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【書評】『子どもの話にどんな返事をしてますか?-親がこう答えれば、子どもは自分で考えはじめる』
子育ては喜びに満ちた営みですが、同時に多くの困難もともないます。特に子どもとのコミュニケーションには悩まされることが多いのではないでしょうか。本書は、そうした親たちに具体的な指針を示してくれる画期的な育児書です。
著者のハイム・ギノット博士は、教師としての経験を経て臨床心理学を学び、長年にわたって親子関係の研究と実践に携わってきました。その豊富な経験と知見をもとに、子どもとの効果的なコミュニケーション方法を説いています。
思いやりの言葉が子どもを育てる
本書の核心は、思いやりと共感に基づくコミュニケーションの重要性です。著者は、子どもの感情や考えを否定したり批判したりするのではなく、まずそれらを受け止め、理解を示すことが大切だと説きます。
たとえば、学校で嫌な思いをして帰ってきた子どもに対して、「そんなことで騒ぐんじゃない」と叱るのではなく、「つらい一日だったのね」と共感的に受け止めることで、子どもは自分の気持ちを整理し、前向きになることができるのです。
感情と行動は区別して扱う
著者が強調するのは、子どもの感情と行動を区別して扱うことの大切さです。たとえば、弟や妹に対する怒りや嫉妬の感情そのものは否定せず受け入れながら、暴力的な行為は制限するといった具合です。
「弟のことが嫌いな気持ちはわかるけれど、たたいてはいけませんよ」というように、感情は認めつつ行動には明確な制限を設けることで、子どもは自分の感情に正直でいられると同時に、適切な自己抑制も学ぶことができます。
ほめ方にも工夫が必要
意外に思えるかもしれませんが、子どもをほめる際にも注意が必要です。「あなたはいい子ね」といった性格や人格を評価するような言葉は、かえって子どもに不安や反発を引き起こす可能性があると著者は指摘します。
代わりに、具体的な行動や努力を認める言葉をかけることを推奨しています。「丁寧に片付けができましたね」「一生懸命取り組んでいる姿が印象だった」といった具合です。
怒りの感情との向き合い方
親が怒りを感じるのは当然のことです。しかし、その表現の仕方によって、子どもに与える影響は大きく異なってきます。著者は、建設的な怒りの表現方法として、以下のような三段階のアプローチを提案しています。
まず最初に、自分が不快な気持ちでいることを伝えます。次に、より強い怒りの感情を表現します。そして最後に、怒っている理由と、どのような行動を期待しているかを説明します。このように段階を踏んで感情を表現することで、子どもを傷つけることなく、効果的に意図を伝えることができます。
性や死といったデリケートな話題への対応
本書では、性教育や死との向き合い方といった難しい話題についても、具体的なアドバイスが示されています。たとえば性に関する質問には、子どもの発達段階に応じて、事実に基づいた簡潔な説明をすることを勧めています。
また、大切な人との死別に直面した子どもに対しては、悲しみの感情を十分に表現させ、共有することの大切さを説いています。
子どもの自立を支える
著者は、子どもの自主性や自立心を育むことの重要性も強調しています。たとえば、年齢に応じて選択の機会を与えたり、自分で問題を解決する経験をさせたりすることを推奨しています。
ただし、それは放任を意味するのではありません。親は明確な枠組みを示しつつ、その中で子どもが自分で考え、決断する機会を提供するのです。
まとめ
本書の特徴は、理論的な説明にとどまらず、具体的な会話例を多く示していることです。これにより読者は、実践的なコミュニケーションスキルを学ぶことができます。
また、著者の提案する方法は、即効性のある技法というよりも、長期的な視点に立った子育ての指針と言えます。子どもとの信頼関係を築き、健全な自尊心を育むための地道な取り組みの重要性を説いています。
本書は1965年の初版以来、30カ国以上で翻訳され、多くの親たちに影響を与えてきました。その普遍的な価値は、今日においても色あせていません。子育ての悩みを抱える親たちにとって、本書は具体的な指針となるでしょう。また、教育者や保育者にとっても、子どもとの関わり方を考える上で示唆に富む一冊となるはずです。