ゆづき@紋章で読む歴史・教養

西洋紋章学研究家。Twitterの投稿よりも深掘りした紋章話を紹介しています。

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マガジン

  • シリーズ『カエデの国の挑戦』

    「多文化主義の優等生」として世界から注目されるカナダは紋章制度にも多様性を取り入れている。シリーズ『カエデの国の挑戦』では全5回にわたって、カナダを国際社会に決定づけた多文化主義の取り組みに「紋章」という視点から切り込み、その知られざる起源と独自の歩み、そして葛藤を描き出す。

最近の記事

キャプテン・アメリカに学ぶヨーロッパの紋章

今月9日、キャプテン・アメリカ役で知られる俳優のクリス・エヴァンスさんが16歳年下のポルトガル女優と結婚したと報じられました。おめでとうございます!! そこで今回はキャプテン・アメリカという存在をキーワードに「紋章とは何か」を解説していこうと思います。そうすることで、中世貴族の文化であり、ともすれば「お堅い」印象も受けるヨーロッパの紋章についてカジュアルに学ぶことができるとともに、MCU(『アイアンマン』や『アベンジャーズ』に代表されるマーベル作品の映画群)にクリス・エヴァ

    • 引越しするのでリアルが色々と忙しくなります。それに伴ってnoteの更新もしばらく停止させていただきます。よろしくお願い致します。

      • 南アフリカワインとレオパードの話

        去年の末頃にワイン販売大手のエノテカ(大名古屋ビルヂング店)で購入した南アフリカワイン『レオパーズ・リープ』をようやく開けた。このワインのラベルが非常に面白いデザインだったので紹介したい。 百聞は一見にしかず。これがそのラベルである。 『レオパーズ・リープ』の名に恥じない、3頭のヒョウが描かれたラベルではあるが、筆者は一瞬で気がついた。この頭数と姿勢と並び、イングランド王室の紋章の3頭のライオンとそっくりだということに。 しかもフランスの紋章学では、正面を向いた歩き姿のラ

        • 紋章に見る「菊の帝国」

          3月1日といえば何を思い起こすだろうか? かつて東アジアを席巻した日本にとっても無関係ではない、いな、忘れてはならない2つの記念日がこの日にある。 韓国の三一節 旧満州国の建国節 この2つである。三一節は1919年、当時日本領だった朝鮮の京城(現在のソウル)で韓国の分離独立を求めた「三・一運動」に由来する。他方、建国節は文字通り、満州国の建国に由来するが、よく知られているように満州国は実際には日本の傀儡国家だった。 日本、朝鮮、そして満州国。 大日本帝国時代、この3つ

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        • シリーズ『カエデの国の挑戦』
          5本

        記事

          カエデの国の挑戦 第5回「リベラリズムの君主国」

          時あたかもイギリスでEU離脱論が強まり、アメリカでトランプ旋風が巻き起こっていた「ポスト・真実」の時代、若き指導者、ジャスティン・トルドー首相の下、リベラルな政治を志したカナダは世界の中で一際輝いていたことであろう。しかし一方で、カナダには国王を頂点とする「白人が中心の君主国」という封建的な顔があることも忘れてはならない。 封建制と多文化主義という対極の価値観が国家の土台に共存する世界に類を見ない「リベラリズムの君主国」カナダ。 その独自の紋章文化を全5回にわたって紹介して

          カエデの国の挑戦 第5回「リベラリズムの君主国」

          カエデの国の挑戦 第4回「問われるジェンダー」

          「首相、なぜそのようなことを?」 「なぜかって? もう2015年だからさ!」 2015年、エリザベス2世から組閣の大命を降下されたカナダの若き指導者、ジャスティン・トルドー首相は全30人の閣僚を男性15人、女性15人にして世界を驚かせた。 時あたかもイギリスでEU離脱論が強まり、アメリカではトランプ旋風が巻き起こっていた「ポスト・真実」の時代である。同じアングロサクソン国家でありながら、リベラルな政治を志向したカナダは世界の中で一際輝いていたであろう。そのハイライトの一つが

          カエデの国の挑戦 第4回「問われるジェンダー」

          カエデの国の挑戦 第3回「多文化主義」

          時あたかもイギリスでEU離脱論が強まり、アメリカでトランプ旋風が巻き起こっていた「ポスト・真実」の時代、若き指導者、ジャスティン・トルドー首相の下、リベラルな政治を志したカナダは世界の中で一際輝いていたことであろう。しかし一方で、カナダには国王を頂点とする「白人が中心の君主国」という封建的な顔があることも忘れてはならない。 封建制と多文化主義という対極の価値観が国家の土台に共存する世界に類を見ない「リベラリズムの君主国」カナダ。 その独自の紋章文化を全5回にわたって紹介して

          カエデの国の挑戦 第3回「多文化主義」

          カエデの国の挑戦 第2回「色づくカエデ」

          時あたかもイギリスでEU離脱論が強まり、アメリカでトランプ旋風が巻き起こっていた「ポスト・真実」の時代、若き指導者、ジャスティン・トルドー首相の下、リベラルな政治を志したカナダは世界の中で一際輝いていたことであろう。しかし一方で、カナダには国王を頂点とする「白人が中心の君主国」という封建的な顔があることも忘れてはならない。 封建制と多文化主義という対極の価値観が国家の土台に共存する世界に類を見ない「リベラリズムの君主国」カナダ。 その独自の紋章文化を全5回にわたって紹介して

          カエデの国の挑戦 第2回「色づくカエデ」

          カエデの国の挑戦 第1回「カナダの源流」

          2015年、エリザベス2世から組閣の大命を降下されたのは、いまやG7首脳陣の最古株となっているジャスティン・トルドー首相その人であった。当時まだ43歳だったこの若き指導者は、全30人の閣僚を男性15人、女性15人にして世界を驚かせた。 「首相、なぜそのようなことを?」 「なぜかって? もう2015年だからさ!」 時あたかもイギリスでEU離脱論が強まり、アメリカでトランプ旋風が巻き起こっていた「ポスト・真実」の時代でもあった。 そんな中、同じアングロサクソン国家でありながら

          カエデの国の挑戦 第1回「カナダの源流」

          トップガンとキャサリン妃

          イギリス王室は衣装やアクセサリーに言外のメッセージを込める…。そんな話を聞いたことはないだろうか? この話は関東学院大学教授の君塚直隆氏、服飾史家の中野香織氏による『英国王室とエリザベス女王の100年』に詳しい。 同書の通り、こうした服飾外交の先駆者は先王エリザベス2世だった。 しかし彼女が崩御した今もイギリス王室にはそのレガシーが受け継がれている。多様化・複雑化する世界情勢の中でイギリス王室の役割は日に日に変化し、あるいは大きくなっている。これからもイギリス王室の服飾外

          トップガンとキャサリン妃

          青木周蔵は本当に西欧風家紋を使ったのか?

          ①青木周蔵という男 青木周蔵は西欧風家紋を使ったとされている。大正末には沼田頼輔氏の『日本紋章学』の中で、昭和後期にも森護氏の『ヨーロッパの紋章・日本の紋章』の中でもその紋章が紹介されており、日本における紋章研究の両巨頭によってカバーされている。 ところが、意外なことに青木自身がこの紋章を使った明確な資料は残っていないと、青木周蔵研究家の水沢周氏は指摘している。 はたしてどちらが正しいのだろうか。今回はそれを検証したい。 まず青木周蔵の略歴を簡単に見ていきたい。 青木は

          青木周蔵は本当に西欧風家紋を使ったのか?