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【書評】『学校に頼らなければ学力は伸びる』

教育現場から提案する新しい学習スタイル論

この本は、現役の英語教師である山本崇雄氏が、変化の激しい現代社会を生き抜くために必要な「自律型学習者」になる方法を、中高生向けに分かりやすく解説した学習指南書です。著者は冒頭で、IoT、AI、VR、ブロックチェーンなど、めまぐるしく変化する社会の中で、明治・大正時代からほとんど変わっていない学校教育のあり方に疑問を投げかけています。

なぜ今、自律型学習者が必要なのか

著者によれば、現代の学校には大きな課題があります。教師が一方的に教え、生徒は受け身で学ぶという従来型の授業では、社会で必要とされる「自ら課題を見つけ、解決する力」が育ちにくいのです。実際の社会では、答えが一つとは限らず、また一人で考えて解決するのではなく、多様な選択肢の中から仲間と協力しながらよりよい答えを見つけていく必要があります。

しかし、学校ではいまだに「正解は一つ」という前提で、個人で問題を解くことが求められています。このギャップに違和感を覚える生徒も多く、不登校の要因の一つにもなっているといいます。

著者は、学校システムを根本から変えることは容易ではないため、生徒自身が「自律型学習者」となることを提案しています。自律型学習者とは、自分の「学び方」を確立し、自己コントロールしながら自発的に学び、成長していける人を指します。

具体的な学習方法の提案

本書の特徴は、具体的な学習方法が豊富に紹介されていることです。著者が提案する「魔法のノート」は、その代表例です。これは、ノート2ページを4分割し、「My Question(私の問い)」「Story Mapping(わかったことの図解)」「Summary(言葉で要約)」「My Opinion(私の意見)」という要素で構成されます。

このノートの特徴は、単なる板書の書き写しではなく、自分で「問い」を立て、図解して理解し、要約し、意見を持つという一連のプロセスを含んでいることです。これにより、受動的な学習から能動的な学習へと転換することができます。

また、付箋を活用した学習方法も提案されています。辞書で調べた単語に付箋を貼っていく方法や、理解度を可視化するために付箋を活用する方法など、実践的なアイデアが豊富に紹介されています。

学びを支えるマインドセット

著者は、学習を継続させるために必要な4つのマインドセットも提示しています。

1つ目は「Forgiveの精神」です。これは、できないことを自分で許すことの重要性を説くものです。人それぞれに成長のスピードは違い、「できない」ことは可能性の証であると捉え直すことを提案しています。

2つ目は「プラスマイナスの精神」です。マイナスの出来事を「可能性のマイナス」としてとらえ、それをプラスに転じさせる考え方です。

3つ目は「100回の法則」です。何かを達成したい時、あきらめる前に100回は挑戦してみようという心構えです。

4つ目は「習慣を変えるwith」です。好きなことをしている時に学習道具を近くに置くなど、副次的な行動を徐々に主たる行動に変えていく方法です。

社会とつながる学び

本書の重要なメッセージの一つは、学びを社会とつながるものとして捉えることです。著者は、単なる入試対策としての学習ではなく、社会の課題解決につながる学びを推奨しています。

例えば、「食品ロスを減らすアイデアを出そう」「外国人観光客をハッピーにする飲食店を作ろう」といったプロジェクト型の学習を提案しています。これらは、実社会の課題に取り組みながら、さまざまな教科の知識を総合的に活用する機会となります。

最終的な目標は「幸せ創造者」に

著者は、自律型学習者の最終目標として「幸せ創造者(Happiness Creator)」になることを掲げています。これは、単に自分の学びだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)のような世界規模の課題解決に貢献できる人材になることを意味します。

本書の特徴は、現場の教師ならではの具体的で実践的な提案が豊富なことです。また、学校教育の課題を指摘しながらも、建設的な解決策を示していることも評価できます。

ただし、すべての生徒が著者の提案する方法に適応できるわけではないかもしれません。また、学校や教師の役割も重要であり、著者も終章で教師のプロフェッショナル化や学校を社会に開放する必要性を訴えています。

とはいえ、変化の激しい現代社会において、自律的に学び続ける力の重要性は増すばかりです。その意味で、本書は生徒だけでなく、教師や保護者にとっても示唆に富む一冊といえるでしょう。


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