闇夢さん☕《若い優秀な社員に私は期待しています》☆昔は役職に憧れ頑張って来ました。でも古い時代は終わらなければと思います♡【そして、お金は大切な、そして誰かの笑顔の為に使いたいと思います】〈カフェ88闇夢4〉
カラン、カラーン。
ドアが開いて、闇夢さんが入って来た。
日差しや風が時折なんとなく春を感じる今日この頃だけど、まだまだ寒い日が続く。
お客さんのホストの冬矢君のお店が、オープンする話からなんとなくそわそわしている。
そんな中、その冬矢君を知っている闇夢さんが入って来た。
「いらっしゃい、闇夢さん」
黒いダウンを着ている。そして、カウンターの左端に座った。ダウンは、真ん中の椅子に置いた。
「ママさん、こんにちは。冬矢君は、お店オープンしたのかな?」
「もうすぐみたいですよ。私も招待されてます。良かったら闇夢さんも行きますか?。冬矢君も喜びますよ」
私は、そう言いながら闇夢さんの淡い緑色のマイカップにコーヒーを準備した。
「いやいや、私は遠慮しますよ。恥ずかしいですし。また、ここで彼に逢えればそれで」
そう言って、嬉しそうに出したおしぼりで手を拭いて、グラスの水を一口飲んだ。
「そうですか。残念です。また、お店の事はお話しますね」
そう言って、私は淡い緑色の闇夢さんのマイカップに入れたコーヒーをカウンターに置いた。
「ありがとうございます」
「でも、いろいろなお客さんと出逢えて、私も楽しいです」
そう私が言うと、闇夢さんは、コーヒーを一口。
「私も、ここでママさんや、あのホストの彼と出逢うとは思わなかったですよ。お陰で、本当にいろいろな事が変わりました」
「そうですよね。本当に。若い頃に弾いていたギターにまた向き合えたし。私も聞けて嬉しいですよ」
闇夢さんは、にこっと笑った。
「本当に、ホストの彼に逢わなければ、ギターをまた弾く事もなかったかなぁ。外見とかで偏見的だった自分を知った事。そして、頑張ってる彼や優しい賢い彼を見て、私の趣味のギターもですが、社員にもいろいろ見方が変わりました」
そう言って、またコーヒーを一口飲んだ。
「私は、それなりの地位に居ますが、仕事ばかりが必死で、それが当たり前だって思って来ました。あの頃は出世が憧れだったし、それが優秀な仕事人と思ってましたからね。もちろん、確かにそれもありますが、今は違うようにも感じてます。私の若い部下、社員を見ても何だか冬矢君を重ねてしまって、いろいろ話したくなりましてね。今は、部下とよくランチや飲みに行くようになりました。その時は、一切、仕事の話はしません。趣味とか悩みとか。そしたら、みんなが明るくなったんですよ。私に話しに来るようになったし、なんとなく仕事もはかどっているんですよ。私が間違っていたのか、世の中が変わって来たのかわからないですが、不思議ですよね」
闇夢さんが、しみじみ話す。
「闇夢さんが間違っていた訳でもないですし、確かに世の中が変わって来た事は確かだと思います。それが良かったのか悪かったのかはわからないですが、そういう世の中になった事は確かかもしれませんよね。でも、良かったじゃないですか。嬉しそうですよ」
私も、嬉しそうに言った。
「案外、簡単な事なのに、意外に気づけなかったり、やはり固定観念が邪魔したりで意固地になるんでしょうね。私は、本当に彼の印象が忘れられないんですよ。冬矢君のあの時のさりげない中で、しっかりした思いと優しさ、礼儀正しさに正直、ショックを受けました。どうしてなのかも私自身わからないのですが」
「確かに冬矢君、彼は不思議な魅力があります。私も楽しみにしているんですよ。親心ですよ、うふふ」
私が笑うと
「アハハ、確かに。若い人にいろいろ教わりますね。意固地なカチカチ頭では駄目ですね。古い考えや時代は終わる時なのかもしれないですね」
そう言って、闇夢さんも笑った。
「あ、ママさんもコーヒー飲んで」
慌てて言う闇夢さん。
「ありがとうございます」
私は、嬉しそうにコーヒーを入れた。
それから、闇夢さんと、どのくらい話しただろう。闇夢さんはまた黒いダウンを着て、そして、帰り際に〈10万円〉を置いて行った。
「あの、これ」
私が聞くと
「これで、彼の開店祝いの彼が好きな真っ白い花をお願いします。後は、ママさんのドレスでも買って下さい、アハハ」
「でも」
私が言うと
「お金は私のものです。私が大切な誰かの為に使うのも、私の自由です。彼に逢ってからお金というのは、誰かの笑顔の為に使うのが幸せなんだと思うようになりました。ママさんや彼からはこんなお金以上のものを貰ってます。そして、それはまた更に大きなものとして返って来るとわかりました。だから、受け取って下さい。私は嬉しいんですから」
闇夢さんは、そう言ってにこっと笑って帰って行った。
確かに、初めて入って来た時は、ちょっと難しそうな雰囲気だったような気もする。
だけど、今は本当に優しい闇夢さん。
私自身、闇夢さんがそんなに冬矢君に影響を受けていた事も、そこまではわからなかった。
本当にちょっとした出逢いが、人生までも変えてしまうという事。
仕事でも、何だか不思議なくらい部下、社員と楽しくやれた事を闇夢さんは話したかったのだろう。
そして、きっと冬矢君に話したかったのだろう。
またきっと、ここで逢えるから、私も楽しみにしていたい。
本当に、本当に、出逢いって不思議で面白い。
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