見出し画像

【書評】『12歳までの 子どもの好奇心の育て方で子供の学力は决まる!』

著者・永井伸一氏が獨協医科大学で27年間、その後中高一貫校の校長として11年間、約4000人もの学生・生徒の成長過程を見てきた経験から導き出された子育ての本質に迫る一冊です。

親から子どもへの愛情と適切なしつけこそが重要

本書の核心は、子どもの好奇心を伸ばすには「親からの愛情」と「適切なしつけ」の二つが不可欠だという点にあります。特に0歳から3歳までは、母親の絶対的な愛情が何より大切です。この時期に十分な愛情を受けた子どもは、自分への信頼と外界への信頼を育み、それが「好奇心の芽」を育てる土台となります。

著者は、早期教育や過度な勉強に偏重した子育てに警鐘を鳴らしています。幼児期からドリルやプリント学習ばかりさせると、自分の経験から物事を考える力が育たず、新しい状況に直面したときに対応できない子どもになってしまうと指摘します。

遊びと体験が育む真の学力

著者は、遊びこそが子どもの成長にとって最も重要な要素だと強調します。特に外遊びは、自然の心地よさや厳しさに触れることで感受性を育み、友達とのかかわりを通じてコミュニケーション力や問題解決力を養います。

また、遊びを通じた体験は、後の学習にも大きな影響を与えます。たとえば、虫や動植物との出会いは、観察力や理科的な思考の基礎となります。買い物に同行することで社会の仕組みを学び、それが社会科の学習につながっていきます。

パターン学習の限界

著者は現代の受験教育、特にパターン学習の問題点を指摘します。確かに、反復練習で知識を詰め込めば、テストでいい点数は取れるかもしれません。しかし、それだけでは真の学力は身につきません。なぜなら、人間の脳は12歳までに基礎的な部分がほぼ完成するため、この時期に教え込まれた回路しか使えない脳になってしまうからです。

むしろ重要なのは、幼少期にさまざまな体験を通じて好奇心を育み、自ら考え、行動する力を養うことです。それが本当の意味での学力、そして生きる力につながっていくのです。

父親と母親の役割分担

本書では、子育てにおける父親と母親の役割分担についても言及しています。母親の役割は「無条件の愛情を注ぐ存在」「いつも見守る存在」であるのに対し、父親は「社会を教える存在」「ちょっと怖い存在」であることが望ましいとしています。

特に父親には、社会で生きていくために必要なルールやマナー、将来の仕事に対する意識などを教える役目があります。また、自然の中でダイナミックな遊びを教えることも父親ならではの重要な役割です。

メディアとの向き合い方

現代の子育てにおいて避けて通れないのが、テレビ・ゲーム・スマートフォンとの付き合い方です。著者は、これらのメディアへの接触時間を制限することの重要性を説きます。

なぜなら、これらは一方的に情報を受け取るだけの受動的な活動で、脳をほとんど使わないからです。特にゲームは依存性が高く、長時間接すると意欲が低下し、何に対しても興味を持てなくなる危険があります。

子どもの個性に応じた接し方

著者は、子どもには主に3つのタイプがあると分析します。見たものをすぐに行動に移せるタイプ(A型)、聞いたことを文章に換えてから考え行動するタイプ(B型)、目で読んだ文字から物事を組み立て理論を構築するタイプ(C型)です。

それぞれのタイプによって得意分野や学び方が異なるため、画一的な教育ではなく、個々の特性に応じた働きかけが必要だと説きます。

環境問題への意識

本書の特筆すべき点は、子育ての問題を地球環境の問題とも結びつけて考えている点です。著者は、どんなに理想的な子育てをしても、人類が生存できる地球でなければ意味がないと指摘します。

そのため、幼いときから自然に触れる機会を多く持たせ、その素晴らしさや脅威を実感させることで、環境問題に対する意識を育むことの重要性を説いています。

生きる力を育む子育てのために

本書は、単なる子育て指南書ではありません。子どもの成長に必要な本質的な要素を、脳科学や教育現場での豊富な経験に基づいて解き明かしています。

特に印象的なのは、子どもの「好奇心」を伸ばすことが、学力向上だけでなく、人としての生きる力を育むことにつながるという指摘です。そして、その好奇心を育むには、早期教育や詰め込み教育ではなく、愛情とし適切なしつけ、そして豊かな体験が必要だということを、説得力をもって伝えています。現代の親たちが直面している教育や子育ての悩みに、明確な視座を与えてくれる一冊と言えるでしょう。


いいなと思ったら応援しよう!