2021年9月に読んだ本まとめ
ネタバレは最低限に抑えて感想を書くよう意識していますが、先入観無しで読みたい人はこの文章すら読まない方が良いかもしれません。
次々と言葉が消えていく世界を描いた実験的小説。TikTokの紹介動画がバズっていたのを見て興味を持ちチョイス。
序盤は言葉が無くなっていく様子をぼんやり楽しんでいたんですが、物語が進むにつれて無くなった言葉を補うための難解な言い回しが増えてくるので、なかなか読むのがしんどかったです。
それでも、筆者の語彙力と制約の中で戦うエネルギッシュさには脱帽。特に後半で描かれる、情交、講話、自伝のシーンは見事。
主人公に筆者の存在が強く投影されたような描写もあり、筆者の他の作品をいくつか読んでからこちらの作品を読んだ方がより楽しめるような気がしました。
「何者」みたいな本が読みたい! と読書会のメンバーに話したら、同じ作者のこちらをお薦めしてくれました。
短篇の「レンタル世界」は……さすが朝井リョウと言いたくなるような後味の悪さ。「本物の人間関係」という言葉から生じるもやもやを炙り出してくれる作品でした。
表題作「ままならないから私とあなた」は、効率性を追求する薫と効率の外にある人間らしさを大切にしたい雪子の話。二人は親友なのに価値観が違い過ぎて、いつ破綻するのか(それとも、しないのか)ヒヤヒヤしながら読み進めました。正直、単行本版はラストがあんまり納得出来なくて、加筆&修正されてる文庫版の方もすぐ読みました。文庫版は双方のエゴイズムが分かりやすく描写されていて、それでいてなんとか救いがある結末に着地していて、こちらの方が好みでした。
二人の関係を表現したこの文章が好きです。
私たちはこれまでずっと、背中合わせの状態で手をつないでいた。
文庫版で加筆されたこの文章も沁みます。
十分間の休憩も、ホットミルクも、あのときの私にはいらなかった。だけど、だからといって、いらないと切り捨てることをしないだけの想像力が、相手が大切にしているものを自分の中の正しさで排除しないだけの想像力が、今の私には身についている。
(余談。朝井リョウには「何者」で一撃喰らわせられているので、彼の作品はついつい、どこが伏線として効いてくるのかを意識しながら読んじゃうんですよね。もう素直に読めなくなっているのかもしれない……。)
節約や資産形成に詳しいブロガーが推してたのでチョイス。
70年前に書かれた本ながら、「給与はまず一定額貯金しろ!」「不景気に投資をしろ!」「雪だるまの芯をつくれ!」という現代では当たり前になっている資産形成のコツをバランスよく教えてくれます。
お金のことだけではなく、著者の人生哲学もなかなか良いです。資産形成に成功した著者は、大学で先生をしているときに学士会に大金を寄付します。しかし、「一介の先生がそんな大金を持っているのはけしからん!」という同僚から、理不尽にも退職勧告の圧力を受けます。そこで著者は、同僚に謝罪した上で弁解し、なんと和解して酒を振る舞うのです。更に、過去に自分が調子に乗って同僚に嫌な思いをさせていたことを思い出し、反省するのです。理不尽な要求に対しこれだけの心の広さをもって受け止める著者の人徳を見習いたいな、と思いました。
複雑系、進化論、ゲーム理論、脳科学、功利主義の革新的な進歩により「知のパラダイム変換」が起きたので、それ以前の古いパラダイムで書かれた本は読まなくていいよーと主張する本。
知性と論理でぶん殴ってくる橘玲氏の書籍だけあって、内容はキレキレ。5つの学問を総ざらいした上で現代の社会問題に帰結する構成は、シリアスなのにとても面白く読めました。(多種多様な過去の知見を踏まえて「今」と「未来」に焦点を当てる流れは「サピエンス全史」に近い印象を受けました。)
あとがきの筆者からのメッセージに鼓舞されます。
若いきみたちなら、(中略)”知のパラダイム転換”を軽々と受け入れて、効率的で衡平で合理的な「よりよい世界」をつくっていくことができるはずだーーと思ったからこそ、この本を書いた