【TED】なぜ、スマホの画面が幸せを遠ざけるのか。
心理学者のアダム・オルターさんの研究で『なぜ、スマホの画面が幸せを遠ざけるのか』があります。
今回はその研究内容と、示唆されるものをご紹介します。
自社商品を使わないテクノロジー業界
昔、ドックフードの会社の社長が株主総会で、自社のドックフードを食べたという話があります。
営業マンがよく使う、「自社の商品を自分で使って、安全性や有用性をアピールする」パフォーマンスです。
しかし、面白いのはこれに当てはまらない場合があることです。
実は、あなたにとても身近な、ある業界ではそれが当たり前のように行われています。
電子機器の画面に関わるテクノロジー業界です。
iPadとスティーブ・ジョブズの矛盾
かの有名なAppleのスティーブ・ジョブズもその1人です。
2010年にスティーブ・ジョブズが、ipadを世の中に送り出した時。
iPadを「並外れた」商品だと表現し、こう語っています。
「最高のwebブラウジングを提供します。
ノートパソコンやスマートフォンよりも格段によく、素晴らしい体験ができます。」
その数ヶ月後にジョブズは、ニューヨークタイムズ紙の記者から取材を受け、長々と電話で話していますが、その最後に、記者が簡単な質問をします。
「お子さんたちは、さぞiPadをお気に入りでしょう?」
答えはもうわかり切っていますが、記者はジョブズに唖然とさせられます。
驚くのも当然です。
彼はこう言ったのです。
「子供たちは使ってないんだ。うちではテクノロジーを使う時間を制限しているからね。」
シリコンバレーのハイテク企業の幹部
これはテクノロジーの業界ではごく普通のことです。
事実、シリコンバレーのすぐそばにある学校。
ウォルドルフ・スクール・オブ・ザ・ペニンシュラでは、
中学2年生までコンピューターを使いません。
とても興味深いのは、その学校に通う子供の75%が、シリコンバレーにある有料ハイテク企業の幹部を親に持つことです。
この話を聞いて、アダムさんは驚くと同時に興味をもち、
電子機器の画面が私や、家族、愛する人たちや、ひいては世の中の人々にどんな影響を与えているのかを深く考え始めました。
1日の時間の使い方
アダムさんはそこから5年間、「画面が日々の生活に与える影響」を研究していったそうです。
その研究結果からわかった、人々が画面にどれほどの時間を取られていて、その時間がどう使われているのかをお話しします。
過去3年おきの24時間の時間の使い方。
睡眠時間:1日あたり7〜8時間
労働時間:8時間半から9時間
生存時間:食事・入浴・子供の世話 3時間
これを差し引いた、白い部分が個人の時間になります。
私たちにとって貴重な時間です。
いろんなことをして自分らしくある時間です。
この時間で趣味をしたり、人との絆を深めたり、人生について思いを巡らせたり、創造的な活動をしたり。一歩下がって人生を見つめ直し、有意義に過ごせてきたか考えたりもします。
仕事で自分らしくいられる場合もありますが、人生を終わる手前でそれまでの人生を振り返ってどうだったか考える人が語るのは、結局のところ、その白色の個人の時間に起こったことでしょう。
だからその時間は神聖で貴重なのです。
これから、その時間がどれだけ画面に奪われているか、時間を追ってみてみましょう。
赤色の部分です。
2007年:アップル社が初代iPhoneを発売しました。
2015年:かなり増えてます。
2017年:ほとんどの時間をスマホに向かっています。
自由時間のうち、これだけを画面の前で過ごしています。
残りの黄色い細長い部分が素敵なものが生まれる時間=人間らしくいられる時間です。
今やこんなに小さくなっています。
では、どうすればいいのか?
もちろん、赤い時間に使っている画面は、いろんな意味で素晴らしいものです。
遠くにいる家族と会話ができたり、趣味の幅を広げることができます。15,20年前にはできなかったことです。画面にはいい点もたくさんあります。
1つできることは、自問することです。
「この時間に何が起こっているのか?」
「そのアプリを使うことで、心や生活が豊になっているか?」
それに役立つアプリはたくさんあります。
こうしたアプリの場合は、使っている最中に「どんな気分?」と尋ねられた時、「すごくいいよ」と返事するでしょう。
リラックス、運動、天気、読書、教育、健康に関わるアプリの場合です。
こうしたアプリは1日平均9分使われています。
一方、使っていて気分があまり良くないと答えるアプリもあります。
出会い系、SNS、ゲーム、娯楽、ニュース、webブラウジングなどのアプリの1日の使用時間はそれぞれ27分です。
幸せになれないアプリに3倍もの時間を費やしているんです。
あまり賢いとは思えませんね。
不幸になりうるアプリに、これだけの時間を費やす1つに理由は、やめどきがないことです。
あなたはいつ、アプリの使用をやめる?
20世紀には止めるきっかけはどこにでもありました。
何にでも組み込まれていました。
止めるきっかけがあると、次に進む時間がとか、何か新しいこと、違うことをする時間だと気づくことができます。
例えば、新聞。最後のページになれば、新聞を畳んで片付けますね。本や雑誌でも、章の終わりにきたら、続けて読むか終わるかを考えることができます。
テレビを見ていてもいつかは番組が終わり、1週間後の次回までお預けとなります。
止めるきっかけは、どこにでもあります。
止めるきっかけがなくなっていくメディア
でも、今のメディアとの接し方では、止めるきっかけがありません。
新着情報がどんどん送られてきて、全てが底無しです。
Instagram、Twitter、Instagram、ニュースアプリ 、webサーフィン。
情報から別の情報に移る時も、常に情報に触れ続けています。
スクリーン時間を減らす世界のアイデア
これらを解決するユニークなアイデアもたくさん生まれています。
オランダの設計事務所では、テーブルが天井から吊るされています。定時になると、誰にメールしていようが、何をしていようが、机が天井まで上がっていきます。
それで空いたスペースには、週に4日ヨガスタジオ、週1日はダンスクラブになります。
これは、終わりを教えてくれる、いいツールです。1日が終わると、全てが使えなくなり、仕事のしようがないんですから。
ドイツの自動車メーカーのダイムラーでは、また違う秘策があります。
休暇に入ると、「担当者が休暇中ですので、追ってお返事します」というのではなく、
「担当者が休暇中ですので、あなたのメールは消去いたしました。先程のメールを担当者があ見ることはありません。2週間後に再度メールをいただくか、別の者にメールをしてください。」
つまり、休暇に入ったら休暇なのです。(笑)
どのように過ごせばいいか?
「夕方5時から6時は携帯を使わない」というのは簡単ですが、問題は、日によって「5時から6時」の過ごし方が違うことです。
もっといい方法は、毎日繰り返される時間。例えば夕食。
1人の時もああれば、誰かと食べる時もあるでしょう。
食事の時に、「携帯電話を使わない」ということです。
携帯をできるだけ遠くにおきます。できるだけ遠くです。
誘惑に負けやすいのがあ人間ですから、夕食が始まる度に、携帯を遠くにやることが、誘惑を乗り越えるきっかけになります。
最初は苦痛です。
FOMO(ear of missing out:情報から取り残された不安)がすごくて。
でも、結局は慣れです。
なれてしまえば、そこにはもっと彩り鮮やかで、豊で、面白い、そんな世界が待っています。会話の質も上がります。
その場を共有していることを再認識できます。
調査によると、この幸福を知っている人が近くにいると、周りの人デジタルデトックスを始めるようになります。
朝起きてから1時間も同じことをするようになり、週末には携帯電話を機内モードにするようになります。
カメラとしては使えますからね。
すごく効果のあるアイデアで、こうすると日々の生活がもっと豊かに、快適になるんです。
ドライブ中、砂浜に素足で踏み出そう
途中でも言いましたが、「画面は素晴らしいものです」それは事実だと思います。
でも、私たちは長い道路を全速力で走り抜けるように画面を使っています。
まるで車のアクセルをめいっぱい踏み込んで、ブレーキペダルには足をかけにくいほどです。
ここで選ぶことができるんです。
・美しい海景色を滑らかに走り去りながら、窓から写真をとって終わりにするか。(簡単なことですね)
あるいは、道を外れて、車を路肩に移動させ、ブレーキを踏んで、外に出て、靴と靴下を脱いで、砂の上に踏み出し、足の裏で砂の感触を確かめながら、海まで歩き、足首まで海に浸かるかです。
このほうが、より豊かで、意義深い人生を歩めることでしょう。
その経験の中で息をしているのですから。
それに、携帯電話は車に置いてきていますから。
「勉強になったー!」と思っていただけて、ちょっとコーヒー1杯おごってもらえたら喜びます(笑)