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【書評】『子どもとスマホ - おとなの知らない子どもの現実』

スマホ時代を生きる子どもたちの現状と課題

スマートフォンが子どもたちの生活に浸透し、便利な道具として活用される一方で、さまざまな問題も引き起こしています。本書は長年、子どもたちの取材を続けてきたジャーナリストの石川結貴氏が、子どもたちのスマホ利用の実態と、そこから生まれる課題、そして解決への道筋を示した良書です。

子どもたちの変わりゆく世界

まず本書で印象的なのは、子どもたちを取り巻く環境の激しい変化です。かつて子どもたちは学校や地域社会の中で、多様な人間関係を築きながら成長していきました。しかし今や、スマホを通じたコミュニケーションが主流となり、SNSでの交流が重要な位置を占めています。

著者は「文章よりも『スタンプ』のほうが伝わりやすい」という興味深い指摩を行っています。LINEなどのSNSでは、言葉で表現するよりも、絵文字やスタンプを使って感情を伝えることが一般的になっています。これは単なるトレンドではなく、子どもたちのコミュニケーション様式の本質的な変化を示しているのです。

お金をめぐる新たな課題

本書で特に注目すべき指摘は、子どもたちの金銭感覚の変化です。「お小遣いサイト」と呼ばれるウェブサービスを利用して、簡単に現金を得られる仕組みが存在します。ゲームで遊んだり、アンケートに答えたりするだけで、ポイントが貯まり、それを電子マネーやギフトカードに交換できるのです。

著者は、このような仕組みが子どもたちの労働観や金銭感覚に与える影響を懸念しています。働かずしてお金が得られる経験は、健全な金銭感覚の形成を阻害する可能性があるからです。

深刻化するネット依存とトラブル

ゲーム依存の問題も本書では詳しく取り上げられています。特に注目すべきは、まじめで責任感の強い子どもほど依存のリスクが高いという指摘です。オンラインゲームでは、チームメイトとの約束や役割分担が重要になります。真面目な子どもほど、その責任を重く受け止め、結果として長時間のゲームプレイに陥りやすいのです。

また、「JKビジネス」と呼ばれる危険な商業活動の存在も明らかにされています。女子高校生をターゲットにした様々なビジネスが、SNSを通じて展開されているのです。著者は、こうした問題の背景には子どもたちの孤独や承認欲求があると分析しています。

解決への具体的なアプローチ

本書の価値は、問題の指摘だけでなく、具体的な解決策を提示している点にあります。特に重要なのは、「見える化」という考え方です。スマホの利用時間や料金を可視化し、子ども自身に考えさせる機会を作ることを提案しています。

例えば、スマホの利用時間を労働時間に換算し、「もしこの時間をアルバイトに使っていたら、どれだけの収入が得られたか」を計算させる方法は、非常に効果的です。子どもたちに時間の使い方を考えさせる良いきっかけになるでしょう。

おとなの役割と責任

本書で最も重要なメッセージは、おとなの役割の重要性です。子どもたちのスマホ利用を単に制限するのではなく、適切な利用方法を示し、危険から守る必要があります。そのためには、おとな自身がスマホやインターネットについての理解を深める必要があるのです。

著者は、フィルタリングの設定や利用ルールの作成など、具体的な対策を提示しています。特に印象的なのは、「紙チェック」という方法です。親子でスマホの利用について話し合い、それぞれの考えを紙に書き出すことで、相互理解を深めることができます。

変化する社会と子どもたちのこれから

AIやIoTの発展により、私たちの社会は大きく変化しようとしています。本書の最終章では、そのような時代を生きる子どもたちに必要な力について考察されています。

特に印象的なのは、「本当に大切な情報はネットに載っていない」という指摘です。インターネット上には膨大な情報がありますが、人生の機微や人との出会いがもたらす気づきは、実際の体験からしか得られないのです。

おわりに

本書は、スマホ時代を生きる子どもたちの現実を、豊富な取材に基づいて描き出した貴重な記録です。同時に、この時代を生きるおとなたちへの明確なメッセージも含まれています。

子どもたちがスマホやインターネットと適切に付き合いながら、健全に成長していくために、私たちおとなには何ができるのか。本書はその問いに対する示唆に富んだ答えを提供してくれています。教育関係者はもちろん、子育て中の親や子どもに関わるすべての人々に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

デジタル社会における子育ての課題と可能性を、バランスの取れた視点で描き出した本書は、これからの子どもたちの健全な成長を考える上で、必読の書と言えるでしょう。


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