( 引用 ) 住野よる『麦本三歩の好きなもの』#03
リモコンを手に取りテレビに向けると、画面の向こうではインタビューを受ける小学生が大好きなお菓子について一生懸命話をしていた。結局その子がチョコを大好きだという以外には伝わってこなかったけど、三歩の口の中はチョコへの期待に満たされた。やっぱりガトーショコラも買おうと思いながら、テレビを消す。
大したことは起こらない。
謎も事件もファンタジーもない。
そういう毎日の中どう生きたってきっとそんなに変わりはしないんだろうと三歩は思っている。でも出来ればどうか自分も、嫌いなもののことじゃなく、好きなものの話をしていたいと三歩は願う。
麦本三歩とは、そういう慎ましやかで贅沢な、どこにでもいる大人のことなのだ。