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『市子』

この年末に、観たい映画がドドっと来ています。

『PERFECT DAYS』、『王国(あるいはその家について)』、『枯れ葉』、『ファースト・カウ』、そして、『市子』

今日は、『市子』を鑑賞。

過去に犯罪を犯した人が名前を変え、別人として生きてきて、失踪して、その近しい人が過去を追うという構図の物語は、過去何作かあります。

近い感じの作品で言うと、ヴェネツィア、釜山、カイロで高い評価を受けた『ある男』。
(『ある男』は、親が犯罪者で、その事実から逃げるために戸籍を他人と交換していました。)

『市子』も、それに負けず劣らずの凄い映画でした。

何と言っても、杉咲花さんを筆頭に、キャストの皆さまのお芝居がとにかく素晴らしかった。

もう、芝居というより、とにかく映画の中を飛び越えて来るくらい、全員「生きて」いました。

いや、それが芝居の神髄とも言えるのですけど。

市子が心の限界を超えてしまって、泣きながら笑う所とか、観てるこっちまで魂が震えました。

自分が何者であるか、本当の自分は何なのか、わが身を引き裂かれたような感覚をずっと抱えたまま、それでも夢を持ち、幸せを知り、幸せになりたいと思ったが、それは叶わないと知った上で、それでも生きていく姿を全身で演じ、生きていました。

凄まじかったです。

中村ゆりさんも、僕がよく目にするのは、どこかのほほんとした雰囲気の役が多いのですが、今作では、体全体から、「人生に疲れ切っている」雰囲気を醸し出していて、目の動きひとつ取っても、その人の人生が垣間見えて、凄かったです。

若葉竜也さんは、お名前は存じていたのですが、恥ずかしながら今作でやっとお芝居をじっくり拝見させていただきました。

全体的に、とても地に足のついたブレないお芝居で、この言い方が適切か分からないのですが、「安心して観ていられる」お芝居でした。

特に、市子の過去を聞いて涙を堪え切れずに嗚咽するシーンが凄かったです。

確かに、泣く芝居というのは難しいです。
でも、ただ泣ければいい、という訳でもありません。

きちんと感情が伝わるか。

このシーンは、さきほども書いたように、「市子の過去を聞いて涙を堪え切れない」シーンです。
泣こうとしているのではないのです。
辛い過去を生きてきた市子を思うと、堪えようとしても、抑えようとしても、涙が堪え切れないのです。

市子への思いがめちゃくちゃ伝わってくるお芝居でした。

森永悠希さんは、これも僕が目にするのは、ちょっとキモい感じのする役が多いようなイメージで、ただ、今作では、「キモさ」と「純粋さ」が絶妙なバランスで混ざり合った、今までとは少し違った人間味の増したお芝居だったように感じました。

市子に対する好意は純粋なものだけど、その表現がどこか歪んで出てしまう塩梅を見事に演じ切られていたと感じました。

宇野祥平さんもさすがの存在感で良かったのですが、もっと話に絡んでくるかなと思ったら、そこまででも無かったのがちょっと残念でした。
単純に、もっと見たかったです。

僕が今年観た映画の中では(少ないですが…)、とにかくキャストのお芝居が素晴らしくて、こんなに登場人物が生きていると感じられた作品は久しぶりでした。

市子が、この世界のどこかに存在しているのではと錯覚するほどでした。

物語も凄いですが、個人的には、とにかく「人間」を撮ろうとしている姿勢を強く感じました。(間違っていたらすみません…)

そして、観ていて、「ああ、もっと自分も芝居が上手くなりたい。映画の中で生きていたい」と強く思わされました。

たぶん、今年最後の映画鑑賞。

とても良い刺激をいただきました。

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