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「おもしろい!」が学ぶチカラ
子どもの学習意欲が下がっています。宿題をやりたがりません。スマートフォンやゲームに夢中で、勉強に向き合おうとしません。こんな悩みを抱える保護者は少なくないのではないでしょうか。「うちの子は勉強嫌いなんです」という言葉をよく耳にします。でも、本当に子どもたちは「学ぶこと」が嫌いなのでしょうか。
子どもたちの「なぜ?」が消えていく
私は長年、教育の現場で子どもたちと接してきました。そこで気づいたことがあります。子どもたちは本来、とても好奇心旺盛な存在なのです。幼い頃は「なぜ?」「どうして?」と、絶えることなく質問を投げかけてきます。空はなぜ青いの?雨はどうして降るの?お月さまはなぜついてくるの?大人たちを困らせるほど、様々な疑問を投げかけてくるのです。
しかし、学年が上がるにつれて、その「なぜ?」という言葉は徐々に減っていきます。代わりに「これ、テストに出るの?」「覚えなきゃいけないの?」という言葉が増えていきます。子どもたちの目から「知りたい!」という輝きが消えていくのです。
「わかった!」の喜びが失われている
なぜ、こんなことが起きているのでしょうか。その原因の一つは、現代の教育システムにあります。定められた教科書の内容を、定められた時間内に、定められた方法で学ばなければなりません。そこには子どもたちの「知りたい!」という気持ちを育む余裕がないのです。
例えば、理科の授業で「光合成」を学ぶとき。教科書には「植物は光と二酸化炭素と水から栄養を作り出す」と書かれています。これを暗記して試験で答えることができれば「できる子」とされます。しかし、本当の意味で「わかった!」という喜びを味わえているでしょうか。
「おもしろい!」から始まる学び
子どもたちの学ぶ力を引き出すカギは、「おもしろい!」という感覚にあります。人は誰でも、興味を持ったことには驚くほどの集中力を発揮します。例えば、好きなゲームのルールは複雑でも覚えられます。好きなアニメのセリフは自然に暗記できます。それは「おもしろい!」という感覚が、脳を活性化させるからです。
私はある実験を行いました。中学生に「光合成」について教える際、まず「もし地球上から植物がすべていなくなったら、どうなると思いますか?」と問いかけてみました。子どもたちは想像力を働かせ、様々な意見を出し始めました。「酸素がなくなる!」「食べ物が減る!」「地球が暑くなる!」。そこから、植物の持つ不思議な力について、子どもたち自身が「知りたい!」という気持ちを持ち始めたのです。
好奇心が導く深い理解
「おもしろい!」という感覚は、単なる一時的な興奮ではありません。それは深い学びへの入り口となります。光合成の例で言えば、子どもたちは次々と新しい疑問を持ち始めます。「植物はどうやって水を吸い上げているの?」「葉っぱの緑色は何?」「夜は光合成しないの?」。
この好奇心の連鎖が、教科書の範囲を超えた学びへと子どもたちを導いていきます。そして、その過程で得られた知識は、単なる暗記とは違い、しっかりと定着します。なぜなら、それは子ども自身の「知りたい!」という意欲から生まれた学びだからです。
デジタル時代の新しい学び
現代は、スマートフォンやタブレットで簡単に情報を得られる時代です。しかし、それは必ずしもマイナスではありません。むしろ、子どもたちの「知りたい!」という気持ちに、すぐに応えられる環境が整ったと考えることができます。
重要なのは、その情報への向き合い方です。単に答えを調べるのではなく、その答えから新たな疑問を持つ。その疑問について考え、さらに調べる。そんな学びのサイクルを作ることができれば、デジタルツールは強力な味方となります。
考えることの楽しさ
「考えること」自体が楽しいと感じられる環境を作ることが大切です。正解のない問題について考えることも、その一つです。例えば「人工知能は人間を超えるのか?」という問いには、明確な答えはありません。しかし、それについて考えることで、技術や倫理、人間の本質について深く考えるきっかけとなります。
このような思考の訓練は、単なる知識の習得以上に重要です。なぜなら、現代社会で直面する問題の多くには、一つの正解がないからです。様々な角度から問題を考え、自分なりの答えを見つけていく力が必要とされています。
失敗を恐れない環境づくり
「おもしろい!」と感じられる学びには、もう一つ重要な要素があります。それは「失敗を恐れない環境」です。間違いを恐れると、新しいことに挑戦する勇気が失われます。そして、その結果、学びは表面的なものにとどまってしまいます。
失敗は学びの機会だと捉え直す必要があります。間違った答えから、なぜそう考えたのかを探ることで、より深い理解に至ることができます。また、失敗を恐れずに質問できる環境があれば、子どもたちは積極的に「わからない」ことを表明し、理解を深めようとするでしょう。
個性を活かした学び
すべての子どもが同じように学ぶ必要はありません。それぞれの興味や関心、得意分野は異なります。あるテーマについて深く掘り下げたい子もいれば、広く浅く知りたい子もいます。数式で理解したい子もいれば、図や絵で理解したい子もいます。
この多様性を認め、それぞれの子どもに合った学び方を見つけることが大切です。それにより、より多くの子どもたちが「おもしろい!」と感じられる学びに出会えるはずです。
未来を創る力
「おもしろい!」という感覚から始まる学びは、単に知識を得るだけではありません。それは、未来を創る力を育てることにもつながります。なぜなら、好奇心と探究心は、イノベーションの源だからです。
現代社会は急速に変化しています。10年後、20年後には、今は存在しない職業が生まれているかもしれません。そんな時代を生きていく子どもたちに必要なのは、変化に対応する力であり、新しいものを生み出す力です。その基礎となるのが、「おもしろい!」と感じ、主体的に学ぶ力なのです。
おわりに
子どもたちの「学ぶ力」は決して失われていません。ただ、それを引き出す環境や機会が不足しているだけです。「おもしろい!」という感覚を大切にし、子どもたち一人一人の好奇心に寄り添う。そうすることで、子どもたちは本来持っている「学ぶ力」を発揮できるようになります。
教育のあり方は、時代とともに変わっていく必要があります。しかし、「おもしろい!」という感覚が学びの原動力であることは、これからも変わらないでしょう。子どもたちの目が輝く瞬間を大切にしながら、新しい学びの形を模索していきたいと思います。
デジタル技術の進歩は、そんな新しい学びの可能性を広げています。子どもたち一人一人の興味や関心に寄り添い、個別最適化された学びを提供することも、技術的には可能になってきています。しかし、それらはあくまでもツールです。大切なのは、子どもたちの「知りたい!」という気持ちを大切にし、それを育んでいくことなのではないでしょうか。