[読書]書店主フィクリーのものがたり
翻訳小説は、推理ものなど刺激が強すぎてあまりよく知らない分野なのですが、この本は偶然、手に取りました。好著です。
アメリカの小さな島に住む書店主AJが主人公。AJは大学で出会った妻の生まれ故郷に移り住み、二人で島でただ一つの書店を営んでいました。ですが、妻を交通事故で亡くし失意の日々。
そんなAJの書店に、ある日2歳児が置き去られます。その娘マヤを引き取ったことで彼の人生は大きく変わります。彼自身がマヤに出会う前をPM(プレマヤ)時代と呼ぶほどに。
マヤの成長と共に街の人や親戚などとの関わりも増え、AJも周囲の人間も各々の物語を重ねていきます。2歳だったマヤはあっという間に高校生になり、主人公も亡くなります。人生の儚さを思いつつ、読了しました。
この作品のお勧めポイントを3つ。
まずは、主人公以外の登場人物の心情描写が、丁寧かつ淡々と描き込まれていること。なので、主人公以外もなかなかの波乱万丈人生なのですが、共感できます。
2つ目は、全編通して謎解きの要素がしっかり組み込まれていること。冒頭で盗まれた稀少本の行方や、マヤがアリス島に来た理由が、段々と明らかになります。秀逸なプロットです。
最後にもちろん、書店を舞台にするだけあって、そこかしこにさり気なく本の名前が出てくること。本好きの心を誘います。よく知っている人は唸るようなラインナップなのでしょうが、初心者の私は、出てきた作品名を手がかりに、翻訳物も読んでみようかなと思いました。
誰も悪い人が出てこない優しい作品です。
私は、特にランビアーズが好きでしたが、作品を読んで全体から優しさを感じるタイプなので、主人公AJの台詞を最後に引用します。マヤをまだ引き取る前のタイミングで、マヤに言い聞かせているのですが、既に心配性の父の心境になっています。
きみのことが心配だな。きみがだれもかれも好きになったら、きみはたいてい心を傷つけられることになるんだぞ。まだちょっとしか生きていないから、ずいぶん長いことぼくを知っているみたいな気がしてるんだ。
☆☆☆
著者 ガブリエル・ゼヴィン
訳者 小尾 芙佐
刊行 早川書房
刊行年 2014年原作 2017年文庫版
http://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000013723
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