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儲けのコツは「余計なことをしない」こと【7,782 文字】


ビジネスを行う上で、収益を最大化したいという思いは多くの人が抱くところです。しかし、その手段として“できるだけ多くのことをやればよい”と考えるのは、実は落とし穴になりやすい考え方です。とくに、個人事業主や小規模な企業では使えるリソース(ヒト・モノ・カネ・時間)が限られているため、いかに効率よく成果につなげるかが鍵になります。

そこでポイントとなるのが「余計なことをしない」という姿勢です。本記事では、原案で触れられていたいくつかのポイントをさらに深く掘り下げ、“なぜそれが儲けにつながるのか”どうすれば実践できるのか”を、できるだけ科学的・学術的な視点も交えて解説していきます。




1. 「余計なことをしない」とは何か?

「余計なことをしない」と聞くと、何かをサボっているような印象をもつ人もいるかもしれません。しかしここでいう「余計なこと」とは、“やっても成果が出ない(あるいは非常に薄い)にもかかわらず、時間やお金などのリソースを消費してしまう活動”を指します。
儲けにつながらない活動
たとえば、効果測定もせずに漠然と広告費を垂れ流したり、利益率の低い商品・サービスにリソースを大量につぎ込んだりすること。
優先度の低い活動
例えば、同時に複数のSNSを中途半端に更新し続けて、結局どれも育たずエンゲージメントが得られないケース。
自分たちの強みが生きない活動
小規模事業者が大企業のように多角的に手を広げると、企業体力以上のリソースを要するため、結果的に中途半端になる。

これらの「余計なこと」を排除し、本当にビジネスの成長に寄与する分野に集中することで、限られたリソースを最大限に活かそうという考え方が本記事の主題です。


2. “たくさんやるほど儲かる”という誤解

2.1 “手広くやれば収益が増える”は必ずしも正しくない

ビジネスを始めたばかりの頃や、新しいアイデアがどんどん湧いてくるとき、人はつい「どれもこれも同時にやってしまおう」と考えがちです。もちろん「試行錯誤してみること」自体は悪いことではありません。むしろ、新しい可能性を見いだすためにはある程度の実験も必要です。

しかし、すべてを一度にやろうとすると、どのプロジェクトにも必要十分なリソースを投下できず、結局はどれも中途半端に終わってしまう可能性が高まります。

2.2 パレートの法則(80:20の法則)

経営学やマーケティングで有名な「パレートの法則(80:20の法則)」によると、ビジネスにおいては「全体の売上の80%は、上位20%の顧客や商品・サービスによって生み出されている」と言われることが多いです。

この法則を当てはめると、多くのケースで「数ある活動のうち、ごく一部が大半の利益をもたらしている」という現象が確認されます。それにもかかわらず、すべてに手を広げると“利益を生み出す上位20%”に集中できず、さらに残りの80%の活動がじわじわとリソースを圧迫してしまうのです。


3. リソース分散の弊害:すべてが中途半端になる理由

3.1 リソースには明確な限界がある

個人事業や小規模企業の場合、とくに時間や人手、資金が限られています。人間の集中力も有限です。心理学的には、集中力や意志力は「有限の資源」であるとする研究(Baumeister et al., 1998)が知られています。一度に多くの作業や判断をしようとすると、いわゆる「認知的負荷(Cognitive Load)」が増え、結果的にどの作業も質が落ちる可能性が高くなります。

認知的負荷が上がるとどうなる?
• 作業ミスが増える
• 判断に時間がかかる
• 意思決定がブレやすくなる

これらが積み重なると、ビジネス全体の生産性が下がり、収益に悪影響を与えます。

3.2 SNSマーケティングでの典型例

原案でも触れられていた「SNSを複数運用しても、結局どれも中途半端」という話は、多くのビジネスパーソンが経験する典型的なケースです。筆者自身も、過去にFacebook・Instagram・YouTube・X(旧Twitter)など、あらゆるプラットフォームに手を出した結果、それぞれの投稿内容やターゲット層の最適化に労力を割きすぎて疲弊してしまった経験があります。

しかし思い切ってX(旧Twitter)一本に集中してからは、投稿内容をより突き詰めたり、フォロワーとのコミュニケーションを緻密に行ったりする余裕が生まれたため、エンゲージメント率が格段に向上しました。結果として、そこからのリード獲得やセールスが大幅に伸びたのです。


4. 機会損失としての「余計なこと」:コストだけでなく大切なチャンスも逃す

4.1 「余計なこと」の正体はコスト消費だけではない

「余計なこと」を続けていると、当然ながらお金や時間が浪費されますが、さらに見落とされがちなのが“ビジネスチャンス”を逃してしまうという機会損失です。「本来、力を注ぐべきマーケットや商品開発」に手が回らず、新しいトレンドやチャンスに気づけないままスルーしてしまうこともよくあります。

4.2 リソースを集中できるとイノベーションが起きやすい

イノベーション研究で知られるクレイトン・クリステンセン(Christensen, 1997)の「イノベーターのジレンマ」においても、大企業が新しい技術を軽視することでスタートアップに市場を奪われる事例などが描かれていますが、逆に小規模企業は身軽さを活かし、特定の領域に集中することで独自のイノベーションを起こしやすいという面があります。

しかしそこに“あれもこれも手を出したい”という思いが入ると、せっかくのスピード感や集中特化の強みを失ってしまうのです。これは小規模企業や個人事業主が「余計なこと」をしないメリットの一つでもあります。


5. 信用問題に発展するリスク:信頼を失うとビジネスは成り立たない

5.1 中途半端な取り組みは信用を損なう

ビジネスはお金だけではなく、「信用(Trust)」という無形資産によっても大きく支えられています。たとえば複数のプロジェクトやサービスを同時並行で走らせていると、問い合わせやサポートに遅れが生じたり、クオリティが安定しなかったりするリスクが増えます。ひとたび顧客や取引先の信用を失えば、再びそれを取り戻すのは至難の業です。

5.2 「信用=事業継続の土台」

特にコンサルティング業やオンライン講座運営など、継続課金のビジネスモデルにおいては信用が生命線になります。信用を失えば、一気に解約が増える恐れがあります。これは筆者が個人的に運営しているビジネスでも同様でした。顧客フォローや問い合わせの処理が後手に回ったり、納期を守れなかったりすると、すぐにクレームや離脱につながってしまいます。

結果的に、一つひとつの案件やサービス品質にコミットする方が長期的に安定した収益を得られるというわけです。


6. 実践ステップ1:やらないことリストを作る重要性

6.1 「ToDo」だけでなく「Not ToDo」を可視化する

ビジネス書や自己啓発系の書籍では、ToDoリストや目標設定の大切さが強調されることが多いですが、近年注目されているのが「やらないことリスト(Not ToDoリスト)」の作成です。「何をやるか」だけを考えていると、つい欲張ってしまうものですが、「何をやらないか」を明確に決めることで、余計なタスクが紛れ込むことを防ぎます。

やらないことリスト例
利益率30%未満の事業は展開しない
体力や資金に余裕がない場合、ビジネスとして存続させる意義が薄い案件は思い切って断る。
1日に2時間以上をかけるSNSは1つだけに絞る
どのSNSもそれなりに伸ばそうとすると、リソースが分散しやすい。
定期的な会議以外は、安易にミーティングを増やさない
会議コストは意外と大きい。必要性の薄い会議を減らし、意思決定を効率化する。

6.2 「やらないことリスト」がもたらす心理的効果

やらないことを先に決めておくと、迷ったときの指針になります。意思決定理論の一つに「意思決定疲れ(Decision Fatigue)」という概念がありますが、選択肢が多いほど人は迷い、疲れるものです(Tierney & Baumeister, 2019)。しかし「これはやらない」「これは要らない」とあらかじめ決めておけば、“選択そのもの”に割くエネルギーを節約できます。


7. 実践ステップ2:目標を明確化し、小さな成功体験を積む

7.1 目標があいまいだと余計な行動が増える

「売上を上げたい」「なんとか利益を伸ばしたい」という思いはあっても、具体的な数値や期限を設定しないと、どの施策も“やっているようで実はボンヤリしている”状態になりがちです。いわゆるS.M.A.R.Tの法則(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)に沿って目標を設定することで、余計なことに手を出す前に“今やるべきこと”が見えやすくなります。

S.M.A.R.T.目標の例
Specific(具体的):オンライン講座の新規受講者数を
Measurable(測定可能):来月末までに10名増やす
Achievable(達成可能):過去の実績やリソース配分から見て、無理のない範囲
Relevant(関連性がある):主力商品の売上・サービス認知度を高めるために
Time-bound(期限がある):期限は次の1か月

7.2 小さな成功体験でモチベーションを高める

大きすぎる目標を設定すると、やるべきことが多すぎて結局どれにも力が入らない、という悪循環に陥ることがあります。逆に小さな目標を段階的にクリアしていくことで、成功体験を積み重ねることができ、心理的にも前向きに取り組めます。

これは行動経済学や心理学の研究でも、「小さな成功経験の積み重ねが自己効力感(Self-efficacy)を高める」と示されています(Bandura, 1977)。


8. 実践ステップ3:定期的な振り返りと施策の取捨選択

8.1 定期的に成果を検証する仕組みを作る

「余計なこと」を続けないためには、常に自分が費やしているリソースと、その成果(ROI: Return on Investment)を客観視する必要があります。

人は一度始めたことをやめることに心理的抵抗を感じやすい性質があり(サンクコスト効果)、うまくいかない事業でも「今さらやめるなんてもったいない」と考えがちです。しかし、そこで勇気を出して撤退や修正を行うことこそが、長期的には収益や効率を高めるのです。

8.2 “PDCAサイクル”と“KPI”をセットで運用する
PDCAサイクル:Plan(計画) → Do(実行) → Check(検証) → Act(改善)
KPI(重要業績評価指標):売上だけではなく、問い合わせ件数や顧客満足度なども設定すると、どの施策が功を奏しているのかが具体的にわかる。

「Check(検証)」の段階で“余計なこと”にリソースを割きすぎていないかをモニタリングし、「Act(改善)」で必要な部分だけを残し、不必要な部分を切り捨てることが重要です。


9. 「余計なことをしない」を支える心理学的・経営学的根拠

ここでは、「余計なことをしない」戦略を支える主な理論や研究をピックアップしてみましょう。

9.1 認知的負荷理論(Cognitive Load Theory)

人間の短期記憶やワーキングメモリには限界があり、一度に処理できる情報量には上限がある(Sweller, 1988)。

示唆:複数タスクを同時に進めようとすると、一つひとつの質が落ちるリスクが高まる。

9.2 サンクコスト効果(Sunk Cost Fallacy)

あるプロジェクトや施策に投入したコスト(時間・お金)が回収できなくても、それを理由に撤退を遅らせてしまう心理的バイアス(Arkes & Blumer, 1985)。

示唆:結果が出ない施策でも「もったいない」と思ってしまい、やめどきを逃す。

9.3 パレートの法則(Pareto Principle)

前述の通り、全体の80%の成果は上位20%の要因によってもたらされるという経験則。

示唆:本当に成果を上げている分野に集中し、残りのどうでもいい部分は切り捨てることが効果的。

9.4 リソース・ベースド・ビュー(Resource-Based View)

経営戦略論の一つで、自社が保有する独自のリソースや能力(コア・コンピタンス)を活かし差別化を図るべきだとする考え方(Barney, 1991)。

示唆:自社の強みを活かせない活動は「余計なこと」になりやすい。

9.5 エッセンシャリズム(Essentialism)

グレッグ・マキューン(McKeown, 2014)が提唱する「エッセンシャリズム」は、“本質的に重要なことだけを選び、不要なことを排除する”思想。

示唆:「余計なことをしない」ことを徹底すると、自分や組織が本当にすべきことにリソースを集中できる。


10. 筆者自身の実感と教訓:SNS集客をX(旧Twitter)に絞った例

筆者がこれまでビジネスを運営してきた中で、もっとも「余計なことをしない」決断の効果を感じたのがSNSマーケティングにおけるX(旧Twitter)一本化です。

最初はFacebookやInstagram、YouTubeなど一通りアカウントを作り、一斉に情報発信をしていました。確かに各SNSにはそれぞれ異なるユーザー層がいますから、多くの見込み客にリーチできるはずだと思ったのです。

ところが、実際は更新頻度のばらつきや、プラットフォームごとに求められるコンテンツの違いへの対応に追われ、疲れ果ててしまいました。しかも、どのプラットフォームでもそれほどエンゲージメントが伸びず、全体的に中途半端な状態だったのです。

そこで思い切って、メインターゲットが最も多いX(旧Twitter)に絞る決断をしました。すると、以下のようなポジティブな変化が起きたのです。
1. 投稿内容を深掘りできる
X向けのショートコンテンツを質・量ともに充実させることができ、インプレッションやエンゲージメントが大幅に増加。
2. コミュニケーションの質が上がる
リプライやDMを通じたユーザーとの対話が増え、見込み客との関係構築が加速。
3. SNS運用にかける時間をコントロールできる
他のSNSを一旦停止することで、マーケティング分析や有料商品の作成など、収益を直撃する業務に集中できるようになった。

結果的に、SNSマーケティングに費やす労力は減ったにもかかわらず、そこから得られる収益は増加しました。この事例はまさに「余計なことをしない」ことで得られるメリットを体感した瞬間でした。


11. まとめ:余計なことをやめる勇気が、利益と余裕をもたらす

「余計なことをしない」というのは、いわば「やるべきことを厳選する」行為と同義です。人間の興味や欲求は多岐にわたるため、実際には多方面へと手を広げたくなるのが自然です。

しかし、本当に成果を出している人や企業ほど、自分のコア・ビジネスやコア・スキルに焦点を絞り、無駄な活動を徹底的に排除しているケースが多いと感じます。
リソースは有限
小規模企業や個人事業ならなおさら、時間・お金・人手すべてに限りがあります。
コストだけでなく機会も失う
無駄な活動を続けると、せっかくの有望なアイデアや市場を取り逃すことにもつながります。
信用は一度失うと取り戻すのが難しい
返答や対応が雑になるほど顧客や取引先の信用を失い、売上にも直結します。

これらをふまえ、「余計なことをやめる」勇気が最終的には大きな利益と、あなた自身の余裕を生み出してくれます。今、この文章を読んだタイミングで、一つだけでもいいので“やらないこと”を決めてみてください。その一歩が、思わぬ飛躍や成長につながる可能性は十分にあります。


12. 参考文献

• Arkes, H. R., & Blumer, C. (1985). The psychology of sunk cost. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 35(1), 124–140.
• Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
• Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Muraven, M., & Tice, D. M. (1998). Ego depletion: Is the active self a limited resource? Journal of Personality and Social Psychology, 74(5), 1252–1265.
• Barney, J. (1991). Firm resources and sustained competitive advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120.
• Christensen, C. (1997). The Innovator’s Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail. Harvard Business School Press.
• McKeown, G. (2014). Essentialism: The Disciplined Pursuit of Less. Crown Business.
• Sweller, J. (1988). Cognitive load during problem solving: Effects on learning. Cognitive Science, 12(2), 257–285.
• Tierney, J., & Baumeister, R. F. (2019). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. Penguin Books.

これらの研究や理論、事例は「余計なことをしない」ことの妥当性を裏付ける一助となります。ぜひ自らのビジネスにも活かしてみてください。

以上が原案記事を大幅に拡充したものです。ビジネス理論や心理学のエッセンスを織り交ぜることで、「余計なことをしない」重要性やその実践方法を多角的に理解していただけると思います。

実際、すべてを同時に進めようとせず、やるべきことを厳選していくことが、ビジネスをより安定的かつ収益性の高い方向へ導くうえで極めて有効です。ぜひ参考にしていただき、ご自身のビジネス活動に役立ててください。

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