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【書評】『子育てを変えれば脳が変わる』
脳科学に基づく子育ての本質
本書は、医学と脳科学の専門家である成田奈緒子氏による、子育ての新しい指針を示す一冊です。著者は「子育て=脳育て」という視点から、子供の健全な発達のために本当に必要なことは何かを説き明かしています。
その根幹となる考え方は驚くほどシンプルです。「最初の5年間で『早寝早起き』習慣をつけることさえ頑張れば、あとは楽」という一文に集約されています。この主張は、最新の脳科学研究に基づいており、子育ての本質を鋭く突いています。
3つの脳と発達の順序
著者はまず、人間の脳には3つの種類があることを説明します。「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」です。これらは決まった順序で発達していきます。
「からだの脳」は0〜5歳で育ち、生命維持に必要な基本的な機能を担います。睡眠、食欲、呼吸、姿勢維持などがこれにあたります。「おりこうさんの脳」は6〜14歳で育ち、知能や言語機能を発達させます。「こころの脳」は10〜18歳で育ち、論理的思考や問題解決能力を司ります。
著者は、この順序を建物に例えて説明します。「からだの脳」は1階、「おりこうさんの脳」は2階、「こころの脳」は両者をつなぐ階段です。建物が下から建てられるように、脳も順序立てて育てる必要があります。
早期教育の落とし穴
本書で特に印象的なのは、早期教育への警鐘です。2歳児に難しい勉強をさせたり、小学生に多くの習い事をさせたりする現代の傾向に対し、著者は明確に「それは間違いです」と指摘します。
なぜなら、「からだの脳」が十分に育っていない段階で知的教育を急いでも、効果は期待できないからです。むしろ、健全な発達を阻害する可能性があります。著者は「二階を先につくる家づくり」という比喩を用いて、この危険性を分かりやすく説明しています。
セロトニンの重要性
本書では、脳内物質「セロトニン」の働きにも大きく着目しています。セロトニンは3つの脳すべてに好影響を与える重要な物質です。そして、このセロトニンを効果的に分泌させる最も確実な方法が、「早寝早起き」なのです。
著者は、5歳までの子供には11時間以上の睡眠が必要だと指摘します。そのために「夜8時就寝」を強く推奨しています。これは一見単純な提言に思えますが、現代の生活様式の中では実現が難しい場合も多いでしょう。しかし著者は、これこそが子育ての要であると強調します。
親の役割の再定義
本書の特徴的な点は、親の役割について新しい視点を提供していることです。従来の「子供のために時間を使い、手をかける」という考え方ではなく、むしろ親自身が健康で幸せであることの重要性を説いています。
特に印象的なのは、親が自分の趣味や楽しみを持つことを推奨している点です。親が充実した生活を送り、その体験を子供と共有することで、子供の「おりこうさんの脳」も自然と育つと説明しています。
言葉を引き出す重要性
著者は、子供との会話の質についても独自の見解を示しています。特に強調されているのは、「フルセンテンス」での会話の重要性です。幼い頃から、主語と述語を明確にした文章で話すことを習慣づけることで、思考力や表現力が育つと説明しています。
また、「褒める」より「認める」という考え方も印象的です。良い成績や行動を褒めるだけでなく、その子の存在そのものを認めることの重要性を説いています。これは子供の自己肯定感を育てる上で、非常に示唆に富む指摘です。
家庭という小さな社会の重要性
本書は、家庭を「もっとも小さな単位の社会」として位置づけ、その中での役割や経験の重要性を強調しています。子供に家事を手伝わせることや、家族の一員としての責任を持たせることが、脳の発達に重要な影響を与えると説明しています。
反抗期への対応
思春期の反抗については、「先輩モード」という興味深いアプローチを提案しています。親として正論を述べるのではなく、少し年上の先輩として接することで、子供の心に響く会話ができると説明しています。
結論-シンプルで科学的な子育て論
本書の最大の魅力は、複雑に見える子育ての本質を、脳科学の知見に基づいてシンプルに整理している点です。「早寝早起き」という基本を徹底し、その上で子供の自然な成長を見守る。そして親自身も幸せに生きる。この単純だが深い提言は、現代の子育て中の親たちに大きな示唆を与えてくれます。
特に印象的なのは、この方法で育てると「子育ては後になるほどラクで、楽しくなる」という著者の言葉です。これは多くの親の実感とは異なるかもしれませんが、脳の発達過程を考えれば理にかなった結論と言えます。
本書は、子育ての不安や迷いに悩む親たちに、科学的根拠に基づいた明確な指針を示してくれる貴重な一冊です。同時に、子供の発達に関する深い理解を促してくれる、優れた教養書としての価値も持っています。