衆院選の候補者アンケートを作成して感じた、「ビジネスパーソン」が政治に向かい合うことの可能性
石破内閣が発足し、衆議院の解散総選挙の日程も固まりました。
石破首相は「国民を信じない政治家は、国民から信用してもらえない」が持論です。
では、我々国民側の努力で、政治家から「より良く信じてもらう」ために何ができるのか。
今日はその観点から、前々回、2017年秋の衆院選にあたって私が行った試みについてご紹介します。
若手社会人の視点をもとに作った「候補者アンケート」
選挙の1ヵ月ほど前、私は、コンサルティングファームや総合商社などに勤務する20~30代の社会人約10人とともに、都内の研修施設にいました。
私が学生時代に所属していた学生団体で、毎年行われていた合宿に参加するためです。
この合宿は、現役の学生らがチームに分かれて立案した政策や経営戦略を発表し、卒業生の社会人からフィードバックを受けるというもので、私も卒業生の一人として審査員を務めました。
この年のテーマは「教育政策」でした。
選挙が近くなって、そのフィードバック内容を振り返り、私は率直にこう思いました。
「これは実際の政治家に伝えないと勿体ない!」と。
団体内で共有されていた合宿の動画を再生して、フィードバックの中心的な論点となった内容を抽出し、衆院選の候補者に送付するためのアンケートを作成。
結果、自民党の教育再生実行本部長を経験したA議員と、当時の最大野党・希望の党の結党メンバーであるB議員の事務所から、それぞれ1問につき200~400字程度の回答を送付いただき、その内容は団体内で共有して投票の参考とさせていただきました。
質問は計6問。
20~30年後の経済社会や労働市場の変化をどう予想し、今の公教育が対応できていない点は何か。
また、これからの時代に必要な教育内容を巡っては様々な意見がある中、国が最低限保証すべき教育内容や水準とはどのようなものか。
さらに、社会人教育について、中途採用の現場では業務外での学び直しよりも実務の経験が評価されているという実体験から、学び直しの成果はどうすれば転職市場で評価されるのか。加えて、社会人の学習を巡っては既に多くの民間サービスや企業負担の施策が展開されている中、それらと、政府や公的機関の責任で行う施策との役割分担をどのような理念で行うのか、といった点が中心でした。
言い換えれば、若手社会人らは教育政策の立案にあたってこうした点が重要と考え、かつ、学生が立案したプランは、それらを十分に考慮していなかった、ということになります。
アンケートは、衆議院の文部科学委員会に所属していた約40氏に送付し、土日を使って電話で改めて回答をお願いしました。
選挙まで時間もなかったため私個人の企画として行い、私の力不足で回答数は多いとは言えず、選挙後に何らかのアクションに繋げるにも至りませんでした。
ただ、選挙前に実施された専門家の議論の中に、こちらの「政治は社会保障問題で有効な解決策を打ち出せるのか」の座談会(言論NPO主催)があります。この議論は、社会保障で皆がどう支え合うかという「哲学」と、社会の変化を見た上でビジョンを提示する「先見性」を政治は持つべきだ、という話で締めくくられました。
政策分野の違いはあれ、日本を代表する政策研究者が政策を評価する視点と、若手社会人のそれとに、一致点が見られたのでした。
選挙公約の危機と、ビジネスパーソンが果たしうる役割
これを踏まえ、私が本稿でお伝えしたいのは、市民の中でも特に「ビジネスパーソン」が政治に向かい合うことの意味や可能性についてです。
かつて流行語大賞に選ばれた「マニフェスト」もすっかり形骸化し、今や各政党の選挙公約は、何のためにその政策を行うのかという目的や目標が曖昧な、スローガンの羅列と化してしまいました。また目的と手段の整合性や、工程や財源の裏付けにも、多くの疑問が見られます。
これでは、有権者は何を実現させるためにその党に投票するのかが全く分からず、また公約の達成度を検証して次の投票に活かすというサイクルを回すこともできません。つまり、「一人一人の有権者が自分の意思で未来を選び取る」という、民主主義の根幹を揺るがす問題が起きているということです。
第一線で活躍するビジネスパーソンは、日本や世界が将来にわたり平和で安定していることの受益者であるだけでなく、組織の問題解決や戦略立案のプロフェッショナルでもあります。そうした方々が、近年の各政党の公約をご覧になれば、普段の仕事で目にしている優れた「プラン」や「戦略」と比べて、お気付きになることが必ずあるのではないかと思います。
もちろん、前提として、それぞれの政策課題の現状に関するきちんとした知識の獲得は必要です。ただ、その上で、単に自らの主張や要望を語るのではなく、「問題解決のプランニング」という視点で政党の公約や政治家の発言を見定めていく。多くのビジネスパーソンがそうした強い姿勢を持てば、日本を取り巻く問題も改善に向かうのではないかと考えています。
選挙は、その応答性が高まるチャンスでもあります。
今回の衆院選を機に、そうした方が少しでも増えればと思っています。