。」
「ご病気か何か?」
「いえ。元気です。」

もし私が男性なら、今流行りの詐欺グループかもと、思われたかもしれない。
女性だけど、化粧気もなく地味な服装でお水系でもなさそうで、FIREした様な賢そうな感じもなく、相手はただ困惑していた。

仕事もしておらず、だからと言って何かしている訳でもなく、生活保護な訳でもなく、病気で働けない訳でもない、家族もいない…いわゆる世間とは切り離された場所で、特に人間関係を築く訳でもなく、本当に私は「何者でもない」のだ。

困惑する顔を見ながら、きっと頭の中がフリーズしてるんだろうな…と、思ったら、なんだか可笑しくなった。

今の社会と言う枠の中で、それが当たり前と思い過ぎて、その枠からはみ出たものを想定できないのだ。
多分、今の時代、枠からはみ出た人は見えにくくなってるし、はみ出る事を強く否定する。叩くと言ってもいいかもしれない。
否定されない様に、叩かれない様に生きている人にとって、枠の外を選ぶ人がいること自体、異次元なんだろう…。
でも、よく考えれば、私が社会に出た時からずっと「宇宙人」って、呼ばれてたっけ。
社会の枠の外だろうと中だろうと、変わらないってことか。
そう思うとますます、可笑しくなってしまった。


昔、孤児で、九州から東北まで流れ着いた人がいた。
孤児で身寄りがいないその人は、どこか寂しそうで影がとても薄かった。存在の話しではなくて、この世に繋ぎ止める何かが薄くて、影を薄くしている感じだった。
でも、もしかしたら、この世に繋ぎ止める何かと言う気がしたが、何も信じていなかったんじゃないか?とも思う。
どんなに仲良くなろうと、相手を信じていないし、期待もしていなかったんじゃないかな。
ずっと昔だから、もう家族が出来ているかもしれない。

その時のその人も、私も、似た状況にいる気がするのだが、私の方がもっと図々しいんだと思う。この世界は何か面白いものが隠れてる気がするんだ。そう言う期待が私にはある。何かを信じてるんだろうな…。
そして、「何者でもない」ことを、それほど不安に感じないのは、そう言う漠然とした何かを信じられるせいなのだろう。

その人は、家族がいなかったが、「何者でもない」訳ではなかった。孤児という枠にいて、仕事もしていたから社会人という枠にもいた。しがらみがないからこそ、枠を持つ必要があったのかもしれない。…誰かに受け入れられ所属するために。それでも、何も信じていないと言う矛盾。


今の社会がストレス社会なのは、ペルソナ…いわゆる、場面に合わせた仮面を沢山付けなくちゃいけないからだと、心理学の時間に習った。
社会人の顔、学校の顔、親の顔、夫の顔、主婦の顔、妻の顔、父親の顔、母の顔、友達の顔…。

そう考えると、もしかしたらパーソナル障害なのかもしれない。
どれ一つとして仮面を付けたくない。
固定された仮面がイヤなのだ。
仮面が固定されそうになると、内なる拒否反応がうずきだす。
同じ仮面を付け続けなければならないのが兎に角イヤなのだ。
でも人は、仮面を知って安心したがる。
「社会人だ。」と言えば、社会人の顔で話しをしなければならない。
社会人どころか、中身はただの子供なのに。だけど、常に子供じゃない。事柄によっては老人になる。
瞬間、瞬間、今の自分があるだけだ。

仮面を付けずに生きるというのは、他人と関わる場合、多くの場合はただ通り過ぎるだけと言うことになる。
相手にとっては通り過ぎるだけかも知れないが、私にとっては違う。毎回、本気で通り過ぎる。だから、直ぐに忘れたりしない。相手は、通り過ぎただけの人を覚えてもいないだろうけど。
だから、瞬間、瞬間現れる自分を楽しむ事が出来るんだ。
何者かになってしまったら、きっと私にとって詰まらない事なんだろう。

誰もが友達がいないかと言えば、そうでもない。
既に私の中身を知って受け入れていて、彼らの中に勝手に仮面は出来上がっているからだろう。
「何者でもない」ことが、本当に支障をきたす訳ではないらしい。
自分は何者でなくても、相手は勝手に仮面を選ぶのだから。

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