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【ビブリオバトル日本一がガチで30日間本紹介してみた】3日目『うえから京都』

 みなさんに問題です。日本の首都はどこでしょう?
 そう、もちろん東京ですよね。ですが、この本でそれが変わるかもしれません。今日は、誰も見たことのないであろう首都移動の物語を紹介します。


首都を西へ!?

 今回私が紹介するのは篠友子作、『うえから京都』です。
 さて、この本の舞台はアフターコロナの社会。まさに今のリアルな日本を背景に、遷都というとんでもないテーマを描いた奇想天外なフィクション小説となっております。

 さて、現在の首都・東京は世界に誇る大都市ーーではありますが、皆さんはこう感じたことはありませんか?
 「東京には人が多すぎる」と。
 どこもかしこも「密」「密」・・・異常な人口の密集を始め、このパンデミックを通して東京においてさまざまな問題が見つかったはずです。

 さあ、この物語の中でその状況を危惧したのはかつての都・京都。
 「このまま日本を東京に任せてはいられない。」「首都を西に移そうじゃないか。」
 そう京都府知事・桂が白羽の矢を立てたのは、高知県庁職員・坂本龍子。そう、この本はただの政治小説なんかじゃありません。現代社会を舞台にしながら、幕末の人物をモチーフとした政治家たちが首都遷都に駆け回るーーすなわち、過去と現在を融合させた奇想天外な一冊となっています。

「京都が眠りから覚めるんです。東の京都は偽物。本丸の京都が動くときや。」

京都府知事・桂大吾のセリフ

『うえから京都』:関西人なら読むしかない!

 さて、政治の世界で「交渉人」と呼ばれる龍子を中心に京都、大阪、兵庫が一丸となる・・・はずでしたが、ここで出てきてしまうのが各府県のクセの強さです。

 何を隠そう、本書のタイトルの意味は「うえから目線の京都」。気位の高い京都にすぐに噛みつく大阪、それをあくまでも冷静に取りなす上品な兵庫といった各地域の特徴が上手く描かれています。
 因縁の京都VS大阪のマウントの取り合いに始まり、遷都同盟に入れなかった滋賀・奈良のやっかみなど、関西人なら共感間違いなしのブラックユーモアが散りばめられているのがこの本の見所の一つ。

画像:Amazon.com

 遷都と聞くとお堅い政治小説をイメージしてしまうかもしれませんが、「京都に都を戻しましょ」「琵琶湖の水とめたろか」など、まるで某番組(秘密のケンミンショー)を見ているかのような、ローカルな掛け合いに溢れた一冊です。

 いつも(愛を込めて)イジり合っている関西府県がいかに手を繋いでいくのか。政治をテーマにしながらも、こんなにも関西圏の地域性・人間味をコミカルに描いた作品は他にありません。その意味で、この本は大人が真面目に遊び抜いた一冊といえるでしょう。

パロディなんかに興味がないという人へ

 さて、ここまで聞いてきた感じ、なんだかこの本はエンタメに全振りしているように聞こえますよね。だから、もっとゴリゴリの政治小説が好きだという大人の方は少し物足りないと感じているかもしれません。

 しかし、ご安心ください。序盤は関西圏の確執に足踏みをしていた京阪神でしたが、物語が進むにつれていよいよ首都遷都計画が現実のものとなっていきます。

 そして物語の第五章、京阪神が東京に乗り込み都知事に対峙するシーンは手に汗握る名場面です。令和の龍馬である坂本龍子が東京都知事に投げかける言葉の数々は、まるで私たちがコロナ禍で感じていた不安や不満を代弁してくれているような痛快さ、そして爽快感があります。

 産経新聞のインタビュー記事で、作者の篠友子さんは以下のように語っていました。

「(コロナ禍の)政治の無策にこの国は大丈夫か、このぐらい大胆なことをやらないと変わらないと思った。セリフの中に、国に対する疑問がにじみ出ているかもしれない」

産経新聞「ザ・インタビュー」より

 つまり、この作者が一番描きたかったものは関西圏のローカルネタ・・・ではなく、現代の日本社会は変わらなければならないという警鐘だったのではないかと思います。それを、幅広い世代の方に受け取ってもらえるように、「京都の気位の高さ」というコミカルな要素を混ぜ込んでこの一冊をつくりあげたのかなと思います。

 そういったメッセージ性があるからこそ、ただのエンタメ小説として終わるのではなく、きちんと政治小説としてのインパクトも残してくれる充実した一冊となっています。

ここが面白い:圧倒的な臨場感

 この本はエンタメ小説、そしてフィクションに分類されます。
フィクションの弱みというのはひとつ、現実味がないがゆえに臨場感がなくなってしまうというもの。
 この定石から考えると、この『うえから京都』も臨場感に関しては少しかけるところがあるかもしれません。

 ただ、このセオリーをひっくり返したのがこの一冊。
 現実離れした「首都を変える」というストーリーがこんなにもリアルな時代背景をともなって描かれたとき、フィクションの定石が崩れます。

 また、大阪府の吉岡知事東京都の池永小百合知事など、あの人をモデルにしたとしか思えない人物が登場しますが、それもこの本の素晴らしい仕掛け。この物語に現実味を持たせるために、あえて誰もが実際の人物をイメージしてしまうようなあからさまなネーミングにしているのです。

 完全なフィクションでありながら、「ひょっとしてあるかも」と思ってしまうユーモアと皮肉に溢れたこの一冊。
 果たして京阪神は首都の遷都を成し遂げたのか?
 関西出身の方も、そうでない方も、ぜひ手に取ってみてください。

「なめたらいかんぜよ!」

池永都知事へ怒る坂本龍子のセリフ


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