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【書評】『子は親を救うために「心の病」になる』
心の病は親子の絆を取り戻すチャンス
本書は、精神科医である高橋和巳氏が、長年の臨床経験から導き出した親子関係についての考察です。タイトルにある通り、子どもの「心の病」は、実は親子関係を修復するための積極的なサインであると著者は指摘します。
不登校、引きこもり、拒食症といった思春期の問題行動は、単なる逸脱行為ではありません。それは子どもが親に向けた切実なメッセージであり、親子でより良い関係を築くためのきっかけとなりうるのです。
親から子へと受け継がれる「生き方」
著者によれば、子どもは乳幼児期から学童期にかけて、親の生き方を無意識のうちに吸収していきます。それは善い面も悪い面も含めた、まさに丸ごとの取り込みです。
たとえば、「我慢が美徳」という価値観を持つ母親から育てられた子どもは、同じように我慢することを善しとする価値観を身につけます。そして思春期を迎えた時、その価値観に疑問を持ち始め、それが心の病という形で表出することがあるのです。
三つの異なる親子関係
本書では、親子関係を以下の三つに分類して論じています:
「普通の」親子関係 - 全体の9割以上を占める一般的な関係
虐待のある親子関係 - 子どもが親から否定され続ける関係
「親」を持てなかった関係 - 障害などにより親との心理的な交流がない関係
それぞれの関係性の中で、子どもはどのように心を育み、また傷つけられていくのか。著者は豊富な臨床例を交えながら、丁寧に解説していきます。
親子の「心の病」は互いを癒すプロセス
本書の特徴的な主張は、子どもの心の病が、実は親自身の抱える問題と深く結びついているという点です。子どもは親の苦しみを敏感に感じ取り、その解決を自らの使命とすることがあります。
たとえば、母親の生き方に違和感を持ちながらも直接は表現できない娘が、拒食症という形でそれを表現する。そしてその過程で、母親自身も自分の生き方を振り返るきっかけを得る——このように、子どもの症状は親子双方の成長の機会となりうるのです。
「宇宙期」という新しい発達段階
著者は従来の心理発達理論に、独自の「宇宙期」という段階を付け加えることを提案します。これは、社会的な価値観や役割から一度離れ、より本質的な「存在」としての自分を見つめ直す時期を指します。
この段階は、大切な人との死別や、重大な挫折といった体験をきっかけに訪れることがあります。そして時に、それは新たな気づきや成長をもたらす機会となるのです。
カウンセリングの本質
本書の最後で著者は、カウンセリングの本質について語ります。それは単なる問題解決や理論の適用ではなく、その人の「存在」そのものに耳を傾けることだと著者は説きます。
理論や技法は重要ですが、それ以上に大切なのは、目の前の人の存在をありのままに受け止めることです。そこから真の理解と癒しが始まるのだと著者は主張します。
おわりに
本書は、心理療法や精神医学の専門書でありながら、驚くほど読みやすい文体で書かれています。それは著者が、専門的な知見を臨床現場での具体的な事例に結びつけて説明しているためでしょう。
特に印象的なのは、著者が「病理」という否定的な視点から離れ、むしろ症状の中に込められた積極的な意味を読み取ろうとする姿勢です。それは患者やクライアントに対する深い理解と共感に基づいています。
現代社会において、親子関係の問題は避けて通れない重要なテーマです。本書は、その問題に取り組むための貴重な示唆を与えてくれます。それは専門家だけでなく、親子関係に悩む多くの人々にとって、大きな励ましとなるはずです。
本書の意義は、単に問題の分析や解決策を提示することにとどまりません。それは私たちに、人との関わりの本質について、深い洞察を与えてくれるのです。