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PwCの『2024年地政学リスク展望』を読んで。

自分はこの分野の素人なので、あまり主観は述べず、主にレポートや、外部サイトの抜粋となります。


PwC Japanグループは12月、『2024年地政学リスク展望』をまとめました。
企業が、これらのリスクに対し先手を打つには、その底流を流れるトレンドの理解が重要だと訴えています。底流を分析すると、「米国のパワーの相対的な低下」がリスクの根源にあるという結論に行き着くようです。

3大トレンドと10大リスク

目まぐるしく変化する地政学リスクを把握するためには、国際情勢を形作る潮流を理解することが必要なようです。
具体的には、「パワーバランスの多極化」「グローバル経済の細分化」「デジタル経済の断片化」という3つのトレンドが存在。

出典:PwC Japanグループ

本レポートではここから各リスクについて細かく論じられているのですが、今回は特に、パッと見てわからなかった表の中の太字について追加リサーチしてみます。

なお、文中の”本レポート”とは、『2024年地政学リスク展望』を指します。
また、(p.~)は『2024年地政学リスク展望』の該当ページを指します。

パワーバランスの多極化

① 米国大統領選 ー貿易戦争の再発?環境対策の停滞?

貿易戦争について、以下のように説明があります。(p.6)
自国経済の保護を最優先する姿勢が、中国だけでなく第三国にも影響を及ぼす可能性が示唆されています。

ただしトランプ政権の場合、輸出・投資管理などさらなる対中規制を単独かつ急進的に強化し、日本など同盟国の企業の利益が十分に考慮されない可能性があります。通商政策でも、超党派の反グローバル化勢力を背景に両者は保護主義的措置を継続し、環太平洋パートナーシップ(TPP)への復帰を見送ると思われます。ただし、全ての国からの輸入に対する関税賦課を選挙公約とするトランプ氏の場合、貿易戦争が再加熱し、インド太平洋経済枠組みなどの地域外交が停滞する恐れがあります。

”第三国への不利益”がイメージできなかったので、ChatGPTに聞いてみるとこのように挙げてくれました。正しいのかはわかりません。

「日本など同盟国の企業の利益が十分に考慮されない可能性」について具体的な例を挙げると、以下のようなシナリオが考えられます:

高関税の適用: 米国が中国に対する貿易政策の一環として高関税を適用する場合、これが間接的に日本企業に影響を与える可能性があります。例えば、日本企業が中国で製造した製品を米国に輸出する際、これらの製品に高い関税が課されることになります。これは日本企業の競争力を低下させ、利益に悪影響を与える可能性があります。

輸出・投資管理の強化: 米国が対中政策の一環として輸出や投資に関する規制を強化する場合、日本企業が米国に対して行う輸出や米国内での投資活動が制限される可能性があります。これにより、日本企業が米国市場でのビジネス展開や成長機会を逃すリスクが生じます。

技術移転の制限: 米国が中国との技術競争を理由に、特定の高度な技術の移転や共有を制限する政策を採用した場合、日本企業が米国との共同開発プロジェクトや技術提携に影響を受ける可能性があります。これにより、日本企業のイノベーションや技術進歩が妨げられる恐れがあります。

これらの例は、米国の一方的かつ急進的な対中政策が、日本を含む同盟国の企業に予期せぬ経済的挑戦をもたらす可能性があることを示しています。

また、”全ての国からの輸入に対する関税賦課を選挙公約とするトランプ氏”については以下に記載があります。

https://www.washingtonpost.com/business/2023/08/22/trump-trade-tariffs/

次に環境対策の停滞について。ただ、こちらについては急転換があるわけではなさそうです。(p.7)

内政では、バイデン氏が環境保護や労働者を重視した政策を継続する一方、トランプ氏はこれら施策を大幅に転換するでしょう。気候変動をめぐっては、トランプ氏が自動車排ガス規制などバイデン政権の行政権に基づく措置を覆す恐れがあります。しかし、バイデン政権下で成立したインフレ抑制法を受けたクリーンエネルギー新規事業の多くが共和党寄りの州で実施されていることから、これら事業への政府補助金などが削減される見込みは薄いでしょう。

米国選挙の行方は国内外に多大な影響を与えるため、日本企業においてもその動向や影響に注視が必要です。選挙動向の把握に加え、選挙結果の影響分析と事業計画への反映、選挙後におけるロビイングなど積極的な対応が求め られます。

② 台湾情勢 ー偶発的衝突?強制的平和統一?

偶発的衝突について、その言葉事態の定義を述べた記事は見つけられませんでしたが、以下記事にあるように「制御がきかない」展開を言っているようです。(個人的にはどこまで行っても偶発的ではないのでは、と思ってしまうのですが…)

台湾の邱国正国防部長(国防相)は23日、中国軍が台湾周辺で活動を活発化させていることについて「制御がきかない」展開に陥り、偶発的な衝突を引き起こす危険性が高まっているという認識を示した。

強制的平和統一については、次の記事にも詳しくまとめられています。

下部には日本企業への影響、特に強制的平和統一に向けた行動が開始された場合、中国に対する西側による経済制裁の発動可能性や、それによるサプライチェーンなどが非常に脆弱な状況にさらされるリスクが記載されています。
また日米同盟の存続にも言及されており、誰も無関係とは言えない問題となりつつあるようです。

いずれの候補者が当選しても、中国は全面侵攻による武力統一ではなく強制的平和統一(軍事的圧力を背景に台湾に統一を認めさせるもの)を推進することに変わりない。企業には強制的平和統一のシナリオについても検討が求められる。

強制的平和統一に向けた行動が開始された場合、中国に対する西側による経済制裁の発動が予想されます。統一後の台湾は現在の国家安全維持法の下にある香港と同様の状況になる可能性もあり、米国による対香港制裁と同様の制裁が台湾に科せられる可能性や、台湾における外資企業の活動が制約される恐れがあります。一方で中国側が台湾を統治することになれば、台湾で生産するハイレベル半導体の対外輸出規制を導入することも考えられます。

またさらに、どのような形の統一であれ、日本の安全保障環境そのものが大きく変化します。統一後、台湾における人民解放軍の配備が進むと、中国は日本のシーレーンを遮断する能力を獲得するでしょう。そうなると、中東からのエネルギー調達やアジアでのサプライチェーンなどが非常に脆弱な状況にさらされるリスクがあります。それだけでなく、日米同盟を継続できるかが議論になるなど、これまで当然の前提とされてきたマクロ環境に疑問符が打たれることとなるでしょう。

③ ポスト•ウクライナ紛争 ー欧州安全保障の在り方?

本レポートではあまり詳しく言及されていないため、外部記事を参照します。

そもそも欧州安全保障協力機構(OSCE)とは、欧州、中央アジア、北米の全57か国から構成され、安全保障課題に対して、政治・軍事、経済、環境、人権といった包括的アプローチにより取り組んできた地域機構です。

この記事にあるように、仲介役としての存在意義はありつつも、紛争予防の制度上の問題、実効性の問題などについて議論されているようです。

https://spf.org/iina/articles/matsu_01.html

④ グローバルサウスの第3極化 ーグローバルサウス?

日経に分かりやすい説明がありました。ただ定義について、岸田文雄首相は2023年1月に「グローバルサウスに固まった定義はない」と述べているようです。

ウクライナ情勢を巡り欧米各国とロシアの対立が深まるなか、国連決議などの場面でグローバルサウスの動向が注目されていることから、最近”グローバルサウス”のワードを目にする機会が増えたようです。

グローバルサウス 南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称で、主に北半球の先進国と対比して使われる。世界経済における格差など南北問題の「南」にあたる。実際に領土が南半球に位置しているかにかかわらず、新興国全般を意味する場合が多い。冷戦期に東西双方の陣営と距離を置いた「第三世界」を表現するときにも使われる。

これまで世界の覇権を握り、国際秩序を主導してきた欧米諸国を含む西側陣営は、今後国際社会での影響力が相対的に低下する一方で、グローバルな課題解決のためには グローバルサウスとの協調が不可欠となり、彼らの声に真 摯に耳を傾けないといけなくなるでしょう。

日本企業においても、大国間競争と一線を画しているがゆえに米中対立などのリスク回避先としての魅力を持ち、人口、経済成長、資源などの観点から長期的な成長も見込めるグローバルサウスでの事業機会の検討が重要となる でしょう。(p.10)

グローバル経済の細分化

⑤ 西側諸国のデリスキング政策 ーデカップリング?デリスキング?

まずは言葉の定義から。

▼デカップリング 国や地域間の投資や通商を規制で阻害し、連動させない動きのこと。「経済分断」と訳すことが多く、米中対立の文脈でよく使われる。2018年、トランプ政権下の米国が中国製品に高い関税を課し、中国が米国製品への課税で報復したことで米中貿易戦争が勃発。経済安全保障を優先するバイデン政権も半導体など先進技術の輸出規制や、自国での生産を促す法制度の導入を進め、米中の分断が深まった。

デリスキングとは、先端技術分野で中国の能力を制限すること、混乱に備え中国とのサプライチェーン(供給網)を複線化すること、必要不可欠な原材料での中国支配を弱めることなどを意味する。

いずれも対中国という観点で似たイメージを受けますが、”分断”と”リスク低減”の差分は以下記事がわかりやすく説明してくれています。国家安全保障上の話とサプライチェーン脆弱性の話、毛色は少し異なるようです。

アメリカは国家安全保障の核心をなすAIなどの機微技術、これを支える最先端技術については、「小さな庭と高い塀(small yard and high fence)」を原則に厳しく管理する。これが「デカップリング(分断)」である。あくまで国家安全保障上の措置で、中国との通商を断絶するものではない
〜中略〜
つまり、ごく単純化すれば、「デカップリング」は国家安全保障のための政策「デリスキング」は国境を越えて展開するサプライチェーンを守り、強靭化し、特定の国の経済的威圧を抑止するための政策である。目的が違えば、政策措置(手段)ももちろん違ってくる。

ではなぜ、デカップリングからデリスキングへ移行しているのか?については、以下記事から読み取ることができます。
EUや日本をはじめとし、各国はやはり中国とは経済的に切っても切り離せない状況にあります。そのため断絶はせず関係維持しつつも、経済的強靱性のためにリスクは低減しようという思惑のようです。つまり、対中関係を安定させた上で、半導体などの分野で対中依存を減らしていく考えです。

また、ロシアとの対比で、中国は”対話は可能”な国とも語られているようです。

これに対し、本レポートでは「重要物資の代替調達先や、戦略在庫や供給網 の複線化、部品・材料の共通化などの緩衝材はあるか」を検討すべきことの一つに挙げています。(p.26)

しかし、約3割前後が「取引先・原材料・部品などのサプライチェーン情報を管理するシステムがない」、管理システムはあるものの「2次取引先以降の情報を把握していない」「頻繁な仕様変更などにより現状と乖離がある」といった現状のようです。サプライチェーンの可視性を得られず、正しい状況 把握が困難な現状がうかがえます。また、戦略的備えに起因するコスト増分の価格転嫁に対して、顧客やサプライヤーからの協力が得られないことや、対応コストが高いことを対応のボトルネックに挙げる回答も1~2割存在し、必要な対応と足元の利益確保の板挟みになる苦しい状況が浮き彫りになっています。(p.27)

⑥中国の非市場的経済行為?

ここは簡単に、p.12から抜粋するのみにとどめたいと思います。

習近平政権以前から、中国では政策の不透明性や、外資企業に対して差別的取り扱いを行う産業補助金優越的あるいは特別な取り扱いを受ける国有企業の存在およびその数の多さ、市場参入に関する制限・ルールの恣意的な運用、 資源配分における中央政府と地方政府の権限の強さなど非市場的経済慣行が存在していたと、中国内外から指摘されています。

〜中略〜

中国はますます対外依存を減らし、科学技術やエネルギーなどあらゆる重要分野での「自立自強」を図ろうという意志を強めています。そのため、半導体分野などを中心に重要分野での産業補助金は大幅に増額され、 イノベーションにおける国有企業の役割が民間企業よりも重視されるようになりました。また、既に中国企業がコア技術を手に入れた分野では外資企業を排除する動きを強め、逆にまだ獲得していないコア技術がある分野では外資企業からの技術移転を図るなどの施策を強めています。

⑦ グリーン鉱物の争奪戦 ーグリーン鉱物?

各国がクリーンなエネルギーシステムへの転換を進める中、電気自動車(EV)や蓄電池、風力タービンなどに使用されるリチウム、コバルト、ニッケルなどの鉱物の重要性が高まっています。これら重要鉱物を、本レポートではグリーン鉱物と呼んでいるようです。

その重要鉱物の採掘や製錬が、一部の国に偏在しているリスクが指摘されています。その状況を以下記事が解説しています。

現状では重要鉱物の採掘や製錬は一部の国に偏在しており、採掘において上位3ヶ国のシェアはリチウムとコバルトで各々80~90%、ニッケルで65%にも及んでいる。
製錬の段階においては中国が存在感を示しており、リチウムとコバルトでは全体の65~75%を占めている。さらに中国は採掘への投資も活発化させている。CMOCや浙江華友など中国主要鉱業企業の2022年の投資額合計は、前年比でほぼ倍増した。

出所:国際エネルギー機関(IEA)から丸紅経済研究所作成

この、グリーン化に向けた中国の存在感を、ある記事では「グリーンに向かうほど赤に染まる」と表現しています。

中国以外にも、資源の国有化や輸出制限などの保護主義的政策を取る資源国は近年増加しているようです。こうした政策によって鉱物の流通量が増減すれば、鉱物を直接 取り扱う企業だけでなく、サプライチェーン上の広範な企業にも影響が及びます。

次にどの国が何を対象に輸出規制を課すか、制度執行時に自社の調達がどの程度影響を受けるかは事前に把握しにくく、リスクと影響の測定や代替策の検討を進めておき、臨機応変に対応していくことが肝要とのこと。(p.13)

また、これに続けて
・豪州・カナダといった同志国、さらに東南アジア・中南米・アフリカの資 源国との関係強化などで資源確保
・鉱物の調達を行う企業においては調達の多角化を模索
・必要資源量を低減するための技術開発を進め、使用済み製品の回収と鉱物のリサイクルを強化
なども取り組まれているようです。

しかし最後に、これらの政策が進んでも、将来にわたる必要量を満たせるかの確証はなく、重要鉱物の安定調達にかかるリスクは大きい状態が続くだろうとまとめられています。(p.13)

興味がある人向けに以下も。


デジタル経済の断片化

⑧は割愛。


⑨ エマテク規制競争 ーエマテク?

AIなどの新興技術、emerging technologiesを略して『エマテク』と呼ばれています。地政学リスクの文脈では、ルールメイキング競争の仕組みを理解し、規制遵守のみならず規制策定に参画することが求められると解説されています。(p.16)

そのルールメイキングの動きでは、EUのAI法が有名です。世界初のAI包括規制法案として、違反企業に制裁金…最大55億円か世界売り上げの7%といったかなりインパクトの大きい内容です。

生成AIの基盤モデルを開発する企業には、市場にサービスを投入する前に、技術文書の作成やEU著作権法の順守、AIの学習訓練に利用したコンテンツの開示などが義務付けられるようです。

⑩ データ保護主義 ー対中データ規制?

ココも抜粋のみ。(p.17)

中国による技術および情報窃取への懸念認識が高まる米国においては、中国製通信機器などの政府調達や、最先端半導体、高度なコンピュータ、その製造装置についての対中輸出が規制されました。さらに、アルゴリズム、ソフトウェ ア、AIの学習データなどのデータを輸出規制の対象とすることが議論されています。これが法制化すれば、米中と事業上の関係を持つ幅広い日本企業が自社の対応を検討する必要が出てきます。さらに、米国の要請により日本でも同様の規制が行われることで、影響が広がる可能性も考えられます。

その他参考までに

他にも、この領域におけるさまざまなニュースやレポートが発信されています。

👇日本語版のPDF
https://www.eurasiagroup.net/siteFiles/Media/files/Top%20Risks%202024%20JPN.pdf

最後に

地政学リスクは、今や誰も他人事ではないテーマです。
その例として、グローバルリスクと人事戦略の関連を説いたレポートを紹介して終わりたいと思います。

価値の対立の時代に企業はどう構えればいいのか。今回の取材では「多様性」というキーワードが何度も出ました。
〜中略〜
早稲田大学大学院教授の入山章栄氏は日本企業の課題として「ボードの多様性の低さ」を挙げたうえで、ボードだ けでなく、組織の隅々までグローバルな人材を採用し、多様性を徹底していくことがリスクに強い組織になるために重要だと提言しています。 価値の時代だからこそ、企業が社会に新しい価値を提供することも求められています。多様な人材から成る組織がリスクにも強く、社会に求められる価値も提供できる。そう強く感じました。

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